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奴隷少女と奴隷紋

 「大丈夫、君はもう奴隷なんかじゃない」


 「え? どういうことですか?」


 額の奴隷紋が無くなっていることを伝える。

 場に少しの静寂が訪れた後、レイと名乗る少女は戸惑いを見せる。

 恐らくステータスを確認したのだろう。

 奴隷ならばステータスの状態の部分に『奴隷』と表記される。


 「本当だ……でもどうして?」


 「スキルで盗んじゃったみたい」


 え? という表情でこちらを見てくる少女。

 俺自身信じられない状態なのでこういう反応をされるのが当然か。


 スキル《盗む》は相手の所持品をランダムで盗むスキル。

 対して今回盗んだ奴隷紋は本来アイテムなどではない。

 よって《盗む》では盗めないはずなのである。


 「信じられない……」


 「でも、見ての通り君は奴隷じゃないよ」


 「わ、私はこれからどうすれば?」


 未だに困惑の表情が解けない少女にお決まりの文句を言ってみる。

 できるだけ格好良く、少女に手を差し伸べ、キメ顔を決めて。


 「君はもう自由だ。好きな場所へ行くと良い」


 ――決まった。

 一度言ってみたかったセリフ。

 これは感動ものだろう。


 「それは困ります」


 え? なんて?

 ここは普通手を取って『ありがとうございます!』と眩しい笑顔を見せる場面ではないだろうか?

 しかし、この少女にはそんな笑顔など欠片もなく至って真顔でそう答える。


 掴まれることのなかった俺の手を慌てて戻す。

 思ってたのと違う展開に恥ずかしさが込み上げ、汗が出てきた。

 そして「なんで?」と聞く俺はきっとアホ面を晒しているのだろう。


 「私は身寄りがなくて奴隷になったんです。急に言われても、行くあてなんてありません」


 彼女は続ける。


 「奴隷になって買われればとりあえず食にはありつけるのに……これじゃあ困ります」


 この子にとっては奴隷は生きていく手段になっていたのだと理解した。

 前世で生きた俺には理解し難い思考だが、この世界ではこういう考えもあるのか。

 

 しかし困った。

 奴隷紋を返せと言わんばかりのこの少女。


 奴隷紋を選択すると『使用しますか?』の文字。

 呪術師でもない俺に使用できるかもということに驚くが、さすがにこの少女に使用するのは俺の道徳心が承知しない。

 希望であっても奴隷に堕とすという行為を俺はしたくはない。


 俺がどうしようと迷っていると少女が「そうだ!」と切り出した。


 「あなたのおかげで私は明日の食事にすらありつけそうにありません。寝る場所すら確保できず、この自然の中魔物に襲われ、きっと死んでしまうのでしょう。それもこれもあなたが奴隷紋を盗んだからです!」


 ここぞとばかりに俺を責める少女。

 この後の展開はもうわかっている。

 そして彼女はお決まりの文句をいたずらを含んだ笑みで口にする。 

 

 「ですので、当然……責任! 取ってくださいますよ、ね?」


 その笑顔に目を奪われた俺にもはや拒否するという選択肢はなかった。

 「はい」と力ない声が俺の口から漏れる。


 「良かった! それじゃあよろしくね」


 すぐに視界に『パーティの招待があります』と表示される。

 それを許可するとパーティ欄にレイ=アシュリーの名前が追加された。

 

 俺はすぐにその名前からステータスを確認する。


 ――――――――――――――――――――――――――――――

 レイ=アシュリー

 レベル21 状態:健康

 HP   : 200/200

 MP   : 70/70

 攻撃力  : 15

 魔法力  : 50

 防御力  : 15

 魔法防御 : 50

 かしこさ : 25

 素早さ  : 20

 器用さ  : 20


 スキル  : なし

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 なんとも……かなり弱いな。

 正直、これからの冒険者業の力になることは考えにくい。


 でもこんな美人な子と冒険するというのは悪くない。

 むしろかなり嬉しい。


 これから一緒に冒険してあんなことやこんなことが……妄想がどんどん膨らんでいく。

 ――いやいや、そんな思考は前世に置いてきただろ。

 この世界では真っ当に生きるんだ。


 我に返りレイを見ると口を半分開け、唖然としている。


 「どうかした?」


 「どうかしたって……何このステータス……」


 あぁ、そりゃ驚くだろうな。

 この世界でレベルマックスの奴なんて俺以外にいるのかっていうぐらいだし。


 「まあ、努力の賜物(たまもの)かな?」


 嘘は言ってない。

 神に少しばかり手心を加えてもらったがこの努力は本物である。


 「努力でどうこうなるレベルじゃないと思うのですけれど……」


 当然納得できない様子の彼女だが一つ大きく深呼吸をし、続けた。


 「まあ、いいわ。強いってことは守ってくれるってことだし。それで、これからどうするの?」


 「あ、あぁ。とりあえずカルタナに戻ってゴブリン討伐の報酬を貰わないと」


 「そう、それなら早く出発しましょう。お腹も空いたわ」


 目の前に死体があるのに、なんとも図太い少女だ。

 というかなんか妄想と違う。


 賊から助けて奴隷から解放したんだ。

 漫画やゲームならここで俺に惚れてキャッキャウフフ展開のはず。

 そういう思考は捨てたと言ってもここまで違うとなんだかなぁ……。

 

 しかも食事ってこれ、当然俺のおごりだよな?

 はぁ、今回のゴブリン討伐の報酬だけじゃ赤字確定だ。

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