第一話~少年の過去~
少年は、裕福な家庭に生まれた。
家柄はどうであれ、食事が取れ、睡眠も取れ、欲しいおもちゃやゲームも買ってもらえた。
少年は学校から帰ってきては宿題も放り出して寝る時間までずっと遊んだ。
誰もが裕福だと言える、そんな家庭に少年は生まれた。
「いい加減にしてよね?!」
「叫ぶな、子供に聞こえるだろうが」
「その子供の養育費さえ払ってないのは誰よ?!そろそろ他人面するのやめなさいよ!」
「元はといえばお前が別居するなんぞ言い出すからだろうがこのクソ尼調子乗ってんのか?!」
「それはあの子の体の事を考えてでしょ?!」
そう、裕福だ、幸福ではない。
少年は生まれた時から、人の温もりを感じる事ができなかった。
学校は電車で40分と離れたところに有り、家の近所に子持ちの家庭は無かった。
友達なんて居なかった、遊びたくたって遊べなかった、そして次第にそれが普通になっていった。
「飽きたな・・・」
少年は部屋を出て、両親が居る居間のドアを軽く二回ノックする。
「ちょっと喉乾いたしコンビニ行ってきてもいい?お父さん、お母さん」
「ああ、行っておいで。気をつけて帰ってくるんだぞ?」
「またそうやって・・・あまりに不用心でしょう」
「じゃあ行ってくるね。」
「あっ、待ちなさい!」
その言葉から逃げるように、少年は早足で玄関まで行き、靴を履いて外に飛び出す。
欲しいものを買ってもらえる寸前の子供のはしゃいだ姿を偽って。
心を、閉ざして。