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ひとつ、見落とした様だな

 「刃こぼれすらしない強固な剣……でしょ?」


 「違うな、それも確かにある。しかしこいつの本当に優れているところは別にある」


 なんだって? そんな話は聞いたことがない。

 

 「このデュランダルは防具への補正もつくのさ。それも守護者のそれと同様のな」


 「なるほど、それでさっきの攻撃が浅かったわけか」


 「それに今日のこの鎧も普通のカルタナ軍の鎧ではない。俺の家が特別に作ったものだ」


 見た目はカルタナ軍の鎧と同じようにみえるが、ここにも秘密があったか。

 新兵に対してデュランダルと強化防具を与えるなんて、こいつの父も相当な親バカということか。

 

 「そこまでしても君の攻撃は完全に防げない。まったく、本当にとんでもないやつだ」


 首を横に振り感心したように言うロラン。

 しかしその表情にはまだ余裕が見える。

 まだ奥の手であろうあの技が残っているのだから当然か。


 「そうか。じゃあどうやって攻めようかな」


 くるくると手首でロランニ向けた短剣の刃先を回しながら挑発してみる。

 

 「どこからでも来いよ。俺も容赦なく反撃してやるさ」


 「そうか――シャドウ」


 姿を消し、側面に回る。

 

 「さすがに足音があれば俺にだってどこにいるかわかるさ」


 俺がいる方角に向くロラン。

 さっきの攻撃でわかった。

 今までの強敵と違ったこの男の弱点。

 それは圧倒的な経験の少なさ。


 先の攻撃もあのラムセスならば容易に防がれていたはずだ。


 「アイスフォール」


 俺の頭上から氷塊を顕現させ、ロラン目掛けて射出。

 同時に俺もロランに向け足音を消すようにして駆ける。

 

 「ハァッ!」


 ロランが上段から剣を振り、氷塊を切り裂く。

 やはりさすが、こんなものなら対応できるらしい。

 しかし本命はこっち。


 「そこか!」


 わざとロランの前で地面を蹴り、足音を立てる。

 俺はその行動によって宙に跳ぶが、ロランはそうとはとらなかった。

 俺がその場から攻撃すると思ったのだろう、そこへ剣を振る。

 ――狙い通りだ。


 宙で前転し、ロランの背後へ。

 そこから体を捻り、ロランの背に落下の勢いと共に短剣を突き刺す。


 「――グッ!」


 先程よりも深くはいった。

 声にならない音を喉から吐き出して、ロランは体勢を崩す。


 完全に《シャドウ》に対しての対策が整っていない。

 ロランも俺にこのスキルがあることはこれまでの試合でみてわかっていただろう。

 しかし、実際見るのとでは違ったようだ。


 「このっ!」


 ロランは前に押し出された形の体勢から苦し紛れに剣をこちらに振り回す。

 だが、そこに俺はもういない。

 側面に回っていた俺はそこからまた短剣を突き刺す。


 「――くっ」


 よし。

 少しずつ、しかし確実にダメージは与えられている。


 「回転斬り!」


 無理やりスキル《回転斬り》で状況を打開しようとしてくる。

 俺は上方に跳んで上から頭部目掛けて短剣を振り下ろす。


 「さすがにこれは通じないか」


 その攻撃は兜には届かずに剣で止められる。

 さすがに選択肢を狭められた攻撃には反応された。


 「ンンッ!」


 足の屈伸運動を利用して剣に押す力を加えて俺を押し返す。

 

 「ハハハ。ハハハハ――」


 なんだ?

 突然ロランが天に向けて片手をデコに当て、高らかに笑いだす。

 それは狂ったように大きく、そして止まない。

 いつもとは明らかに違う様子のロランに寒気を感じた。


 「あー。苦しい……」


 笑いつかれたのか息が乱れている。

 やっと正面を向いたロランだが、その気持ちの悪い笑んだ表情は消えない。


 「いや、すまない。ここまでしても君には届かないのかと思ってな」


 「いや、ロランは強いよ。学生の時より数段強くなっている」


 薄気味悪さを覚えながらも俺はロランに返す。


 「ロビン、君はいつも勝者でありながら敗者の俺を慰めてくれたね」


 「当然じゃないか。親友でありライバルなんだから、共に称え合わないと」


 「そうか、そうか。そうかそうかそうか……」


 「ロラン?」


 なんだ? 何が起きている?

 本当にどうしてしまったんだ?

 

 「ハアアアアァァァアアアァァアアアッ!」 


 ――ここできたか!

 ロランの雄叫びに呼応して、あの赤黒いオーラがロランから噴き出すように出る。

 それはロランを中心に巻き上がるように二重螺旋を模して天へ伸びていく。

 

 『主人! 下がれ!』


 ファフニール?


 「思念伝達」


 『あれが何かわかるのか?』


 初めて見るはずのこの技に警鐘を鳴らすファフニール。

 なにか知っているのか?


 「俺はそんなお前が――」


 『それは後じゃ! はよ下がるのじゃ!』


 「ずっと――」


 とりあえず、危険なのはわかっている。

 俺は後ろに跳んで距離をあける。


 「嫌いだったんだ!」


 ――ロランが消えた?

 いや、速いだけ。

 一瞬視界から逃してしまったが、すぐにロランの姿を捉える。

 あけた距離を瞬時に詰められ、何十もの俺に剣が振られる。

 

 「――クッ、速い」


 なるほど、確かにこんな攻撃、俺じゃないと防ぎきれない。

 俺はその全てになんとか短剣でついていく。


 そして俺の横を過ぎ去り、ロランは残身をとる。

 よし、なんとか全て防ぎ切った。

 ほんの数秒のうちに放たれた剣の数、実に11。

 恐ろしい攻撃だった。


 「ひとつ、見落としたようだな」


 「――ッ! え?」


 俺の脇腹に痛みが走り、見ると一筋の切り傷が伸びていた。

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