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鳥かごの中のブタ!~悪党を成敗す~

作者: 三月坊主

連載の息抜きで書きました。半分ふざけてます。

投稿しといて何ですが、頭を空っぽにしてお読みください(汗)。

 殺人・略奪・飢餓・侵略。

 血と涙を流すことなど当り前の世界に、人々の絶望は沸点に達していた。


 そんな希望も何もない暗黒時代の中、“彼”はついに重い腰を上げて動く。


 勇者は人と誰が決めた? 形ではなく心なのだ!


◇◆ ◇


《CASE① 悪徳奴隷商人》


「お願い! やめてぇええ!」


 ぶ厚い雲に覆われた薄暗い空の下、一人の母親の痛ましい声が響く。

 満足な食事を取れず、か細くなった手を伸ばして――彼女は泣き叫んだ。


 だがその声に答えるのは、声ではなく屈強な男の拳。

 獰猛に振るわれたそれを顔に受けて、母親はうめき声を上げるとパタリと意識を失ってしまう。


「ガハハハ! 今日まで子育てご苦労さまよう! アンタの娘もそう言ってるぜ!」


 小汚い革鎧を纏う男は、振り返って荷馬車に目をやる。


 その獰猛かつ嫌らしい視線の先。

 同じく屈強な男達に囲まれた荷台の上には、怯え震えて身を寄せ合う若い娘達の姿が。


 ――ここはとある王国のとある辺境の村。

 今日まで貧しくも平穏に暮らしていた彼女達の生活は、今日この時、終わりを告げてしまった。


 都からやってきた奴隷商隊と戦い、村を守る男衆は一人残らず散っていった。

 女も子供も年寄りも容赦なく暴行され、若く美しい娘だけが無傷のまま掴まってしまったのだ。


「さあ帰るぞ。いやはや、こんな上玉ばかり手に入るとは……。まだ世の中も捨てたものじゃないな」


 革鎧を纏うお抱えの傭兵達とは違い、上等な絹のローブを着た奴隷商人が笑う。


 一人だけ装飾が施された箱馬車に乗ると、新たに仕入れた奴隷娘達を舐めるように見てから、いざ都に戻るべく出発した――と思いきや。


「ん? なぜ止まる御者よ。もう用事は済ませ……」


 そこまで言って、奴隷商人は見た。


 箱馬車の進路を塞ぐように、正面に立つ小さな姿。

 村の男衆は血祭りに上げて、子供も全員殴り飛ばしたこの状況で一体誰が――。


「おい、その嬢ちゃん達を置いてけよクソ人間。行列のできる繁盛店じゃねえんだ、くだらねえことで遥々都から来てんじゃねえよ」


 突然、颯爽と現れた小さな姿――それは剣を持った人間ではなく、鳥かごに入ったブタ。


 ピッチリジャストサイズで楕円形の鳥かごに入っているという、そのあまりに滑稽な姿への疑問は……ブン投げておいて。


 とにかく彼は、黄金の鳥かごから出た豚足で地面を踏みしめ、同じく出ている豚腕(?)を腕組みして仁王立ちになっていた。


「何!? なぜここにブタが……! というかなぜ鳥かごに!? そもそもブタが喋っ――」

「うるせえ! 悪党が生意気にブーブー言ってんじゃねえぞ!」


 驚く奴隷商人を一喝して、鳥かごの中のブタは敵意満々で構える!


 すでに彼を邪魔者と判断した傭兵達が、鉄剣を抜いて襲いかかろうとしていたからだ。


「フゴッ、上等だ! 俺さまを調理しようなんざ百万年早え!」


 叫び、鳥かごの中のブタの食欲、ではなく魔力が高まる!


 彼はニヤリと笑うと、両腕を突き出してブタのヒヅメを見せつけて――。


「『焼きブタ魔法』……“火炎地獄”!」


 瞬間、放たれた『焼きブタ魔法(すんごい火魔法)』が足元から傭兵達を包み込む!

