意味がわからない話
その日、ヒデちゃんはある少女に出会った。
その子は食パンをくわえながら走ってきて、角を曲がって来たヒデちゃんとごっつんこ。
すってんてんと転んだヒデちゃんとマキちゃん。
マキちゃんはお目目が大きな女の子、可愛いの。ヒデちゃんは一瞬でその子に見惚れてしまった。
「ご、ご、ごめんなちゃい」
しかもその子は舌ったらずで謝って、可愛らしくて堪らない。
ヒデちゃん、心持って行かれちゃったよ。
まさに一目惚れって奴。
それからヒデちゃん、その子を探したの。そうしたら、なんとボーイフレンドがいたんだ。
え、ボーイフレンド?早いじゃないの。
イヤイヤ早くないのよね。
小学五年生だもん。
マキちゃんのボーイフレンドは頭脳明晰で有名ないっちゃん。
勉強嫌いなヒデちゃん、敵うわけないよね。
そんなヒデちゃん、凹んで帰ったの。
するとね。
家にね。
鬼がいたの。
真っ赤な鬼。だけどおかしいね。黒のスーツを着て白い手袋をはめていたの。
ただいまーと家に入ったら、リビングルームに鬼ですよ。
ぎゃーと悲鳴をあげながらもヒデちゃんは「鬼はそとー、鬼はそとー」とテーブルの上にのいてあった塩豆投げた。
で、どうしたって?
その赤鬼は全ての豆をどこから取り出したのかお椀に入れると、ありがとうと礼を言って、お箸を使って優雅に食べ始めた。
パニックに陥りかけたヒデちゃんを救ったのは、ヒデちゃんのママでパコーンと丸めた新聞で鬼の頭を打ったの。
「あんた!何してるの?」
「え、塩豆食べてる」
「そうじゃなくてそのマスク取りなさい!」
なんと鬼の正体はヒデちゃんのパパで、ヒデちゃんは一安心。
えっとこれでめでたしめでたし。
じゃないよ。
まだお話は続くのよ。
赤鬼マスクのパパはヒデちゃんから失恋の話を聞くと、ある提案をしてきたの。
1年に1回開かれる計算王大会に出て優勝して男を見せれば、マキちゃんを奪う事ができる。
言葉巧みにパパはそうヒデちゃんに持ちかけた。
いや、無理があるでしょう。
そう思うよね。だけどヒデちゃんは赤鬼マスクのパパの言葉に乗せられてその日から特訓を始めた。
計算力を鍛えるため、来る日も来る日も計算を繰り返し練習問題を問いて行った。
練習問題?なーんとこの大会100ページほどの練習問題をダウンロードできるようになっていて、実際の問題もそこから出るんだわ。
なーんて、こったいの大会だけど、保護者には子供が勉強するようになったと大好評!
わかりますか?
パパの本当の意図?
まあそれは置いといて、ヒデちゃんは大会までに100ページの問題集やり終わった。
んで大会。
大事な事忘れてるよね。
マキちゃんは大会の事を知ってるのかどうかって?
ええ、ラッキーな事にマキちゃん、知ってましたよ。しかもボーイフレンドのいっちゃんと参加です。
ヒデちゃんは闘志を燃やしたね。
いっちゃんに勝ったら、告白するって息巻いていたよ。
赤鬼マスクのパパはそれを聞いて頷いたね。
もうパパは毎日マスクつけてて、近所の人に変な人と呼ばれてるんだけど、パパとヒデちゃんは気にしない。
そんな事より大会で優勝する事に集中したの。
さて大会がやってきた。
流石に100ページの問題集をやり終えた子はいなくて、ヒデちゃんは順調に勝ち残った。
そんで決勝戦まで行ったら、お相手はなんとマキちゃん!
いっちゃんは頭脳明晰の噂がなんだったのか、初戦で敗退でした。
ヒデちゃんは考えたね。
マキちゃんに勝ちを譲るかどうか。ヒデちゃんはマキちゃんに勝つ自信があったんだね。
で、勝ちを譲ろうと思った瞬間、メガネをかけたマキちゃんが言いました。
「負けた方が勝った方の言うことを聞くことにしない?」
ヒデちゃんはもちろん同意です。でも読者の人はもう気がついているよね?
そうして決勝戦が始まり、マキちゃんがヒデちゃんより先に計算を終え、全問正解!
あっけなくマキちゃんの優勝です。
いやあ、ヒデちゃんは呆然としたね。
でも約束は約束。ヒデちゃんはマキちゃんの下僕になりました。
はい。そんな話。
意味わかんない?それはそうだよ。
だって、これ、意味がわからない話だもん。
* * *
「まじか。最後は逆切れかよ」
「っていうか酷い話すぎ」
「うるさいなあ」
某ファーストフード店でそんなやりとりがされている。
呆れた様子の男はヒデちゃんこと秀夫。垂れ眉毛の優男は、いっちゃんこと一朗だ。
その二人にブチ切れている吊り目の女はマキちゃんこと、真紀子。
「小説書いたって、これ俺たちのことだろう。名前も変えてないし、絶対投稿するなよ。大体なんで親父が赤鬼マスクをかぶんなきゃなんないんだよ。最後は下僕オチとかありえねー」
「僕はマキちゃんのボーイフレンド役なんてだ御免だなあ」
「あー、うるさい、うるさい!だって何書いていいかわかんなかったんだもん」
「だったら書くなよ」
「そうそう」
二人にそう言われて、真紀子は口をへの字に曲げる。
目からは涙が今にでも溢れそうだ。
「ああ、わかったよ。名前さえ変えたら投稿していいから」
「そうだなあ。僕は名前よりもマキちゃんのボーイフレンドの設定を変えて欲しい」
「うん、変える。変えるから。ありがとう!」
満面の笑みで答えた真紀子は、何も変更する事なく投稿し、後日改めて二人から呼び出しを食らう事になる。
「真紀子!!」
「ごめんなちゃい」
「うわ、気持ち悪い」
小説の中のマキちゃんごとく、真紀子は可愛く謝ってみたが現実はこの通り。
でも二人は泣き落とし戦法にやられ、誰にも読まれないだろうと、投稿を許した。
そのおかげで意味のわからない小説は今だに削除されずに真紀子の投稿小説一覧に残ってる。
そして何故か、数ヶ月に一度は誰かに読まれているようだ。
お わ り
えっと、あきしんさん。
書き終わってから気がつきましたが、前の短編にかなり影響受けています。
書き直す気力がなく、そのまま出してしまいました。
すみません。