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影を喰らう光

 「栄光の一振り(ザ・グローリー)


 地上でオリヴィエが魔王目掛けて剣を振るう。

 しかし、その足元にも及ばない剣撃はまるで効いてないかのように消え去る。

 

 『勇者といえど、この力を手にした我の前ではこの程度のものか』


 「くっ、どうすれば」 


 嘲笑うかのように放たれる言葉。

 あの堅いゴーレムを一撃で倒すほどの剣をもってしてもほとんどダメージを与えられないというのか。


 『まったく、勇者とは情けないものだ』


 ファフニールの口から灼熱が吐き出される。

 鉤爪にぶら下がる俺にもその温度が伝わるその炎が魔王を襲う。

 しかし、それをもってしても魔王は動じない。


 『ムッ、やはりこの体では足りぬか』

 

 恐らくドラゴンハートの力のことを言っているのだろう。

 今のファフニールは俺が心臓を盗んだことで、体も力も弱体化しているようだ。


 『ハハハ! あのドラゴンもこの程度か、愉快! 実に愉快だ!』


 「栄光の一振り(ザ・グローリー)


 『しつこい――オーガスタンプ』


 巨大なその右腕が勇者に向けて落とされる。


 「ファフニール」


 『仕方あるまい』


 間一髪のところでオリヴィエを救出する。

 なにもない地上に落されたその拳。

 その跡には大きなクレーターができていた。


 「すまない、助かった」


 ファフニールの口に体を預ける勇者。

 

 『主人の命令だからな』


 「感謝する」


 『ハハハハハッハ! もはや我に対抗できる者はいないようだな』


 魔王の高らかな笑い声が脳内に轟く。

 確かにこのままでは打つ手がない。


 空の欠片はそうこうしている間にも地上にゆっくりと向かっている。


 これが落ちたらどうなるのだろうか。

 もしこれが見た目通りの実態を持った破片ならばきっと地上の生物が全て滅んでしまう。

 待っているのは絶望、絶滅。

 その光景を考えただけで額に汗がにじみ出る。


 なにか、なにかないか?


 ――ん?


 俺が目にしたのは、自分のステータス画面。


 ――――――――――――――――――――――――――――――

 ロビン=ドレイク(盗賊)

 レベル99 状態:健康

 HP   : 410/930

 MP   : 10/500

 攻撃力  : 720

 魔法力  : 500

 防御力  : 400

 魔法防御 : 450

 かしこさ : 480

 素早さ  : 999EX

 器用さ  : 990


 スキル  : 盗む

        シャドウ

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 盗むの文字がまだ確かにそこにある。

 これはいつものあの《盗む》――魔王の力なのか?

 それとも普通の《盗む》なのか?


 ――試すしかない。

 どちらにしろこちらにもう手立てはないのだ。


 「盗む」


 現れたのは白き手。

 いつもの黒い影ではなく、白い光のように輝きを放つ手だ。


 『ロビン、それは?』


 それをなお高笑いを続ける魔王に向けて放つ。


 『――ん、なんだ? グアアアアアアアアアアア!!!』


 伸びたその手はどんどんと巨大化していき、魔王の胴体を掴みとる。

 あの高笑いが一気に叫びに変わる。


 『おぉ、効いておるぞ。流石主人、しかしそれは――』

 

 効いている。

 いけるぞ。


 「もう1回――盗む!」

 

 スキル《再生》の効果ですぐさま再生されるその体にもう一回打ち込む。

 

 『グオオオオオオオオオ!』


 やはり効いている。

 このままいけるか。


 「――え?」 


 その手が役目を果たし、消えたところで一気に脱力感に襲われる。

 なんだ? この力の副作用か?


 『まだ我に抗う力が存在したとはな……すぐに消し去ってくれる!』


 せっかくのダメージも魔王はすぐさま再生。

 攻撃に転じた魔王の灼熱の炎がこちらに向かってくるがそこはファフニールが回避してくれる。

 だが、間髪入れずに巨大な鎌に変形したその腕が襲ってくる。

 それをギリギリでかわし、難を逃れる。


 ――そういうことか。


 『さすがに定員オーバーだ。そう何度もかわし切れんぞ』

 

 「俺たちを地上に降ろして」


 回避している間に俺はその脱力感の正体がなんであるかを察した。


 『しかし』


 続けて迫る鎌をファフニールが避ける。


 「大丈夫だから」


 『わかった』


 ファフニールが攻撃をかわしつつ俺たちを地に降ろす。


 「ファフニール、勇者と協力して魔王を攪乱(かくらん)してくれないか?」


 『ムッ、こやつと共に、か?』


 「頼む」


 「ロビン殿が言うことだ、きっと策があってのことだろう。私からも頼む、ファフニール殿」


 『そこまで言うのなら仕方あるまい。乗るがよい』


 ファフニールの背に乗り、俺とレイをその場に残して飛び立つ。

 そこへ魔王の拳が振り落とされる。


 「盗む」


 その拳を光の手が飲み込む。


 『グアアアア!』


 「ロビン?」


 そこにまた襲ってくる脱力感。

 フラッと視界が乱れ、思わず膝をつく。


 そしてまたその数字が減っている。

 間違いない、この《盗む》が盗んでいるもの。

 ――それは俺のレベルだ。

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