 強靭な肉体と優れた剣技を持っていても、圧倒的火力を前に成すすべなく焼かれていく。


「バカな!? たかがブタごときに……!」


 それが奴隷商人の最期の言葉となった。

 一発目の炎には入っていなかったが、次に放たれた二発目の炎に箱馬車ごと包み込まれたからだ。


 ――三十秒後。

 激しく焼け焦げた大地には、そこにあった悪も亡骸も何一つ残っていなかった。


「あ、ありがとう! どちらのブタさんかは知りませんが……おかげで助かりました!」


 荷台に積まれていた娘の一人が、急いで飛び下りて鳥かごの中のブタに駆け寄る。


 しかし、彼は娘には振り返らずに村の外へとトコトコ歩き出す。

 片手だけを上げて、クールにブタっ鼻を鳴らしながら、


「ブーたれないで強く生きろよ? お前らは家畜じゃないのだから」


 それだけ言うと、鳥かごの中のブタは次の悪を目指して去っていった。


◇◆ ◇


《CASE② 世界的盗賊団》


「くッ! おのれ貴様ら地獄に落ちろ……!」


 とある王国の城にある、それはそれは巨大な宝物庫にて。

 忠義に厚い騎士団長は、床に這いつくばって目の前の侵入者に悪態をついた。


「ハハッ、その言葉は心外だね。どうせこの国は魔族に落とされる……。だから同族のボクが、盗られる前に確保してあげたんじゃないか」


 騒ぎを嗅ぎつけた騎士団員達のなれの果てと宝の山を前に。

 世界を股にかけて暗躍する盗賊団の団長は、自身の剣についた血を払い落しながら言う。


 ……時代が時代なら、この男もまた騎士団の一つも任されただろう実力者。

 だがそれも夢物語、こうして盗賊団に身を落とし、暗黒の時代を彩る闇の一部となっている。


「――よう。なら俺がまた確保し直してもいいんだな? 肉も宝も安全第一だぜ」

「ッ!? 誰だ!」


 突然、宝物庫に響いた声に、盗賊団の団長は声がした方向を向く。


 そこにいたのは、鳥かごの中のブタ。

 亜人の豚人族でも魔物のオークでもなく、シンプルにただのブタである。


 そんな彼は騎士団員達が倒れている中、たった一匹宝物庫の扉を塞ぐように、仁王立ちでポツンと立っていた。


「鳥かごに入った……ブタだと!? そのふざけたナリ、貴様はまさか……!」

「あン!? 誰がクソ煮玉子体型だと? ……初対面なのにテメエ、ケツの穴に指突っ込んでブタっ鼻を鳴らしてやろうか!」

「いやそうは言ってない……!?」


 登場して早々、カン違いから怒り心頭になる鳥かごの中のブタ!


 すうっと両手を前へ、高まった魔力からの『焼きブタ魔法』を発動しようとするが――。


「遅えよブタが! ――ったぜ!」


 魔法が発動する前に、素早く一斉に襲いかかった盗賊達。

 両刃の剣や曲刀、細剣や槍やらが見事なタイミングで鳥かごの中のブタを襲う。


 ――ところがどっこい!


 ガキィイイン! と重なり合った大きな金属音が一発。

 ブタが入っている黄金の鳥かごは、その中身であるブタに傷一つ負わせなかった!


「「「「!?」」」」


 その事実に目をひん剥いて驚きチビる盗賊達。

 たしかに鳥かごは硬そうだが、きちんと隙間を狙ってブタを狙ったはずなのに……。


 盗賊達は知らない。……あとついでに言うと、ブタもよく分かっていない。


 この黄金の鳥かごは、世界で最も硬いオリハルコン製かつ、失われた魔法『絶対防御デス』がかけられた『古代アーティファクト』。

 いかなる攻撃からも中にいるブタを守る、いわば難関不落な小さき要塞なのだ!


