1話-①
雨。
見てる分には好きだ。しかし、接するとなると煩わしい。
降らなければ世界が渇いて困るのに、降ったら降ったで気分が良くない。
一番迷惑してるのは雨自身であろう。「どうすりゃいいんだ!?」と怒られそうである。
買ったばかりの傘を装備して、降らないうちから心待ちにしている女の子もいるだろう。
クリーニングしたてのスーツが濡れてしまう、眉をしかめるおじさまもいるだろう。
格言う僕はシトシトと鳴る雨音を聞くのは大好きである。
目が覚めると雨音がしていたので、少しだけ気分が良かった。
カーテンを締め切った暗がりの中で、型の古くなったノートパソコンを立ち上げ、メールのチェックを行う。
迷惑メールのポップなタイトルが並ぶ。そんな中、ただ一つ「依頼」の文字が目に入る。
簡素なタイトルの方がかえって目につくという皮肉な事実に、頭を捻って迷惑メールのタイトルを考えてる不届き者に対して、わずかに同情する。
「仕事か」
じっくりと腰を据えて考えるために、コーヒーを入れる。
人間というものは、なんと言うか、無責任である。
濃いめのコーヒーをすすり、依頼のメッセージを開く。この瞬間は、いつまで経っても少しだけ緊張する。
「憎い」「もう耐えられない」というネガティブな言葉が並ぶ。いつもそうだ。
「とは言ってもなるべく苦しまないよう」「銃殺希望」少し優しい。いつもそうだ。
「銃殺、ねぇ」
大変なんだぞ。計画。
メッセージの返信を打ち込む。
応相談。指定の場所に来られたし。
聡明な読者ならお気づきだと思う。
彼の職業は殺し屋である。
かくして彼は本日、一つの依頼を引き受けるべく場所を指定し、四日ぶりに家を出た。
雨に対して眉をひそめ、その後、少しだけ笑った彼の表情には何かを諦めた悲哀で満ちていた。