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僕は殺し屋に向いてない  作者: 土竜道化
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1話-②

彼のメールアドレスを手に入れる為にしなければならないことは、山ほどある。

その存在は都市伝説として囁かれているが、実際に見つけたという報告はない。

だからそんなものは存在しない。と唱える者が大多数を占める中で、報告がないという事実が、彼の仕事の完璧さを物語るのではないか。そう唱える者もいる。

彼のメールアドレスを入手しなさい。と言われたら、数ある模範解答の第一段階、その一つとして、都心部から離れたとある駅で下車して、そこから徒歩15分の「満腹亭」と看板を掲げた居酒屋の暖簾をくぐることが挙げられる。

しかし、その満腹亭に訪れる者の目的は100人いたら98人が「宴」であり、残りは店主とアルバイト1人ずつ、計2人の「労働」である。

いつもであれば。

その日訪れた者の中に一際異彩を放つ女性がいた。おじさまや大学生が団体で騒いでる中、綺麗に櫛を入れた茶髪のロングヘアーの女性が一人で来店し、カウンターの一番端で頬杖を付きながらため息をついていれば、異彩を放つどころかもはや彼女が異彩そのものである。

おしゃれなカクテルが似つかわしいと思われるが、頬杖の隣にあるのはビールジョッキで、さらにその隣にはたこわさと枝豆が並んでいる。

一気にビールを煽った彼女に、アルバイトの女の子が声をかける。

「お飲み物、どうされますか?」

「ここのビール、美味しいわ。ダブルで頂ける?」

アルバイトの営業スマイルがほんの少しだけ引き釣ったのを見て、大学生団体客の青年が彼女の素を感じ、胸が締め付けられる思いをしたとかしないとか、その後彼が彼女を落とすための作戦を立てることにしたとかしないとか、ここから始まるラブストーリーもありそうだが、それはまた別の話である。

アルバイトが厨房の店主に駆け寄りオーダーを通す。

「ビールのダブルってどうするんですか?」

そう言う彼女の顔には「こんなの初めて」「なんなんだろうあのお客さん」と書いてある。耳の後ろの方に「大学生がうるさくて仕方がない」とも書いてある。青年の恋は成熟が難しそうである。

店主は目を細めて、厨房に配置された食器棚に歩み寄った。

綺麗に整頓されたビールジョッキを一つずつ取り出し、その奥から巨大な升を引っ張りだした。

「またこれを出すときが来るとはな」

そう呟いた店主の後ろで、アルバイトの顔に「そろそろ帰りたい」と書かれ始めていたが、大ジョッキ2配分のビールを巨大升に注げと命じられた為、彼女は残業を覚悟するはめになる。

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