 ちなみに、鳥かごから出ている豚足なども無事なのは……『ご都合主義デス』という、これまた別の失われた魔法の効果である!


「フゴッ、残念だったな。もっとしっかりメシ食ってから挑めってんだ三下!」


 鳥かごの中のブタは、込めたままだった『焼きブタ魔法』を発動した。


 くるっと軽快にターンしながらの“火炎放射”! 接近していた盗賊達を、まとめて一気に焼き尽くしていく。


「こ、これが噂に聞く鳥かごの中のブタ……」


 騎士団長は剣を杖にして立ち上がり、圧倒的な力で盗賊、いや人間を倒したブタを凝視する。


 対して、鳥かごの中のブタはというと。

 フゴッ! とブタっ鼻を鳴らして、宝の山には見向きもせずに、


「後始末は任せたぜ団長さんよ。分かってるとは思うが、食の次に大事なのは宝じゃなくて国だからな?」


 すれ違う瞬間、トンと騎士団長の肩を叩くと、鳥かごの中のブタは宝物庫を出て、城の窓から飛び降りて消えた。


◇◆ ◇


《CASE③ ブタ領主》


「ふぉっふぉっふぉ! 今日は実にいい湯じゃったのう!」


 バーコード頭のでっぷりと肥え太った領主は上機嫌に笑う。

 桃色バスローブ姿で浴室から出ると、すぐ隣にある自分の私室に入って革張りのソファにドスンと座った。


 絵画に彫刻に宝石に。領主だけあって部屋には高価な調度品が数多く並んでいるが……それは領民から絞り取った重税によるもの。


 まさに絵に描いたような圧政。領民が飢えようとも華麗にスル―。

 暗黒の時代と言われて久しい昨今、この男だけは左うちわの悠々自適な生活をしていたのだ。


 そんな領主失格な男は、浴室で自分の体を隅々まで洗わせた召使いを呼び寄せるため手を叩く。


 ……だが、現れたのは浴室にいた召使いではない。


 ノックもなしに部屋のドアが開け放たれて、トコトコ入ってきたのは鳥かごの中のブタ。


「いい御身分だなブタ野郎。ここまで腐るとブタ小屋以上の臭いだぜ」

「!? なんじゃ貴様は! ……いや待て、その鳥かごとブタのセット――近頃暴れ回っとる賊じゃな貴様!」


 領主はブタが何者であるかに気づき、

「者ども出合え出合えッ!」と、声まで肥えた声で衛兵を呼ぶ。


 しかし、待てど暮らせどシーン……。誰一人やってきやしない。


「バカかテメエは。俺は真正面から入って来たんだぞ? 途中で邪魔してきた肉はとっくに焼いたに決まってんだろ」


 鳥かごの中のブタは言うと、もうキモいから死ね! とばかりに両手を前へ。


『焼きブタ魔法』。

 多くの悪党を“アルティメットウェルダン(消し炭)”な焼き加減で葬ってきたすんごい火魔法が、巨大な火の玉を生み出して領主に迫る!


 ところがどっこい、戦う力など持っていないはずのその男は、なぜか巨大火の玉を受けても『無傷』だった。


「ふぉっふぉっふぉ! 残念じゃのうブタめ! 貴様の愚行の数々は知っておる。こんなこともあろうかと、レジストアイテムを身につけておったのじゃ!」


 ニヤリと口元を歪めて、領主は豚足みたいな左手首につけた赤い腕輪を見せつける。


 ――『火竜の腕輪』。

 火魔法に対して高いレジスト効果を持つ、かなりのレア度を誇る代物だった。


「へえ、中々美味そうなのを持ってんじゃねえか。……けどよブタ野郎、どうせなら国宝級のアイテムを用意しておくんだったな!」


 魔法を防がれても顔色一つ変えず、鳥かごの中のブタは再び魔力を高める。


 そして、次なる炎が激しく領主に襲いかかる! と思いきや。


「何ぃいい!?」


 三段腹を揺らして驚く領主が見たのは、鳥かごの中のブタが『自分に向けて』魔法を撃つ光景。


 しかもそれを口の中へ、まるで『炎は飲みもの』とでも言うかのように、灼熱の炎を次々と胃袋の中にしまっていく!


