彼女の名はエミリー
ご覧いただきありがとうございます
エミリーを小説内で大事に育てていきますので、彼女や兄弟たちが何を守っていくのか、読者様も温かく見守っていただけると幸いです。
夜風が寒くなり始めた季節のこと
雑貨屋を営む夫婦の玄関付近から、不思議な声が聞こえてくる。少し泣きそうで寂しそうな赤ん坊の声…夫婦が確かめる為に外へ出ると、おくるみに包まれた赤ん坊がクーハンの中に寝かされていた。
「なんて酷いことを」
2人は躊躇うことなく、玄関前にいた赤ん坊を家に迎え入れた。雑貨屋を営んでいるため、赤ん坊用の哺乳瓶や玩具などはすぐ用意できるが、残念ながらミルクは調達しないといけない。
「明日も配達があるからな…店を空けるわけにもいかん。2人に事情を話して、手伝いを頼んでみるか」
「そうね、この子の準備をしなくちゃね。急に妹ができて驚くかも」
「え、女の子か!?」
「そうよ〜身体に異常が無いか確認したけど、2人に付いているアレは無いわよ」
「そうか、娘か!大切に育てないとな!」
「うふふ、大変だけどお腹の子とも仲良くしてね」
赤ん坊を家族に迎えてから20年過ぎたころ
雑貨屋【Angel's window】には看板娘のエミリーがいつもお店で働いている。エミリーと一緒にお店で働くのは彼女の両親である、父親のケビン・ホワイトと母親のフローラ・ホワイト。
「じゃあ、商品をブライトさんの所へ届けてくるよ」
「いってらっしゃい、パパ」
「気をつけてね」
エミリーとフローラがケビンを見送るが、これはよくある日常。特別不思議なことでないようだ。
【ドタドタドタ…ガチャ】
「ハァーハァーハァー…ただ…い…ま…」
一人の青年が息を切らせて入ってきた。彼は店内の床に座り込む。
「母さん、ごめん。水ちょうだい」
渇いた喉と疲労感ですぐ水を要求する。
「はいはい、ちょっと待っててね」
これもいつものことなので、特に気に留めない。フローラは頼まれたとおりに水を取りに行く。
「あ!エミリー」
「なあに?」
何かを思い出したように、青年は問いかけた。
「明後日、ブライト家でパーティーがあるの知ってる?」
「もちろん、知っているわ。今パパがその準備の品を届けに出発したから」
「何だよ〜知ってたのかよ。つまんねーの」
「うふふ、ジェイクはまだ子供ね」
子供扱いされ不貞腐れた青年の名はジェイク・ホワイト。そう彼はエミリーを見つけた時にフローラのお腹の中にいた赤ん坊…つまりエミリーの弟だ。見た目は好青年だが、末子ということもありまだ幼さも残っている。2人は年齢近いこともあり、ジェイクは「姉さん」とは呼ばず、呼び捨てで普段から名を呼んでいる。
2人の異なるところといえば、ジェイクはまだ大学生で勉学に励んでいる点だ。
エミリーは高校卒業後、両親の仕事を手伝いを始めたため、大学にも職業訓練所にも通っていない。それは両親の意思ではなく、彼女の意思で決めたことだった。