孤高の狂剣士
甲高い金属音が空気を揺らす。
目の前ではどうだと言わんばかりに口角を上げるアルダシール。
初撃が防がれた。
勢いの分相手の体を押すが、短剣はどっしりとその漆黒の剣で受け止められている。
「ンッ!」
アルダシールが剣を力を入れて振るい、俺の体をはじき出す。
なるほど、さすがに強いな。
見た目は大きいがそこまでゴツイ感じはない。
無駄な筋肉が少ないのだろう、見た目以上にステータスは高いようだ。
そしてあの剣、分厚い盾をも軽々と斬ったこのダマスカスの短剣を受け止め、刃こぼれもしていない様子。
剣士の補正だけではない、相当鍛えられた名剣なのであろう。
「シャドウ」
ならば見えなければどうだろうか。
俺は姿と気配を消して近づく。
「ほう、やはり盗賊か」
アルダシールはその場で構え、俺の姿を探るために視線だけを動かしている。
そんなことでは俺を見つけることはできない。
気づかれず後ろに回ることに容易に成功する。
あとは斬るのみ――。
「そこかっ!」
「なっ?」
相手の体が回り、漆黒の剣が俺の側面から勢いよく迫る。
感知された?
俺はアルダシールに向けるはずだった短剣を防御にあてがう。
「チッ、防がれたか」
体が押し出されるが体勢を崩さず着地。
「見破られるとはね」
「経験の差といったやつだ」
人間に見破られるとは思わなかった。
この男、やはりかなりの実力者だ。
その目の傷といいどれだけの修羅場を1人きりで乗り越えてきたのだろうか。
「さて、次はこちらから行くぞ」
アルダシールが剣先を天に向ける。
スキルか?
「乱星光剣」
天に無数の光が顕現する。
それは一つ一つ剣の形に変化し、そして俺を目掛けて降り注ぐ。
「……多い」
それは2戦目の試合の《ファイアレイン》よりも多く、そして鋭く速い。
避けるのはさすがに厳しく短剣で防ぐ。
地面に突き刺さるその威力から、一歩間違えばかなりのダメージだというのがわかる。
そしてようやく流星が尽きる時が来る。
最後に俺に体に振った光剣を防ぎ、なんとか全てダメージを受けずに処理できた。
「――ッ!」
まだ終わりではなかった。
最後の光の剣を落とした直後、前方から漆黒の剣が迫っていた。
なんとかそれを間一髪で受け止め、後ろに退く。
「まさか全部受け止められるとは思わなかったな」
「今のは危なかったよ」
未だ余裕だとばかりの表情をしたアルダシール。
俺は相手の懐に一気に飛び込み、連続で短剣を振るう。
しかし、その全てを剣で受け止められる。
この速さについてくるのか……。
戦う前から強いということは分かっていたがここまでとは思わなかった。
剣だけで勝つのはこの鍛えられた剣士相手には厳しいか。
「ライトニング」
超高速の手のひらほどの大きさの電撃が一筋の線となって相手に走る。
1発、2発と剣で防がれるが3発目の電撃が相手にヒットする。
ようやく攻撃が当たった。
「なんの!」
少しひるむがすぐにアルダシールは体勢を立て直す。
やはりこれでは決定打にはならず、電気を浴びながらも無理やり相手は距離を詰めてくる。
だが、そんな速さでは俺を捕らえるのは無理だ。
すぐに側面に回り、鈍くなった相手の胴を斬る。
「ングッ!」
鎧に短剣が入り鈍い金属音が響く。
見事に胴に攻撃が入り、相手は体勢が崩れるがすぐに後ろに跳び去る。
俺はすかさずそれを追撃。
鎧を斬ることはできなかったが、衝撃でのダメージは入っている。
完全に動きが鈍くなった相手に次々と短剣が入る。
守られていない頭部への攻撃はさすがに固く守られているが、着実にダメージは蓄積しているだろう。
「……この!」
苦し紛れに蹴りを入れてくるが重い鎧を着けながらのそれをかわすことは容易。
避けて、逆に攻撃を入れる。
完全に俺のペースだ。
相手にもはや先ほどまでの余裕はなく、表情はどんどん険しくなっている。
「くそが」
アルダシールは俺との距離をあけるためにどんどん後ろに跳び、剣を横に向けて構える。
「一閃!」
「――ッ!」
追撃に飛び込む俺に衝撃が走る。
アルダシールが横に剣を振るい、それで生じた風が俺を裂いた。
剣士のスキル《一閃》。
それはかまいたちというものだろう。
軽装だが、防具をしているためかすり傷程度だが、それは初めて闘技場でまともに受けた傷だ。
「ハァ、ハァ……おもしろい。血がたぎってきやがる」
剣を地に突きつけ、息を切らしつつもニヤリと俺に向けて言ってくる。
その眼光は死んでいない。
ギラギラと光を放ち、まだ戦うことを望んでいる。
この圧倒的劣勢でも本当に楽しいといった表情の相手。
それは凶戦士とでも言ったところか。
俺が一撃を受けたことで観客からは一際大きな歓声があげられる。
「いくぞ――」
アルダシールは突き刺した剣を抜き、首の横に天を向けて持つ。
「烈剣天翔!」
漆黒の剣に黒いオーラが纏う。
それは天に向けぐんぐんと伸び、やがてとてつもなく大きな剣の形となる。
「くらいやがれ!」
輝く天を切り裂くよう、それは見上げる俺に向けて振り降ろされた。




