トラブル
一日悩みましたが…
【恋愛相談】は割愛し【トラブル編】を掲載します。
ホワイト家に揺れ動く起爆剤が無いと、ハンナ以外の恋が進みません!
後半、誰が行動に移すのか…
この話は深夜に読むのがオススメです
程よく酔いが回り始めたのか、相談中にも関わらず目がとても虚ろな人物がいた。
それはエミリーだ。彼女だけアルコールの耐性が強いわけではないようで、緑色の瞳が見え隠れし始めた。
「ちょっと、エミリー!ここで寝るなよ!!」
「う……うん」
返事が真面に出来ないエミリーに対し声をかけるが、理解している顔とは思えない。
「今夜はここでお開きだな」
「そうだね。エミリーは自室に連れて行けば良いかな?」
「うん。母さんが先に………あ!?」
急に大声を出し焦り始めたジェイク。
『どうするんだ、この場合…』
任された部屋割に問題があることに気付いたが、対応術が無く兄姉の顔を見るしかなかった。
突然何に対し焦り悩みだしたのか、兄2人には全くわからなかった。一方のエミリーはアルコールによって、感情の読み取りも遮断されているようだ。
「自室とは違う場所?」
「いや…違わないけど、違うんだ」
「それは答えになってないぞ」
「エミリーは自室がベストだと思うよ」
「そうなんだけどさ…ちょっと待って!考えるから」
「??」
ジェイクの当初の予定はこうだ。
ホワイト家には
【両親の寝室】
【ジェイクの部屋】
【エミリーの部屋】
【来客用の部屋】
以上、4種類の部屋がある。
エミリーの部屋には母フローラとエミリー
ジェイクの部屋には自分
両親の部屋と来客用の部屋は父と兄2人で相談して、それぞれ1人1床ずつ割り振れば全員問題無く眠れる…はずだった。
「父さんと母さんは何処で寝てるんだ?」
「2人とも自分たちの寝室に向かったよ」
「…なるほどな、1人だけソファになるのか。疲れが取れんな」
「ん?……ああ、そうか!そうすれば良いのか!!」
アルクの一言で悩みは解決したようだ。一人がリビングのソファを使えば良いだけのことだったのだ。そう、ジェイクはエミリーの部屋に2人分の枕をセットした為に【2人が同じベッドで寝る必要がある】と先入観を持っていたのだ。先程まで考えていた兄姉や兄同士の組み合わせを全て取っ払った。
「そうじゃないのか?俺の帰宅が遅くてこんな事態になったから、俺がソファで寝るさ」
「でも、今日の残務で疲れたでしょう?僕がここで寝るから、兄さんはベッドを使えば良いよ」
兄2人がお互い譲らないところに、末っ子の意地でジェイクも割り込んだ。
「ちょっと待って、兄さんたち!こうなったのは俺が言い忘れていたのが悪いんだ。2人は久々に帰って来たんだから、ベッドで寝てよ!」
「ふぁい…寝ますぅ」
後ろからやる気の無い声が聞こえた。座っていたエミリーが自分に注意されたと勘違いをして返事をしたのだ。
これには言い争いも静まるしかない。
「ふふ、我が家のお姫様もそう言っているから、今日は遠慮なくベッドを使おうよ。良いよね、兄さん?」
「ああ、お前たちが納得するならそれで良い」
『危なっ。出世頭である兄さんたちをソファなんかで寝かせたら、父さんと母さんから何言われるか…』
ジェイクの本音は別にあった。兄弟トラブルが無事に解決して安堵したようだ。後の課題は目の前の酔った姉を、部屋に連れて行けるかどうかだけだった。
「エミリー?歩けるか?」
「馬車ぉ、呼んでくださぃ…」
「駄目だな、これは」
「ふふふ」
問いかけに対し斜め上の返事をしたエミリーにジェイクとアルクは呆れ、クリスだけは微笑んでいた。ジェイクは諦めた。
「仕方ない、よいしょっと!」
掛け声と共にエミリーの体は宙に浮いた。ジェイクがエミリーを抱きかかえて持ち上げたのだ。女性がお姫様抱っこをされるのは、子供の頃なら馬車に乗り降りする時によくされるが、大人の女性ではそのような機会はまず無い。あるとすれば、雨が降った後ドレスやワンピースが汚れるのを防ぐ為、殿方が抱きかかえる時だろう。
酔って馬車を呼んだエミリーに対し、面倒だったジェイクは馬車の場面に付き合ったのだ。