「焼けねえならもっと強火にすりゃいいだけだ。“ブタの腸詰め”――圧縮圧縮!」


 ブるるン! と、炎を飲み込んだ鳥かごの中のブタの体が震える。


 ブタの食欲に加えて、鳥かごによる『絶対防御』の効果でダメージを受けず、体内で炎が圧縮されたのだ!


 そして次の瞬間。彼の口からは火竜も真っ青な『火炎ブレス』が放たれた。


「ぎゃぁあああ!」


 領主、いやブタ領主の、いやいややっぱり焼きブタ領主の断末魔が響く。


 猛る炎が部屋中に荒れ狂い、それがやっと収まった時には――何もかもが焼き尽くされて、黒コゲた床以外の全てが消失していた。


 ――これにて決着。

 また次の悪を目指すべく、鳥かごの中のブタは歩き出そうとしたが……その足を一度止める。


 散々、私腹を肥やして体も肥やしたブタ領主。

 同じブタでも、体型でブタと一括りにされるのはいささか気分が悪い。


 だから彼は、誰が聞いていなくても……名を名乗る。


「俺の名はブートン。テメエよりよっぽど自立したブタなのさ」


 そう言って満足した彼は、領民達が己の力で立ち直るのを信じて、再び歩き出した。


◇◆ ◇


《CASE④ 巨大麻薬結社と帝国軍部》


「……よし、たしかにブツは確認した。十億ゴールド、こちらも金はきっちり用意してある」


 魔物さえ寄りつかないような、乾いた風が吹き荒ぶ断崖の上。

 そこで行われていたのは、大量の麻薬の取引だった。


 巨大麻薬結社の構成員と、悪名高いとある帝国の軍部。

 双方にとってかつてないほどの大きな取引が、誰も寄りつかない場所で成立――しない。


「なるほどな。フゴフゴ鼻を鳴らして来てみれば、想像以上のトンデモ取引ってわけだ」


 鳥かごの中のブタ、改めブートンが登場。

 ブタの気配を殺していた彼は、代表者らしき二人のすぐ近くまでトコトコ接近していたのだ!


「ん? 急に誰だ失礼なヤツめ。取引はまだ――ッ!?」

「チィッ! まさか鳥かごの中のブタのお出ましかよ!」


 帝国側の代表と麻薬結社の代表が突然の事態に口を開く。


 男達は知っていた。

 このところ世界中の悪党が闇に葬られる現状を。そしてその原因となっている者を。


 だからこそ、取引の空気はガラッと変わり、ヒリつくような戦いの空気となっていた。


「フゴッ、理解が早いな。ならテメエら、チャーシューになる覚悟はできてるってわけだ!」


 その言葉は悪党にとっての死刑宣告!

 ブートンは早撃ちガンマンのごとく、自慢の『焼きブタ魔法』を発動させる。


「「甘い!」」


 と同時。それぞれの組織の代表の男が叫んだ。


 即座に展開されたのは、いかなる炎も寄せ付けない『防御陣』。

 ブートンの『焼きブタ魔法』を、生半可なレジストアイテムでは防げないことを把握していた彼らは、


 国宝級アイテム、紅蓮色の宝玉に宿った『炎獄神(イフリート)の魂』を、一気に二つも開放してきたのだ。


 それにより、この空間の生きとし生けるものは炎を受け付けない状態に。

 幹部から下っ端まで、戦闘力に関わらずブートンの『焼きブタ魔法』では調理できなくなってしまう。


「ほう。今度のヤツは絶品アイテムを持ってるじゃねえか」


 入手困難な食材、じゃなくてアイテムを出してきた敵に、素直に感心するブートン。


 ……だからといって、問答無用の地獄への出荷コースは覆らない。


「この世に危ねえクスリなんざいらねえ。ヨダレを垂らして目がイッちまうのは――美味いメシを前にした時だけと相場が決まってんだよ!」


 叫び、ブートンは『焼きブタ魔法』、“炎の鉄槌”を発動する!


