It's All Right With Me3
腕の中で動くそれを見ながら、アンジェラは口を半開きにさせる。まさか、こんなものを拾ってしまうだなんて。
どうしよう。
第一声はこれだった。当たり前である。まさか赤ん坊を持っているとは思わず、不覚にも助けた形になってしまったのだ。その結果男は死亡、女も死んでいる。なぜ女の命が狙われていたのかも、わからないままだ。
赤ん坊を抱いたまま、おろおろと右往左往する。オールドと一緒に仕事をする過程で背後から標的の首を絞め、抱き込むように窒息させたことはあったものの赤ん坊を抱いたのは初めてだ。勝手がわからず、左右に視線を巡らせる。勿論、アンジェラと赤ん坊以外にこの場は誰もいない。アンジェラの混乱を、誰かが肩代わりしてくれるはずもなかった。
呼吸を整える。とりあえずこの赤ん坊をどうするか、アンジェラはそれだけを考えることにした。
捨てる?
いや。少女は首を横に振る。それはダメだ。うっかりとはいえ助けてしまったのだ。せめて何か目処がつくくらいには、面倒を見なければならない。ここに置いて去ってもいいが、あまりに夢見が悪すぎる。
「落ち着くのよアンジェラ」
少女は自分に言い聞かせる。「どうすればいいのか、スマートに発想するのよ」
手ごろな場所に腰を下ろし、赤ん坊を揺らしてやる。赤ん坊は何が楽しいのか、キャッキャとはしゃぎ始めた。ふと、人差し指を赤ん坊の頬に刺してみる。マシュマロのように柔らかい。人差し指の腹が、めり込む。それも面白いのだろう、赤ん坊は声を出して笑う。
アンジェラが、頬を緩めた。
「可愛い……!」
軽く抱き上げてみる。両手を赤ん坊の脇に差し込み、体を上へ。ぶらんとぶら下がった赤ん坊が、また喜ぶ。
嗚呼――
アンジェラが、赤ん坊の頬に自分の頬をこすり合わせた。
「天使だわ。本当にかわいい」
濁りのない瞳、柔らかい頬、爛漫な表情。どれをとっても愛くるしく、愛おしい。直接腹を痛めていないアンジェラでもそう感じるのだ。死んでしまうのではないかというくらいに痛みを伴って産んだ張本人なら、どこまででも愛せるだろう。母が生前、なぜ自分をここまで愛してくれていたのかをおぼろげに理解した。
未だに何が楽しいのかわからないがはしゃいでいる赤ん坊に対して、アンジェラは「決めた!」と声を張った。
「私があなたのママになってあげる!」
足をじたばたと揺らして声を上げる赤ん坊を、アンジェラは優しく抱き留める。助けてしまった責任だ。せめて、当面どうにかできるくらいのめどがつけばいい。それまでは、母親の真似事もできるだろう。
ただ――
アンジェラが、一瞬顔を曇らせる。
「オールドが許すかどうかね」
呟き、表情を戻す。こんなに可愛らしい赤ん坊だ。あの男も一室で面倒見ることくらい快諾するだろう。
「帰るわよ、家に」
赤ん坊を抱き、腰を上げる。何が珍しいのか制服のリボンを咥えながら、赤ん坊はまたもや声を上げた。