「馬車に乗るぞー、しっかり捕まれよ」
「う…うん?」
「おい!馬車を呼んだ本人が疑問形になるなよ」
「ジェイクも…鍛えていたんだね」
「まあね、俺はまだブライト家の支援を受けているからね」
ブライト家の支援を受けているということは、兄達同様にジェイクも馬術や剣術を学んでいるという意味だ。馬や剣を扱うにはかなりの力が必要になるため、物を持ち上げたり運ぶのは手馴れたものだ。
ただ兄2人からの視線が何故か鋭い。クリスに至っては目が笑っていないので、更に恐ろしい。
「あの…部屋に連れていきます」
思わず敬語を使ってしまったのは、2人が放つ雰囲気からだろう。3人で部屋へと向かうが、エミリーの部屋に着く前に来客用の部屋を通った。「俺はここを使う」と伝え、アルクは部屋に入った。「おやすみ」と言葉を交わした2人は奥にあるエミリーの部屋へと足を進めた。
「ごめん兄さん、ドアを開けてくれる?」
両手を塞がれたジェイクには部屋のドアを開けることが出来ず、クリスに頼むしかなかった。
【ガチャ】
ドアが空きエミリーの部屋に入ろうとした瞬間、後ろから「ねぇ」と声が聞こえ、思わず振り返った。
「僕はジェイクの部屋を使うけど…間違いを起こすなよ」
最後に笑顔で「おやすみ」と伝えて隣にあるジェイクの部屋へと去って言ったが、命令口調のクリスは本当に恐ろしかった。脳裏に【間違いを起こすなよ】の言葉が何度も再生される。
『クリス兄さんは怒らすと危険だ』
早くエミリーをベッドに寝かせて、部屋から去ろうと決意した。
「エミリー、部屋に着いたからここで寝て」
身体をベッドへと下ろし、離れようとしたが…ここで問題が発生した。エミリーの手がジェイクのシャツから離れないのだ。それは自分の体が落とされないようにと本能的に握っていたからだろう。
「ちょっと、エミリー!手を離してくれ」
「…い……やぁ…」
「嫌じゃない!駄目だ!俺が兄さんに殺される」
【ギュッ】
戸惑うジェイクにお構いなく、エミリーは更に指に力を加えた。これにはジェイクもお手上げだった。
暫く考え込んだ後、声を上げ開き直った。
「そういうことなら…わかったよ、エミリー!俺、どうなっても知らないからな!!」
捨て台詞のような言葉を吐き出ていくと思いきや、ジェイクはベッドに乗りエミリーの顔を上から覗き込んだ。
『兄さんが言った【間違いを起こすな】は俺達が実の双子ではないことをわかっている証拠。だから念を押したんだよな』
この状況でも冷静に分析出来るのは、彼の長所でもある。
『ただ、これはエミリーが誘ってきたんだ。俺の責任じゃない!』
安直に責任転嫁をするところは、彼の短所だろう。
目の間には双子の姉が自分のシャツを握りしめて寝ている。同じような場面に出くわした学友から聞いたことがある。
【It's time to set in when the oven comes to the dough】
直訳すると
【据え膳食わぬは男の恥】
さらに伝わりやすく表すと
【女性が迫ってきたら男女の仲になれ】ということだ。
ただ、内心ではかなり困惑している。血は繋がらなくても、世間的にはジェイクの姉だ。男女の仲など家族を含め許されるはずがない。だが、彼の中で答えを見つけたようだ。
『俺は男だが…』
「エミリー、ごめん。これが限界」
ジェイクはエミリーの髪を上げ、左の首筋にキスをした。軽い挨拶のようなキスでは無く、自分の印を付けたのだ。「ん…」とエミリーから声が漏れ、ジェイクの心臓の鼓動が高まった。高揚感、背徳感からだろう。
「やばっ。俺…明日からどうしよう」
そんな悠長なことを考えながら、エミリーの左側へ寝転んだ。高まる鼓動はすぐに静まる気配は無いが、目を閉じ眠る姿勢に入った。
昨日アップ出来なかったのは、この【トラブル】が長かったからです…
待ってて下さった読者様、申し訳ありません。
またジェイク推しの皆様、彼の中心回でしたがいかがでしたでしょうか?夜中の方が読み応えがあります!
あ、彼の性格を一言付け加えるとしたらコレですね。【ヘタレ】