活性化する魔物
☆★
イスティナ中心都市であるイスティ近郊の村。
「おい、なんなんだよ。いったいどうしてこんな……」
のどかな村の夜は血で塗られる。
木造の家々は焼け、その明かりが村を明るく照らす。
「助け、助け――ウッ……」
目の前で少ない仲間がまた1人息絶えた。
それはこの男にとって地獄のような光景。
もはや現実とは思えない光景である。
目の前には魔物の集団が今まで過ごしていた平和な故郷を蹂躙している。
ゴブリンにオーク、そしてコボルト。
それぞれのキングがそれぞれの群れを統率して村を荒らす。
この村で、もはや生き残っているのは何人いるのだろう。
「この! このやろう!」
一応は剣士である彼も、刃がこぼれたお粗末な剣を持ちそれに抵抗する。
夜襲を受け準備不足。
それでも20余名は一緒に戦っていた。
それも残すは彼含め、たった5人。
それに対する魔物の数は何十となるのだろうか、数えるまでもなく戦況不利。
戦闘に立つ者たちが苦戦している間にも、逃げまどう非戦闘員の人々が倒れていく。
「――グアッ!」
背中を預けていた彼の幼馴染が断末魔の悲鳴をあげ、ついに倒れる。
これが一種のみの襲撃であれば対処可能だったのかもしれない。
しかし、異常にも今回襲撃してきたのは3種のいわば魔物連合軍。
この村規模ではもとより対処できるものではないのだ。
「ハハハハ……」
自然に笑いが出てきたこの男に、もはや平常心は残ってはいない。
支配するのは恐怖と絶望。
「五月雨突き!」
それでも目の前にいるオーク目掛け、剣を突く。
「――なっ!」
しかし力なきその剣は、オークによって宙へ放られる。
その反動で彼も尻もちをついた。
目の前には巨大なオーク。
キングなどではない、普通のオーク。
普段はこの男でも容易に倒せるはずの魔物である。
その魔物が今、彼にはこんなにも大きく見えている。
ニヤリと汚く笑ったような表情を見せるオーク。
その後ろでは炎が大きな光を放ち、オークの表情をより鮮明にしている。
それが余計に絶望を掻き立てる。
「あ、ああ、あああ――」
彼の全身の力が抜けた。
数秒後の自分の未来がきっとこの男には見えた。
塞ぎたい瞼、しかし言うことを聞かない自らの目はカッと見開く。
「――ハッ!」
絶望する彼の前に大きな影がよぎった。
「遅くなってすまない。大丈夫か」
振り向くその影を見上げると、銀の髪が炎に照らされて輝いている。
「ゆ、勇者、様?」
「ああ、もう大丈夫だ。よく頑張ってくれた」
それは紛れもなくあの勇者オリヴィエの姿であった。
周りでは先までの村人のものではない、鋭い金属の音や魔法の音が聞こえてくる。
「よ、よかった……」
一気に今までの緊張感が彼の中で解き放たれる。
安心した途端、彼の視界は閉ざされ、意識が遠退いた。
「よし! みんな一気にいくぞ!」
勇者の剣を夜空に掲げ、共に救援にきた50名を超えようかというイスティ兵士を鼓舞する。
周りではすでに形成が逆転しつつあった。
確かにキングが統率する魔物の群れは、そうでない群れに対して強力である。
しかしそこは精鋭を集めた軍隊である。
前衛の剣士が次々と魔物を斬り、守護者が守る。
魔法使いが後方より支援し、息のある村人を賢者が避難させて回復させる。
連携の取れた兵士たちの活躍により場が活気づく。
そしてそれを率いるオリヴィエの力もそれは凄まじいものだった。
本当につい最近成人したばかりの少女の力とは到底思えないもの。
誰よりも早く、魔物の群れを斬り捨てていく。
「すごい、これが勇者か」
ある兵士が思わずつぶやく。
それほどに彼女の剣技は鋭く、そして美しいもの。
そしてそこからはもはや魔物にできることはなかった。
「――ハアッ!」
最後に残ったオークキングの胸に勇者の剣が突き刺さる。
村を襲った途方もない魔物の群れはあっという間に討伐されたのだ。
「勇者様!」
救われた村人たちが勇者のもとへ寄ってくる。
「ありがとうございます、勇者様!」
口々に例を言う彼ら。
しかし勇者の顔は冴えない。
「私がもっと早くに駆けつけられていれば、もっと被害は少なくすんだ。すまない」
原型を留めていない村を見渡し、勇者は頭を下げて謝罪をする。
「そんな、勇者様が謝ることありません」
村人たちは勇者に頭をあげるよう諭す。
しかし感謝をする村人たちの中には涙を流す者も少なからずいる。
死んでいった者の親族、友、恋人。
その涙を見てやはり勇者は唇をかんだ。
★☆
「勇者がまた村を救ったようね」
勇者が魔物に襲われている村を救った。
その知らせはカルタナまですぐに届く。
都市でその噂を聞いたレイが家に帰ってきて言ってきた。
「この頃、魔物の襲撃事件が多いみたいだね」
「そうね、どうしてかしら」
そんな噂は1つではない。
もう最近イスティを中心に度々そういう話を聞く。
勇者がイスティの精鋭部隊とともに対処に当たっているので、甚大な被害は出てはいないが気がかりだ。
「そんな魔物なんぞ我が退治してくれようぞ!」
ファフニールは自らの胸に手を当て、呑気に言う。
まあこいつならちょっとやそっとの魔物の群れなら訳ないだろうが。
一時のものならいいのだが……。
まさか本当に魔王が現れたなんてことはないよな?
俺の頭に不安がよぎった。




