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オールドファッションⅡ  作者: 僕と久保
7/30

It's All Right With Me4

「返してこい」

 アンジェラの見込みとは面白いくらいに、オールドの反応は冷めきっていた。左目を閉じ、真剣な眼差しで嫁や愛娘を研いでいる。

 男の反応を呑み込めなかったアンジェラが、「でも」と食い下がる。

「親も死んで一人きりなのよ? それを放っておけっていうの?」

「そうだ」

 オールトは淡々と答える。

「自分から弱みを作るようなことすんな。そのガキ拾って、お前はどうしたいんだよ」

 言われ、もごもごと口を動かせる。

「と、当面の面倒を見ようかって……」

「当面ってどのくらいの期間だ? それ以降のヴィジョンあんのか? 育てるリスク一瞬でも考えたか?」

 オールドにしては珍しく正論をぶつける。愛娘である一本のナイフを、壁に駆けた的へ投げた。くるくると回転し、ナイフは的へ突き刺さる。

 満足げに頷いたオールドが、棚からウィスキーを持ち出す。ショットグラスに注ぎ、「で」と切り出す。真面目な話をする際、オールドは決まって酒を出す。それが、彼なりの決まりらしかった。

「三年前に出した条件忘れてねえよな」

 当初の約束を出され、アンジェラは言葉に詰まる。渋々、口に出した。

「『勝手に面倒ごとを持ち込まない』と『勝手に仕事を取ってこない』でしょ」

 わかってんじゃねえかと、殺し屋はウィスキーを呷る。

「で、その約束を果たそうとした結果がこれか?」

 今はソファで寝転がる赤子を指さす。中学校の制服であるセーラー服のリボンを大変気に入り、今でも赤子はそれを咥えている。

「なんにもわかってねえ状況でガキ拾うのがどれだけリスキーか、わかってんのか? そのガキが何かやばいことに巻き込まれてるのはわかるだろ。仕事でもねえ厄介ごとを、背負い込ませるなよ」

「そんな言い方ないじゃない!」

 オールドの正論に、アンジェラが勢いよく噛みついた。

「じゃあ何? オールドはこの子がいつか殺されるかもしれないのを黙って見過ごせっていうの!? 死ぬのが分かってるのに、それを見過ごすの!?」

「そうだ」

 男は再び、淡白に返した。

「俺たちの世界はな、感情で動いちゃいけねえんだよ。正義の味方であっちゃいけねえんだ」

 水を飲み、「例えば――」と指を振る。

「お前の下校路に段ボールがあるとする。その中に無責任ながらも経営がひっ迫して面倒見切れなくなったからってホームから捨てられた八人の赤ん坊がいたとしろ。そいつらも放っておけばいずれ死ぬ。まさかそいつら全員持って帰るつもりじゃねえだろうな?」

「極端すぎるわよ」

 アンジェラが呻く。

「でもその子たちも誰かいい人に見つかって拾われるかも――」

「じゃあお前がいま拾ったそいつも、誰かいい人が拾ってくれることを祈って元の場所へ戻してこい」

「それとこれとは違うじゃない!」

「同じだ」

 殺し屋は、どこまでも冷たい。

「道端に転がった命を拾う、それ以上でも以下でもねえ。わかったらさっさと戻してこい」

「傲慢よ」

「俺に言わせりゃ」

 オールドは、勿体つけながら話した。

「お前のほうがよっぽど傲慢だ。助ける助けないの基準は何だ? 偶然男を殺した罪滅ぼしか? 道端に捨てられてたら拾わねえのか? 赤ん坊は助けるくせにチンピラからボコられてオヤジ狩りされてる中年は助けねえのか? 母親から『育てるお金がないから助けてください』って言われたらそのガキ引き受けんのか?」


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