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赤紅色のマッドピエロ 01

よろしくお願いします。

 モニターディスプレイの中にはてしなく、乾いた荒野が続いていた。

 地平の彼方は(かす)むような茶色と、抜けるような青色の鮮やかな塗り分けになっている。そこでは強い日差しが陽炎をわき立たせ、大地には陽炎が、空の景色を鏡のように写し取っていた。

 枯れているのと変わらないような潅木(かんぼく)が、思い出したように風景を流れてゆく。それはつたない無声映画のような、ひどく不自然に見える光景だった。

 がくん! と突然、その景色が斜めに傾いだ。


 どかーん!!


「うわっ!」


 強烈な炸裂音と衝撃、そして遅れて響いた警告音が、コックピットでうたたねしていたパイロットを、盛大に叩き起こした。

 赤銅色の肌をした、小柄な、まだ少女の面影が取れない女の子だった。


 彼女の名前は、サラール。サラール・パンテラ。身長一五三センチで、体重は軽い方。赤銅色の肌に黒眼、黒髪で、髪型は太目に結った肩までのドレッドにしている。

 眉太で目つきはキツいが、わりと可愛い顔立ちの女の子だった。


「ちょっと、何!? コムディン!」


 彼女は突然の変事に、声を荒げてモニターに叫んだ。


『砲撃です』


 耳に当てたインカムのスピーカーから、合成音声の、しれっとした答えが返される。モニターには射軸線を表示する赤い点線が、地形図に重ねられて表示されていた。データが、ものすごい速度で解析、羅列されてゆく。

 彼女はシートの両脇から出ているレバーを握ると、センサーの索敵モードを立ち上げた。メイン、サブの各モニターが、レーダー、赤外線(IR)、動体探査の結果を表示する。

 射線の方向に、サラールは黒煙を見つけた。かなり遠くだ。


『光学測定による発射位置は、十時の方向約五キロメートル。ロケットランチャーか何かの、流れ弾が飛んできたようですね。どこの誰だか知りませんが、迷惑な話です』


 コムディンと呼ばれた合成音声が、冷静に状況を評する。


「行くわよ」


 サラールは頭にヘッドギアをかぶると、レバーを前に倒し、アクセルを踏み込んだ。ぐんという加速感があって、モニターを流れる風景の速度が増す。

 その光景には、彼女のものではないゴツイ人型の手と、前に大きく張り出した足、そして様々な計器類が表示されていた。


 彼女が乗っているのは、ブレイク・ギア(BG)という、人型メカである。


 騎体名は『マッド・ピエロ』。脚部先端にローラーの付いた四足歩行型のシャーシに、人間の上半身を乗せたスタイルをしている。身長は、およそ八メートル。このタイプのBGは、半人半馬の星座にちなんで、ケンタウロス型と呼ばれる事もある。

 装備は、BG用にスケールアップした、大型火器類だ。

 右手に六〇ミリSMG、左腕に複合素材のシールドを持ち、シールド裏には一二〇ミリ誘導ロケット弾の射出機が、四バンク設置されている。

 また肩には、スモークディスチャージャーとチャフポット、対ミサイルミサイル(AMM)ランチャーを装着し、背面には、銃身を二つ折りにした、誘導砲身型の長距離砲(プラズマカノン)を背負っていた。

 マッド・ピエロ本体の、ベースカラーは赤。結構派手だ。少なくとも、実用的とは言い難いだろう。目立つには良いが。

 『コムディン』というのは、そのBGに搭載されている人工知能(AI)の名前だ。「AIのくせにいつも一言多い、小生意気なやつ」とは、サラールの評である。今も『荒れ地はアブゾーバーの調整が大変です』とか、ぶつぶつ言っている。

 道を外れて、起伏の激しい荒野に分け入り約一〇分。小高い丘の上に機体を乗り上げて、やっと状況が把握できた。ここなら地上車両からだとレーダーの影にもなるので、発見される心配も無い。


 荒野の窪地で、戦闘が起きていた。


 襲われているのは、大型の貨物キャリアーを(つら)ねたキャラバンである。都市をめぐって交易を行い、旅先の土地で商売をする、移動商隊だ。旅行者が、道中の安全を頼んで相乗りさせてもらうこともある。

 キャラバンは貨物キャリアーを円陣に組んで、襲撃者と交戦の姿勢を見せている。だが、分は悪そうだ。今も一つ、護衛のものらしい人型BGが、炎と黒煙を上げて吹っ飛んだ所だ。


