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プロローグ
夜。
音という概念が日没と共に崩壊し始め、また彼がやって来た。
彼はいつも神経質で、唯一残った音で僕に語りかける。
カチコチカチコチ。カチコチカチコチ。
いつも、彼の声に怯えた。
さぁ、早く、さぁ、早く。
…死ね!…死ね!…死ね!…死ね!
薄手の毛布くらいしか味方につけるものがなく、ひどく毛羽立った、肌触りの悪いそれで身を覆った。
お願いだから、少し寝かせてくれ。
泣いても許してくれない。逃げてもどこまでも追いかけてくる。
無情にも、いつも彼から僕を救うのは、僕が大嫌いな「明日」だった。
日の光と共に、音が戻ってくる。
彼は舌打ちを一つすると、霧散して消える。
床に散らばった硝子の欠片を見下ろし、僕はようやく眠りに落ちることが出来る。
束の間の休息。
そして、その数十分後に僕は「今日」に起こされることになる。
その瞬間からまた、夜に怯え、明日を嫌う一日が始まるのだけれど。