過ぎた力は身を滅ぼすものじゃ
「再生」
すぐに再生してロランに向き直る。
俺が攻撃を見落とした?
それほどの速さだったということか。
「ロビン、今まで俺がどれだけお前に攻撃を当てられたか覚えているか?」
「それは……」
「答えは0だ」
確かに俺はロランとの試合でひとつも剣をその身に受けたことはない。
「だから今のが初めて俺がお前に与えたダメージ」
赤黒いオーラは依然として禍々しく立ち上る。
ロランの栗色の目には血がほとばしり、歪んだ表情を見せている。
それはいつもの明るい彼の表情とはまるで違うもので俺はたじろいでしまった。
「そんな俺がライバルだっていうんだ、笑ってしまうだろ?」
歪に表情を歪ませて笑うロラン。
「何を言って――」
「お前は俺を下にしか見ていないってことだ!」
――来た。
赤黒い閃光を俺の視界に残し、一瞬にして間合いに入られる。
そして先程と同じく幾多もの超高速の剣技が襲ってくる。
ロランからは考えられないほど乱雑な剣筋。
戦う前の予想よりも一つ一つは重くないが、なんせ速い。
その剣を短剣で必死にさばく。
「これで3つ目!」
ロランが過ぎ去った後、俺の右肩と左わき腹にまた切り傷が浮かび上がる。
また見落とした? しかも今回は2つ。
「再生」
傷はまだ浅い。
すぐに再生もしてダメージもない。
しかしあの連撃が続くとなればやっかいだ。
あれはいったいなんだというんだ。
『主人、よいか、相手に集中しつつ聞くのじゃ』
『ああ、わかった』
丁度見計らってファフニールの声が脳に届く。
少しルール違反な気もするがファフニールがいうことだ、きっと只事ではない。
「やっとの思いで与えた傷も簡単に修復か……どこまでも俺を馬鹿にするんだな」
またあの連撃がとんでくる。
くそ、こんな連続でこんな大技を出せるっていうのか。
『あやつが今取り込んでいるもの、それは――』
「6つ目だ」
血が噴き出るほど、先程よりも深い傷が3か所。
どんどん速くなっていっていないか?
「再生」
失血により多少ふらついたが再生で修復する。
まだ致命傷ではない、致命傷でなければ《再生》でなんとかなるはず。
『なんだ? ファフニール、それは何なんだっていうんだ?』
『――我の心臓じゃ』
心臓?
意味がわからなかったが脳にある記憶が蘇る。
ドラゴンハート――ファフニールから盗んだ心臓。
気持ち悪くてあの時投げ捨ててしまったものだ。
あれをロランが?
なぜ?
「まだ何か考えるだけの余裕があるのか!」
くそ、ゆっくり考える時間もない。
休みなく繰り返されるあの大技。
「これで10だ!」
「――グァッ!」
俺の両肩と両足に激痛が走り、血が勢いよく飛沫を上げる。
たまらず膝を折り、地につく。
「再生」
激痛で顔が歪み、ロランの姿が霞む。
遠くなりそうな意識に負けず、急いで再生をおこなう。
影が俺の傷口を塞ぎ、修復が完了。
視界もハッキリし激痛もなくなった。
しかしなんて強さだ……。
『大丈夫か主人?』
『ああ、大丈夫だよ』
ファフニールの心配する声に気丈に振る舞う。
「終わりだ!」
――まずい!
「バットンウィング」
詰められる前に咄嗟に影の羽を顕現させて空へ飛ぶ。
さすがに空に飛んでくるということはないらしくようやく難を逃れる。
『まったく、とんでもないものがあやつの手に渡ってしまったようじゃ』
『あの心臓にこんな化け物じみた効果があるのか?』
ようやくゆっくりと考えられる。
ファフニールから情報を集めよう。
『あれは我の力の一部』
「一閃!」
赤黒く染まったかまいたちが凄まじい軌道をたどって俺を襲う。
なんとかそれをかわすが、あれは今までの《一閃》によるかまいたちとは違う。
ドラゴンの力の一部、これもその力を使ったものなのか。
『確かに使えば人間にとって絶大な力が手に入れれるかもしれん』
「上から見下ろすな! 一閃! もう一つ、一閃!」
次は2つのかまいたちがほぼ同時に迫る。
なんとかかわそうとかまいたちの隙間を縫うように体を捻じる。
「――なっ!」
かまいたちが軌道を変えた。
なんとか体には浅く入るのみだったが羽はそのかまいたちに切り裂かれ、俺の体は地面に自由落下していく。
『しかしの――』
なんとか足で着地、衝撃は多少あるが大丈夫だ。
「再生」
「そこだ!」
しかしそこにとどめと言わんばかりに赤黒い閃光が走る。
『過ぎた力は身を滅ぼすものじゃ』
「――グハッ!」
え?
動きを止め、あのオーラを失ったロランが映る。
口から血を吐き出し、よろめくロラン。
地面には多量の血が叩きつけられ、広がっていた。
「ロラン? 大丈夫か」
明らかに大丈夫ではないこの状況に俺はロランに駆け寄る。
「試合中だ!」
しかし俺を拒むように苦し紛れの剣が振り払われる。
その剣を短剣で受け止め、一旦距離をとる。
「ハアアアアアァァアアアアァ!」
また雄叫びと共にロランの周りに赤黒いオーラが巻き起こった。
ロランの目には尚も闘気がありありとこもっている。
ファフニールの言う通り、このままでは本当に身を滅ぼしてしまうぞ。




