It's All Right With Me6
「見損なったわ……」
ぶつぶつと呟きながらアンジェラは旧名古屋駅周辺を歩く。
かつて『案内が不親切な駅』として名を馳せていた名古屋だが、今は『旧名古屋駅』に名を改めている。本来ならもう少し小ましな名前がつく予定だったらしいが、旧愛知県が日本から見放されて新しい管理団体が発足するまでにこの名が定着してしまったそうだ。オールドとネグローニが酒を飲む際、そんなようなことを話していたなとアンジェラは思い出した。
さて、とアンジェラは息を吐く。腕の中では、赤子が寝息を立てている。こうも愛くるしい存在を、どうしてあのわからず屋は捨て置けるのか。アンジェラには全く理解できなかった。
旧名古屋を歩く雑踏が、物珍しそうにアンジェラを見る。人形のように顔立ちの整った年端もいかない少女が赤ん坊を抱いていれば、嫌でも目立つ。ルツボの混沌区域では体を売った結果望まぬ妊娠をする少女もいるが、そのような少女はそもそも居住区に姿を現さない。あるいは用なしとして、早々に
赤ん坊が目を開ける。再びセーラー服のリボンを咥え、じっと少女を見上げる。このリボンはオシャカだな、アンジェラは悟った。
起きた赤子をあやしながら、アンジェラは「よちよち」と微笑む。
「あんな非道おじさんなんかには頼らずに、私がちゃーんとママになって育ててあげるわ」
その前に名前決めなきゃねと呟いた瞬間、赤ん坊が声を上げて泣き始めた。当たり前だ、赤子なのだから。
ぎょっとアンジェラが目を剥く。今の今まで大人しく喜んでいたのに次の瞬間には泣き始め出した。どうしようどうしようと、首を振る。
「何? どうしたの?」
勿論赤子は答えない。
「ごはん? 寒いの? なにが欲しいの?」
ごはん、ミルク。
そう至った瞬間、アンジェラはハッと硬直した。
「私、おっぱい出ないじゃない……」
当たり前である。
例外が稀に存在するとはいえ、基本的に母乳は出産を経ていなければ出ないものだ。そして目の前の赤子はアンジェラが産んだわけではない。母乳が出ないことは、誰の目から見ても明らかだ。
「ほら、これあるわよ! 好きなだけ咥えていいから!」
先ほどまで気に入っていたリボンをちらつかせるも、赤ん坊は泣き止まない。寧ろ主張している欲求が満たされず、不満を募らせているようにも見えた。
撫でても揺り籠のように揺らしても泣き止まない。眉を下げ、スマートホンを取り出した。
「どうすればいいのよぉ」
ほとほと困惑し、いろいろと調べる。しかし決定的な理由を見つけることもできないまま、時間だけが無為に過ぎ去っていった。
どうしようもない。何か教えてくれるわけでもない。募る不満にこめかみが痙攣する。
いい加減にしてよと吐きかけた時、けたたましいクラクションが少女の背中を叩いた。
振り返る。高級外車の窓から身を乗り出したネグローニが、かけていたサングラスを押し上げて目を丸めていた。
「どうしたんだ、いったい……」