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永遠の刹那。  作者: ブルー
2/2

ゆっくりと迫る緊急事態。その1

コロセコロセコロセコロセコロセ。

あぁ、言われなくともころすとも。目の前にいる男を、うたた寝をしている男を、自ら殺した人間の子の側で何食わぬ顔で日常を過ごすこの男を、育ての親を、殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる。

死ね死ね死ね死ね死ね。

「殺すのか?」

その暗闇に響く重い一言はただの問いではなく殺せばお前もただでは済まないという忠告の意も孕んでいた。

しかし邪魔するのならお前から殺すだけだ。

憎い、殺すべき相手、それを守ろうとする者も全員殺してやる。

「落ち着けよ蒼真、見なかった事にしてやるから今日はもう寝ろ」

俺をなだめるソイツは、ダガーナイフという物だろうか、俺が握っている果物ナイフなんかよりも本当に危ない物を何処からか取り出して、こちらに向けてきた。

勝てない、コイツ相手じゃら殺す前に殺される。

落ち着いた後、言われた通り寝床に入って目を瞑った。

色んな事を考えた。

いっそ自分が死んだ方が良いのではないか、案外殺せば簡単にすっきりするんじゃないか、そもそも何故俺は顔も覚えていない親の仇を殺そうとしているのか、これは悪い夢じゃないか、目が覚めたら優しい母親がいて美味しそうな卵焼きの匂いがするんじゃないか、と。


翌朝。意外にもぐっすり寝れてしまった、当然起きても美味しそうな卵焼きの匂いなんて贅沢なものはしない。

あの時紅音を無視して白城さんを殺していたら今頃どうなっていたのだろう。

まず俺に白城さんを本当に殺すことが出来るのだろうか、俺が紅音を無視してもアイツは俺が白城さんを殺す前に俺を殺してでも止めるだろう、アイツはそういうやつだ。

「やあお目覚めかい?紅音から聞いたよ、君がやったのは立派な殺人未遂だ。まあそんな事はどうでもいいがもう8時を過ぎてるんだ、そろそろ出勤してくれないかな?」

「はい、すいません」

今はあなたと会話なんてしたくないという気持ちを態度に全面的に出して二言で会話を終わらせる。

そもそもそういう態度が気にくわないんだ。殺されそうになっておいてどうでもいいとか抜かしやがる、俺にとってはどうでもよくないんだ顔も覚えていない親の仇であり育ての親、殺してしまいたくてしょうがないのに心の何処かで殺しちゃダメだと思っていつも躊躇してしまう。考えれば考えるほど気が狂いそうになる、やめよう。

さて、全く探偵らしくないラフな服装に着替えて部屋を出る、出勤といっても自宅兼事務所なので階段を降りれば出勤完了である、朝急いで朝ご飯を食べる必要も無ければ満員電車で吐き気を催す心配も無い。しかしだからといって油断して今日の様に寝坊すれば朝ご飯なんて食べてる時間はないし、あ…。

「イテェ…」

急いで階段を踏み外すこともある。

そして階段から転げ落ちてまで出勤しても朝一に事務所に依頼人が居るわけが無く

白城さんがウトウトしていて紅音がテレビを見ているだけである。俺に挨拶してくれるのはせいぜい白城さんが飼育している小鳥くらいなもんだ。

俺はおもむろに冷蔵庫を開けるが、食べ物なんてほとんど無い。

「白城さん、僕ちょっと買い物行ってきますね」

返事は無い、聞こえていないんだろう、幸せな夢でも見ているのだろうか、だとしたら殺してやろうか。

重く感じる扉を開いて日差しを浴びると日光には不思議な力があるんじゃないかと思うくらい今まで考えていた事が全部どうでもよくなって足取りが軽くなる。

近くのコンビニで済ませたいところだけれど…家計がピンチだ、スーパーに行こう。白城さんは金ならあるからと言っていたけれどそんな裏社会で稼いだ金に頼りたくは無い。

十分程歩いてスーパーに着いて真っ先にお惣菜コーナーに向かった、男の三人暮らしで誰も料理するわけででもないというはっきり言って最悪な環境の家に住んでいる俺にとってはお惣菜なんてコスパ最強の、星三つあげてもいいくらいのご馳走である。

「何にしよっかなぁー」

お惣菜を物色しているだけで独り言が出てしまうくらいテンションが上がる。

「かき揚げとかどうです?オススメです」

「かき揚げか…うーん。朝から揚げ物というのもな」

「そうですね、朝ですのでやはりサラダなどでしょうか」

「そうだね、健康を意識してサラダにしようか」

お惣菜コーナーとは素晴らしいものだな、会話も弾むしデートスポットにでもするべきだ。

?????会話?????