 もちろん敵側に効果はない。

 体内でどれだけ“腸詰め”(炎を圧縮)しようとも、国宝級アイテムの強力な効果で無効化されてしまう。


 ゆえに、ブートンが狙ったのは断崖そのもの。


 質量を持った炎の槌で、足元の赤土の崖を『破壊』し始めたのだ!


「「「「「「オイオイオイブタァアアア!?」」」」」」


 炎への備えは完璧! と安心していた両組織の者達は悲鳴のような声を上げた。


 そりゃそうである。

 どこの誰が断崖を崩されるという、ハードで自殺なシチュエーションを考えると言うのか。


 いくら暗黒の時代でも正義というものはあり、組織は絶対に見つからない場所を取引現場に選んだのだが……完全に仇となっていた。


 ゴゴゴォオオオオ――!

 天にも届かん、もうバカみたいな轟音と共に破壊された断崖が連鎖的に崩落していく。


 そうして、今日イチの轟音が鳴り響かせて、人も岩も大量の麻薬も崖下に落下した後――。


 もうもうと立ち込める麻薬の粉と土埃の中。

 約百センチの煮玉子体型、ブートンただ一人がむくりと立ち上がる。


 古代アーティファクトである鳥かごの『絶対防御』により、見事に敵だけを全滅させることに成功したのだ!


「ったく、くだらねえものを作りやがって……。人間なら食いものを作れ食いものを!」


 あまりの煙たさ(特に麻薬が)に顔をしかめながら、ブートンは暗い崖の下をブタっ鼻を鳴らして突き進む。


◇◆ ◇


《LAST CASE 大魔王》


「……フハハハ! ついに来たか!」


 暗黒に染まる世界の北の果て。

 氷雪が吹き荒れる氷の大地に立つ漆黒の城で、悪魔のごとき姿形(ご想像にお任せ)のマントを纏った大男――『大魔王』は堪え切れず楽しそうに笑う。


 その大魔王の手元にある水晶に映るは、単騎で城に侵入したブートンの姿。

 大魔王の配下である下級~上級の魔族達を、『焼きブタ魔法』で消し炭に変える光景だ。


 そして、ついに。


 門のごとく重厚な王の間への扉が吹き飛び、ブートンが灼熱の業火の中から登場した。


「よう魔王。地獄へ出荷――じゃねえな。あえて勇者風に言うなら、この俺さまが討伐しにやって来たぜ」

「フハハハ! やはり見ていた通りの威勢のいいブタだな。我は貴様が来るのを待ち遠しく思っていたぞ!」


 玉座から立ち上がり、階段を下りていく大魔王。

 かたやブートンも王の間をトコトコ進み、二つの存在は中央で対峙する。


 ブートンの前にいるこの男こそ、暗黒時代の元凶――。

 存在するだけで星の空気が穢れ、人間の中に眠る“悪”を刺激してしまうのだ。


「テメエが現れてから十年か。――っとに迷惑な野郎だ。今日び魔王なんざ流行らねえんだよ!」

「フハハハ! ならば我を討ち取り世界に平和を導いてみせるがいい! あと魔王ではなく大魔王だ!」


 ブタの勇者と大魔王は短く言葉を交わすと――間を置かずしてぶつかり合う!


