It's All Right With Me5
そうじゃねえだろと男は続ける。
「要はお前の気分だ、エゴだろ。助ける助けないもお前の気分だってか? それこそ勝手で最も傲慢だ命を差別するな。命に対して、責任を持てよ」
「殺し屋のセリフとは思えないわね」
「人を殺すからそう考えろ。命に対して責任を持て。それができねえなら、さっさとそいつ戻せ」
オールドの言葉に、アンジェラがもごもごと口を動かせる。何か反論したいが具体的に言葉が浮かばないときの、少女の癖だ。
煮え切らないアンジェラを見かね、オールドは頭を振った。
「ダメだな」
琥珀で唇を濡らし、静かに言い切った。「お前、やっぱりこの世界向いてねえぞ。センスや才能はあるけど、それだけだ」
アンジェラが唇を震わせる。目じりに大粒の涙を溜め、腹の底から声を絞り出した。低く、小型犬が唸るように。
「アンタに相談した私が馬鹿だったわ……」
リビングを飛び出す。あっという間に身支度をリュックに詰め込んだアンジェラが、鼻息を荒げる。
目論見を察したオールドが、ため息を吐いた。
「一時の勢いに流されるなよ。もう少し大人になれ。今出てどうする? そのガキ養いながら学校に行けるのか? 金はどうするつもりだ」
「お金なら貯金してるもの。貴方と一緒にしないで」
「苦労する、なんてレベルじゃねえぞ」
「私はそれでも構わないわ」
アンジェラが言い切る。
「この子は私が育てるんだから! あなたなんかに頼らなくても!」
赤子を抱き上げ、背を向ける。
「世話になったわね、じゃあ」
あえて足を強く踏み出し、どすどすと足音を立てる。今まで聞いたことのないような音でドアを閉ざし、アンジェラは家を出た。
先ほどまでの喧騒と打って変わって静かになった部屋で一人、オールドは口を半開きにさせる。
馬鹿野郎と呟き、時計を見上げる。時刻はそろそろ、夕食を摂ってもいいころ合いだった。
「……飯にするか」
独り言ち、キッチンへ。棚を漁りながら「あ」と漏らした。
「フライパン、どこにあるんだっけ」