 このようなキャラバンを襲うのは、普通は野盗と相場が決まっている。和睦、逃走、対処法は様々だが、たいがいは荷の一部を放棄することで見過ごしてもらえるものだ。

 だがキャラバンが円陣を組んでいるということは、襲撃者の目的が、彼らの殲滅(せんめつ)であることを意味している。キャラバンの者達は、したくもない徹底抗戦の構えで敵に(のぞ)んでいるのだ。古い西部劇に出てくるような、インディアンに囲まれた幌馬車隊と同じである。

 そしてキャラバンを囲んでいるのは、銀色の地金を陽光に反射させる、大型機械群だった。


『ハウントマシンです』


 コムディンが言った。サラールも気付いた。


『攻撃型ダッカー五機、電子戦型タランチュラ一機』


 サブ画面に、敵の三面図が表示される。

 ダッカーというのは、アヒルのような逆関節の脚部を持つ歩行戦車で、旋回性能と瞬発力に優れた機動メカである。タランチュラは名前の通り、八本足の多脚戦車だ。これは不整地突破能力と頑丈さに定評があり、指揮官機として見られる場合も多い。

 この他にも『クロウラー』『スクライル』『ガルーダ』『モスキート』といった、その形と移動方法で分類されたり、名前を呼ばれるハウントマシンがある。噂では、全高五〇メートルに達する巨大ハウントマシン、『ガルガンチャー』などという化け物もあるらしい。サラールは幸いにして、噂でしか聞いた事が無いが。


 もっとも、これらのハウントマシンの正式名称が何というのかは、誰も知らない。『ハウントマシン』という呼び名からしてが、この世界の人間達が勝手に付けている呼んでいる、通称なのである。


 そもそも、ハウントマシンとは何なのか?


 ズドン! と、炸裂音を響かせてまた一つ黒煙が上がる。貨物キャリアーからだ。キャラバンには、旅行者のような非戦闘員も居るはずである。略奪が目的ではない。殺戮が目的なのだ。


「コムディン! スナイピングポジション!」

『イエス、マム。全機、狙撃姿勢へ移行します』


 サラールの言葉に応じて、マッド・ピエロが四本の脚を大きく開く。


 がしんっ!


 そして足端のアンカーを、地面に打ち込んだ。


『アンカー打ち込み完了。アブゾーバー最大。全脚、開脚固定。使用武器の選択を』

「プラズマカノン」


 サラールがそう言うと、背面部に斜めに背負っていた大型の大砲が、左の肩越しにせり上がってきた。格納のために二つ折りになっている砲身が伸びて、真っ直ぐ戦場へと照準する。


 プラズマカノンはその名前の通り、高エネルギープラズマを高速で射出する、エネルギー誘導兵器である。レーザーなどの光学兵器に比べて大気などの影響が少ないのが特徴で、連射性と取り回しは悪いが、威力と射程だけはずば抜けている。


『傾斜補正、光学照準補正、大気誤差修正、地磁気誤差修正。射撃管制オールグリーン。ターゲットロック。トリガーはそちらに』


 画面に、八本足の甲虫のような起動メカが大写しになった。

 サラールはレバーのトリガーに指をかけると、それを引き絞った。


 ギン!


 そんな射出音と同時に、タランチュラの背面に大穴が開いた。そして一瞬遅れて、盛大に爆発する。


「第二射、発射準備!」


 しかしそれに構わず、サラールが叫ぶ。


『イエス、マム。コンデンサー、チャージまで、五、四、三、二、一』

()ぃ!」


 コムディンのゼロ・コールと同時に、今度は一機のダッカーの上半身が吹っ飛んだ。頭を切られたニワトリよろしく、それは数歩よろめくように進んでから、土煙をあげて倒れた。

 指揮官機をやられて命令系統に支障をきたしたのか、ハウントマシンは数秒の間、右往左往していた。その間にサラールは、さらに二機のダッカーを狙撃する。

 状況を把握できたのか、キャラバンの中がにわかに活気付く。護衛らしいBGがやっと前に出て、残りのダッカーを撃破した。指揮系統の混乱したハウントマシンならば、それほど手強い敵ではない。

 それで、戦闘は終わりだった。


「コムディン、もういいわよ」

『イエス、マム。全機通常体勢に移行します。ところで、キャラバンより通信が入っていますが』


 コムディンがそう言うと、モニターのサブ画面に、キャラバンの方から走ってくるジープの姿が表示された。それには、身なりの良い恰幅のある男と、用心棒然とした男が乗っていた。


「もちろん出るわよ。謝礼、奮発してもらわなくちゃね」


 サラールが、会心の笑顔で応えた。

明日も22時に更新いたします。

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