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赤紅色のマッドピエロ 06

 翌日。

 敵の全戦力が明らかになった。向こうから出張ってきたのだ。


 野盗の人数は約四十名。BG八機に、ハウントマシンを改造して武装したワーカーギア(WG)が三台。あとは武装車両が六両ほど。

 戦闘集団としては、ちょっとしたモノだ。今までバワーズ達が撃退していたのは、連中の下っ端だったらしい。


「連中の要求は、エネルギーと食料と、女だそうだ」


 リチャード・パーキンスという、ひげのオヤジが、沈痛が眉根を寄せているような、渋い表情で言った。この町の保安官である。


「分かりやすいと言うか何というか……」


 バワーズが、苦笑しながら言う。事態を本当に把握しているのかコイツ、と思いたくなる笑いかただ。

 まあ確かに、人口三百名そこそこの町としては、笑うしかない状況かもしれない。エネルギーや食料はともかく、最後の要求が問題だ。町の人口の半分が女性だとして、血気盛んな野郎どもの、守備範囲内の年齢の女性となると、ほとんど『全員よこせ!』と言っているようなものである。


 ヘリトン・ベイには、町長、保安官以下、町の主だった者と町の者が集まって、会議を開いていた。ベイからあふれた人々は、入り口や窓から中の様子をのぞき込んでいる。

 会議に残された時間は、明日の夜明けまでだ。それを過ぎると連中は、彼らが言う所の「強制執行」に出る事になっている。その結果は、まあ、だいたいご想像の通りである。


「で、皆さんどうします? 戦うか、降伏するか。あ、和睦という選択もありますよ。交渉が成立すればの話ですけど」


 バワーズが、人当たりの良い、宗教家然とした笑顔で言う。

 セラミック工場があるおかげで、この町は規模に比べて比較的豊かだ。バワーズの言うとおり、それなりの代価を支払って、お引き取り願うという手もあるだろう。


「なんとか穏便に済ませられないのかねぇ」


 止まらない汗を拭きながらそう言ったのは、頭のそり上がった片眼鏡の男であった。セルバレーの町長で、アントン・コーエンという、洋梨みたいな体型のじー様である。


「降伏は論外です。一度侵入を許せば、あとは絞られるだけですぞ。ここは断固、戦うべきです」


 保安官が、硬い声で言う。それに、男達の声が唱和した。

 さっきから会議は、保安官を筆頭とする主戦論派の押せ押せムードで進んでいた。町の人間、特に年頃の娘を抱えた家庭の人間は、おおむね保安官に賛同している。守りたいものが有る人間にとって、野盗は屈するべき相手ではない。保安官にもやはり、妻と娘が居るそうだ。


「冗談じゃない!」


 それに声を上げたのは、移動商隊のキャラダイン隊長だった。


「我々は巻き込まれただけだ! 事を荒立てないでくれ!」

「これは町の問題だ。よそ者は口を出さんでもらいたいものですな」


 パーキンス保安官が、キャラダインを見下ろすように言った。その態度と言葉に、キャラダインが鼻白む。


「ならばキャラバンを率いる者としてブレイカー諸君に言わせてもらおう。我々は次の町までの護衛を募集している。今なら相場の倍、いや、三倍払おう」


 その言葉に、町長と保安官があっという顔になった。キャラダインは町のブレイカーを引き抜いて、戦う力を根こそぎ奪おうというのだ。

 戦闘力が無くなれば、町は降伏か和睦しか選択肢が無くなる。財力に物を言わせた、うまい手だ。


「だめだ! そんな事は許さん!」


 保安官が、声を荒げる。許す許さないの問題ではないが、気持ちは分からないでもない。

 喧々諤々(けんけんがくがく)