「あんた…誰だ?」

「私ですか?伏川(ふしかわ)未来、どうぞ未来と呼んでください、蒼真君」

目の前にいる一言で表すと〝可愛い〟女の子は自己紹介をすると俺の名前を口にした。


「それで、仕事を抜け出して依頼人をほったらかしにした挙句女の子をナンパしてきた。と?」

「だからナンパじゃないですって!この子が用があるって言うから」

色々あって伏川未来ちゃんを事務所に連れてきたら、さっきまでめんどくさい依頼人が来てたらしく白城さんはその人の相手したから珍しく不機嫌だし紅音は大音量で時代劇を見ているし、いつも通りだがめちゃくちゃだ。

「賑やかで楽しそうですね」

「あはは…」

彼女は微笑んでいる、楽しそうとおそらく本当にそう思っているのだろう。

「で?君は勤務中だが、この子はどうすんのさ」

白城のめんどくさい説教は続いている。

俺はいつも何かある時にはこのめんどくさい玄関での立ち説教を受けているから慣れているが、隣でそんなことされたらこの子が困るだろう。

「白城さんですよね?あのお話があるんですが」

確信した、この子メンタル強いわ。

「話?依頼かなにかかな?なら別室で話そうか」

そう言って白城さんと未来ちゃんは客室に向かっていってしまった。

説教は免れたが、なんだかせっかくナンパして連れ込んだ女の子を他の男に取られた気分だ。もっとも、そんな気分を味わったことはないしナンパじゃないんだけれど。

今日は午後は依頼人は一人も来なかったし、事務所のサイトにも依頼は来ていなかった。

夜、まだ8時くらいだが白城さんはもう寝ていた。

俺は紅音と外食に行くことになった、家計がピンチなのに紅音に引っ張り出されて無理矢理ラーメン屋に連れてこられたのだ。

客は俺たち二人だけで、店主は暇過ぎるのか厨房でウトウトしている。

「なんでよりによってこんな店に…」

決してラーメンが不味いわけではないが、別に人を引っ張り出してまで連れてくる店でもないだろう。

「人がいないからいいんだよ、これを聴け」

紅音がポケットから取り出した機械のボタンを押すと音声が流れ始めた。


「わたし、伏川未来っていいます」

「あの有名な伏川家の人間ってことか?」

「そうです、けどちょっと事情があって家出してきちゃいました」

ドンと衝撃音が聞こえた。

「何を馬鹿な事を言ってるんだ、今すぐ帰れ」

白城さんは怒っているのだろうか。

「ここに住まわせてください」

両者共にしばらく沈黙している。

「なるほど…いいだろう。だが今日は無理だ」

「わかりました、また後日伺いますね」


紅音がボタンを押して音声を停止した、つまりこれは盗聴器であるわけだが。

「ということだ…」

「なんだ?伏川家って有名なのか?」

「そんな事も知らんのか、ここらじゃ有名な金持ちだ」

「それが白城探偵事務所に住まわせてくれと?」

怪しい、探偵事務所にある事件の情報などを盗む為に送られてきたに違いない。

「お前は馬鹿なのか?」

「唐突になんだよお前、殴るぞ」

コイツは本当に意味がわからない、急に馬鹿とは何様だ。

「帰れと言っていた白城が沈黙の後にはいいだろうとか言ってるんだぞ絶対にこの数秒間に何かあったな」

確かに、これは確かに俺が馬鹿だった。この白城さんの態度の変わり方は明らかにおかしい。

「まあ金一封ってところじゃないか?」

「馬鹿かお前は、白城はもう金なんていらないって程持ってるだろ」

今日の俺が冴えてないのは認めるがこうも馬鹿馬鹿と言われると腹がたつ。

「金なんかいらないって程持ってても欲しいもんだろ!あるに越したことはないしさ!」

我ながら馬鹿と認めざるを得ないようなことを言って自滅する。紅音が馬鹿に向ける時の憐れみの目を俺に向けてくるのが悔しい。

「まぁ、今後も調査をする。お前も協力しろよ」

「ああ、冴えてる日には役に立ってみせるよ」

紅音はラーメンを残して店を出て行った。

あのやろう…十八にもなってお残しか。

俺は十分程度で自分のラーメンを食べて紅音の残した食べかけも食べ終えた。

満足満足、ラーメンなんて久しぶりに食べたな。

「おじさん、お会計お願いします」

「特製ラーメンお二つで、お会計二万四千円になります」

……、まさか一杯一万二千円とは…。

シンプルなぼったくりじゃねぇか。

「こ、高級ですね」

店主は俺の皮肉を完全に無視して無言で厨房の奥に消えて行った。ちくしょう。

とりあえず帰って紅音を一発殴るとするか。

二万四千円きっちり払って、空っぽになった財布を片手にとぼとぼと我が家である白城探偵事務所に向かった。

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