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大会の終わり

 禍々しいもはやただの影の物体がロランにどんどん注がれ、飲み込んでいく。

 親友を侵食するそれはとても喜んでいる気がした。


 「馬鹿者!」


 「――ッ!」


 俺の側面に強烈な爆発が起こり、体が吹き飛ばされる。

 地面に叩きつけられ擦り付けられながら転がり、体全体に強烈な熱さと鋭い痛みを感じる。

 

 「なにがおきたんだ?」

 

 俺が肘に力を入れながら起き上がろうとする間、周りに舞っている砂埃が晴れていく。

 そして真っ赤な髪の少女――ファフニールが怒りの表情を浮かべているのが視界に映った。


 ドスドスとその小さな体からは想像できない大きなオーラを発して俺に詰め寄ってくる。

 

 「目が覚めたようじゃな」


 え? そうだ、俺はなにをしていたんだ?


 「俺はいったい――」


 少し冷静になると自分のしたことが脳裏に蘇る。


 「そうだ! ロラン、ロランは!」


 「危うい状態じゃが、まだ息はある」


 ロランの居た場所をみるとスタッフに運ばれている。

 なんとか無事でいてくれるといいが……。


 そうだ、あの影は。


 急いで持ち物アイコンを開く。

 そこには『ドラゴンハート』の文字。

 ――やっぱりロランはこの心臓を使っていたのか。


 「え?」


 目を疑った。

 確かに今あったドラゴンハートの文字がかすれていき、ついには消失したのだ。

 なんだ? 心臓の機能が失われたのか?


 「どうしたのじゃ?」


 「ドラゴンハートが消えたんだ」


 「なんじゃと!」


 驚いた表情の彼女に今起こった現象を説明する。

 するとファフニールは「ふむ……」と険しい顔で少し考え、口を開く。


 「嫌な予感がするのじゃ。あの影の手といい……主人よ、注意するがよいぞ」 


 「なにを?」

 

 「わからぬ。しかしあの技はもう二度と使うでない。魔物相手でもじゃ」


 「ああ、そうだね。その方がよさそうだ」


 やはりあの影の手が原因なのか?

 ファフニールが最初から警戒していた通り、この力もまた危険なものなのだろうか。

 警戒するに越したことはなさそうだ。


 「そういえば」


 「なんじゃ?」


 俺はさっきのことをふと思い出す。


 「ファフニールが俺を吹き飛ばしたのか? 自分の危機以外に人間には手を出せないはずだが」


 あの強烈な側面からの一撃。

 まさか、奴隷紋の強制力が実は働いてなかったってことはないよな。


 「安心せい。主人に一発くれてやったのはレイじゃ。我は影を裂いただけじゃよ」


 レイが?

 だとしたら魔法か。

 なるほど、本当に強くなっているな。


 くらってみてわかるが、あれはそんじょそこらの魔法使いのものじゃない。


 「そうか」


 ひとまず安心した。

 あとはロランが無事でいてくれれば。


 「しかし、この大会とやらはどうなるのじゃ?」


 「あぁ……」


 ファフニールが観客席を見るよう促すとそこには騒然とした光景が映る。

 俺の《盗む》の影に怯えて帰った人も多くいるのだろう。

 あれだけ満席だった観客が半分以下になっている。


 領主席にはいつもの行儀悪い姿でケトが座り、俺を見て不敵に笑む。

 あれは怒っているのかな……。


 ともかくこの騒動で大会の進行は難しくなり、指示に従って俺たちは帰路につくことになった。


 ♢


 後程、ケトの使者が宿屋にきた。


 伝えられたのは観客に危害を加えたとして、俺の失格処分が下り、ロランが繰り上げ優勝になる予定だということ。

 そしてそのロランの今の状態だ。


 ロランは意識こそまだ戻ってはいないが命に別状はないとのことだ。

 あれだけの失血がありながらそれは運が相当良かったと言っていた。 

 俺の心配はひとまず取り除かれ、本当に安心した。


 レイとファフニールの居る俺の部屋に戻り、その話をする。


 「レイ、ファフニール。本当にありがとう。あのままだったらロランがどうなっていたか」


 「なにをいっておる? どうなっていたかわからぬのは主人、おぬしもじゃぞ」


 「ああ、あの時はどうかしていた。本当に助かったよ」


 本当にあの時はどうかしていた。

 なぜあんなことをしてしまったのか今でもわからない。


 「レイ、ごめん。優勝できなかった」


 「いいわよ、そんなこと。実質優勝みたいなものでしょ? それにあなたが生きていたのだから」

 

 「それじゃあ――」


 「ええ、話してあげるわ。私の過去を、あそこで私が見たことを」


 そう言ってレイは大きく一息つく。


 そして彼女は自分の過去をゆっくりと話し始めた。

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