 実際問題、こんな不毛な内ゲバを続けている場合では無いのだが、感情が先走って話がこじれかけている、というのが現状だろうか。

 こういう時は町長がしっかりしていなければならないのだが、この町長は商売畑の人間で、政治的主導権は保安官が握っているようである。

 となれば、町の最終的議決は主戦論派に傾く事になるだろう。


 が、折り合いがちょっとだけ悪い。


 キャラダインのキャラバンも、この野盗をどうにかしなければ、町から出る事が出来ない。しかし彼らには、代価を払って見逃してもらうという選択肢が通用する。町が穏便に事を進めてくれた方が、彼らにとっては都合が良いのだ。

 またこの町に滞在している、ブレイカーの数も問題になっている。

 キャラバンが抱えているブレイカーは三名。町のブレイカーは、昨晩二人殺られて残るは二名。うち一名はバワーズだ。

 これに保安官とサラールを入れて、やっと七機のBGがそろう。他にも町にいくつかのWGがあるだろうが、昨晩見た敵の強さを考えると、町の防衛にはギリギリの数である。

 保安官としては、キャラダインの抱えるブレイカーの協力が、絶対に必要なのだ。


 こんな時のブレイカーは、あまり発言権が無い。基本的に雇われ者で、流れ者で、無法者だからだ。町が降伏しても、ブレイカーは通常、スカウトされるか追い出されるだけ。戦いにならない限り「皆殺しだ!」という事も普通は無い。野盗も、ブレイカーには怨まれたく無いのである。

 だからサラールも、今はソーダ水片手に傍観を決め込んでいる。彼女は幸い、誰にも雇われていない。

 ただし、雇われたからには命懸けでコトに当たる。それが、ブレイカーがブレイカーたりえる、唯一の掟と言ってもいい。

 だからブレイカーは、依頼は慎重に受ける。また粗略に扱うと、ヘソを曲げる。ブレイカーのプライドは、高山の頂上よりも高いのである。


「あのー、意見を言ってもいいですか」


 と、会議の口火を切って以来、にこやかに傍観を決め込んでいたバワーズが、久しぶりに口を開いた。皆の注目が、瞬時に集まる。

 どうやらこの自称『一目置かれている男』は、それなりに顔が売れているようだ。

 誰からも異議が出ないのを確認してから、「では」と一つ間を置いて、バワーズが話し始めた。


「私は保安官に賛成します」


 じろり、と、キャラダインがバワーズを睨んだ。それにバワーズが、おどけたように首をすくめる。あまり怖がっている様子では無い。

 バワーズが、言葉を続けた。


「いやー、和睦の可能性を示唆(しさ)しといて言うのもナンですけど、あまり状況が良くなさそうなんですよ」


 ぽりぽりと、バワーズが頬を指でかく。


「夕べの略奪品の内訳を、キャラダインさんはご存知ですか?」

「いいや、キャラバンを守るのに手いっぱいだった。それがどうかしたのか」

「塩と食料だ」


 保安官が、それに応じた。


「あと水のタンクだったかな」

「それです」


 と、バワーズがしたり顔で言う。


「倉庫街には、キャラダインさんの隊商を始め、もっと金になる略奪対象がありました。しかし略奪されたのは、塩や食料品といった品物ばかり。あと、医療品も盗まれています。医者のベンソンさんの診療所に、泥棒が入っています」


 そこまでバワーズが言って、サラールは彼の言わんとしている事を理解した。


「野盗達は飢えているってこと?」


 サラールの言葉に、バワーズは「当たりです」と答えた。


「正確には、飢えていた、と過去形になるでしょうね」


 バワーズが、肩をすくめた。


「私が調べた情報によると、今回現れた『自称MLO』の連中は、北方から流れてきた野盗のようです。彼らは略奪する獲物を求めて流れてきたようなのですが、現状は、かなり困窮しているものと思われます」

「なぜそう分かる?」


 察しの悪い町長が、汗を拭き拭き質問してくる。


「塩です」


 それに、バワーズが答えた。

明日も22時に更新いたします。

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