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オールドファッションⅡ  作者: 僕と久保
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It's All Right With Me2

 猫のようにそわそわ肩を揺らしながら、二人の後をつける。その際、ふと鼻先が動いた。犬や猫がするように、周囲の匂いを嗅ぎ取る。

 雨の日の鉄棒や金物臭さを彷彿とさせる、血の匂いだ。見れば女性が歩いた後には赤が尾を引いている。何かあったのだろう、流血していることは明らかだ。

 小ぶりな口から、アンジェラの舌が顔を出す。ひりひりと、意識が狩る側へ研ぎ澄まされることを実感した。

 血の匂いには特定のアルデヒド分子「Trans-4,5-Epoxy-(E)-2-Decenal(トランズ-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール)」という化学物質が含まれており、これによって肉食性の動物は嗅覚を通じ、傷を負った獲物を察知する能力を狩りに生かしたという。図らずにもアンジェラは、その分子によって高揚する体質を有していた。歯をのぞかせ、鞄から銃を取り出す。ベレッタ・モデル92、日本語圏では慣習的にベレッタM92と呼ばれることの多い、アメリカ軍を筆頭に世界中の法務執行機関や軍隊で幅広く使われる。装弾数が15発と豊富で操作性も高く、ベレッタ製自動拳銃の特徴である上部が大きく切り欠かれたスライドは、軽量で射撃時の反動が比較的少ないうえ、排莢口が大きくなるため排莢不良も起こり難い。そして幾多の実戦経験と実績に加え、メディアへの露出が高いことから、現在、世界で最も信頼性が高く、知名度が高い拳銃として知られている。いわば銃のベストセラーだ。

 女が廃倉庫へ逃げる。男が無慈悲に、引き金を引いた。混沌区域に、乾いた発砲音が跳ねまわる。

 女が前のめりに倒れた。ダメージが相当あったのか、まともに受け身を取ることもできないように見えた。ずるずると体を引きずるように、一センチでも男から遠ざかるように地面を這いずる。叫ぶ余力もないのだろう。女は荒い息のまま、地を這う。アンジェラは二人の背を見る形で、背後から様子を見ている。

 必死に生きようとする女と、ふと目が合った。女が振り向いた際に、視線が交錯する。

 女が目を見開き、口をぱくぱくと開閉させた。

 ――助けて。

 後ろに誰かいると悟ったのだろう。体格のいい男が、勢いよく振り向く。


「誰だ!」


 銃口がアンジェラへ。

 男が引き金を引くより早く、アンジェラのベレッタが火を噴いた。

 男の眉間に穴が開く。赤をまき散らして男が死ぬ傍ら、アンジェラが「あ」と呟いた。

 やってしまった。ついうっかり、殺意に反応して殺してしまった。

 銃をしまい、ああと呻く。オールドから控えるように言わせていた悪癖が、ここにきて顔を出した。

 敵意や殺意を向けられると、反射的に相手を消そうと考えてしまう。オールド曰く「熱いモン触って咄嗟に手を引くのと同じだな」と言われたが、そのくらいの自然さで撃ってしまう。稽古をつけてくれるネグローニも、どうしたものかと首を捻るくらいだ。

 しまったあと呟きながら、アンジェラは女の元へ。女は事切れたらしい。呼吸による体の上下もなかった。代わりに、何かがもぞもぞと動いている。何事かと女の体をどかせるや否や、少女は顔を歪めた。

 赤ん坊だ。まだ幼い。抱き上げる。生後2~3ヵ月くらいであろうか。丸い瞳が引き込まれそうなほど純粋な、子供である。「あー」や「うー」と呻きながらアンジェラのウェーブがかった毛先へ手を伸ばす。


「これってもしかして……」


 口の端を痙攣させながら、アンジェラが呟いた。「赤ちゃん?」


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