 ブートンはもちろん超絶強火な『焼きブタ魔法』。

 一方の大魔王は黒く禍々しい闇そのもの、『暗黒魔法』を発動した。


 刹那、互いに喰らい合うように衝突する陰と陽。

 その結果は……大魔王の魔法が上回り、黒い濁流となってブートンへと襲いかかった。


「フゴッ、気に食わねえな。その闇、俺の炎以上の味付けってわけか。――なら!」


 だが、鳥かごの『絶対防御』により無傷だったブートンは次の手を打つ!


『焼きブタ魔法』を自分に向けて撃ち、

「“ブタの腸詰め”圧縮圧縮!」で威力を高めた炎を大魔王へとやり返す。


「フハハハハ!」


 対して、大魔王はただ笑い、背中のマントをはためかせてその攻撃を受け入れた。


 にもかかわらず、焦げくさい臭いは一つもない。

『暗黒魔法』を受けたブートン同様、一つの傷も火傷も存在していなかったのだ。


「何? 直撃して生焼けにすらならねえとは……。まさかテメエもレジストアイテムを――」

「フハハハ! バカめ、大魔王たる我がそんなものに頼るものか。純粋な防御力が貴様の魔法を凌駕しただけだ!」


 ブートンのカン違いに、腹を抱えてバカにするように笑う大魔王。


 ブタと大魔王の圧倒的な力の差。

 侵略などせずとも、存在するだけで世界に悪影響を及ぼすその力は、さすがに伊達ではないようだ。


「だがまあ、その鳥かごの『絶対防御』だけは見事なものだ。我の『暗黒魔法』は全てを無に帰す。間違いなく世界で唯一の対抗策だろう」


 大魔王は踏ん反り返りつつも感心したように言う。


 ――つまり、この一人と一匹では勝負がつかない。

 どちらもダメージを与えられず、無駄に時間と魔力を消費して腹が減るだけ。


「……ほほう」


 しかし、ブートンは勝機を見出していた。


 豚足ならぬ豚腕をチョイチョイ、とやって大魔王を挑発!

 案の定イラついた大魔王が、マントを揺らめかせて自慢の『暗黒魔法』を放ってくるのを見て――、


「墓穴を掘ったな大魔王。――“いただき”だ!」


 ブートンは鳥かごの中で笑う。

 そして迫りくる闇の濁流を受ける。否、食べる!


『絶対防御』とブタの食欲を利用して、胃の中に全て残らず流し込んだのだ!


 さらにッ!


「こんなマズイもん犬も食わねえが仕方ねえ。“ブタの腸詰め”――圧縮圧縮!」

「!? まさか貴様……! 我の『暗黒魔法』を!」


 大魔王が気づいた時にはもう遅い。それこそ太り過ぎたブタの足のように。


 全てを無に帰すご自慢の『暗黒魔法』、それを防げるのは古代アーティファクトである鳥かごのみ。


 つまり、圧倒的防御力を誇る大魔王も例外ではない。

 しかもその凶悪極まりない魔法が、ブタの体内でさらに圧縮されようものなら……!


「――終わりだ。地獄で閻魔にブーたれな!」


 瞬間、ブートンの口からドス黒すぎる闇が放たれた。


 元の主人に戻るかのように一直線に大魔王に直撃すると、その体は一切の抵抗もできずに霞のごとく消えていく!


「お、おのれブタめぇええええ!」


 自身の魔法によって存在が消失していく大魔王は、最後に怨嗟えんさの声を上げた。

 その瞳に映るのは、背中を向けて自分など見ていない、鳥かごの中にいるブタの姿。


 ブートンはすでに大魔王ではなく、これから進む世界の行く末に目を向けていたのだ!


「ブーたれずにちゃんと立ち上がってやり直せよ人間ども。テメエらはただ食うだけの、家畜のブタじゃないのだから」


 そう呟いたブートンは、北の空に満足げにブタっ鼻を鳴らした。

読んでいただいた方は本当に感謝です!

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