ホームレス失踪事件 #2
「オーダーを発表する」
その場の雰囲気が一気に変わる。そう、ここからが本番。絶対に失敗は許されないミッションの始まりなのだ。
「まず、ラッチョ。お前は出門のリーダーと話してこい。そして、そこで食い止められそうならば食い止めてこい。無理なら理由でもなんでもいいから掴んでこい」
「分かりました」
「マホトとシンゴは街で情報収集。普段通りでな。できるだけ自然体で頼む」
「「分かりました!」」
「ユカねーさんとアニキは店で情報収集と司令塔となってくれ」
「わかった」
「とりあえず以上だ。今後の作戦の指揮はアニキに任せる。皆、コイツの言うことに臨機応変に対応してくれ」
「おーけ、ってええ!俺が指揮をとんのか?なんで」
「俺がそう決めた」
「トウジがリーダーだろ?敷はお前が! 」
「俺からのオーダーだ。何か文句あるか? 」
「っつ、オーダーなら…仕方ねぇ…」
「とりあえず今日のミーティングはこれで終わりだ。皆、解散してくれ」
「「「うぃーっす」」」
ミーティングが解散した後、各々が帰っていく中、トウジとユカだけが残っていた。
「トウジ、説明してくれ。なんで俺が指揮なんだ」
「ん、なに。単純にお前にはその素質があるってことだけだ」
「そうは思えないが」
「いやいや、あると思うよー。ユカが見る限り兄ぃは人を動かすのが得意だし、状況判断能力も長けてると私的に思うけどね」
「そら、ねーさんも言ってるだろ? 」
「あのなぁ…… 」
「それに、今回俺は皆の状況を判断して指令を出すような余裕がなさそうなんだ」
「どういうことだ」
「この事件に『メルトダウン』が絡んでるらしい」
「『メルトダウン』?なんでだ、一体あいつらになんの得があるんだよ」
「最近出門が羽振りを利かせてるだろ? それを快く思っていないっていうことだ」
「だから、どういう関係が? 」
「おそらくではあるが、とサツが組んでるっぽいな」
「あっ……… 」
「ん、どうした? 」
「そんな噂を今日カフェの客がしていた」
「ほらねー。そういうとこだよ。兄ぃが褒められるのは」
「違うと思うけどなぁ… 」
「とにかく、俺は裏で動かなければならん。これを期に、サツの真の目的をばバラさねぇといけねぇからな」
「そういうことならしかたないが…、あんまり無茶すんなよ?このチームにはお前が必要なんだからな」
「分かってる。危ないと思ったらすぐ引くさ」
「そうしてくれ」
俺は戸棚からスコッチを取り出す。
「なんだ? 」
「気にすんな、絶対戻ってくるっていう約束の証だ」
「いいねー、その男臭いの。あたしも交ぜて交ぜてー」
三人分のグラスにそれを注ぐ。
「また、ここで全員欠けることなく集まるぞ」
「当たり前だ」
「ですな」
そう言って俺たちはその苦い液体を一息で飲み干した。
#
カフェの朝は早い。朝六時、この時期少し朝方は冷える。しかし起きねばならない。
店が開く九時までに店内の掃除、食器磨き、仕込みなどをしなければならない。
あまり客は来ないが、そういった点に関してはとてもきっちりしてしまうタイプだから仕方がない。
そして、開店時間。店の玄関に置いてある看板を『OPEN』に変える。この変えるときの感じがなんというか、とてもやる気にしてくれる。
そして、開店して十分後、最初のお客の訪れを知らせるベルがなる。まあ、最初の客は絶対にあいつなのは知っているが一応客は客なので挨拶だけはする。
「いらっしゃいませ」
「ん、今日もごくろーさん」
「なんで上から目線なんだよ」
……、そうコイツ。ユカねーさん。トリガーに入る前から常連ではあったが、トリガーに入ってからというもの一日のほとんどをカフェで費やしている。変人だ。
「ほんっといっつもくるよな」
「あたし?まぁね、ここ好きだし」
「そりゃなぁ、嫌いなとこに入り浸るかよ」
「あたしにとって、ここは家みたいなところなの」
「そうなのか?それはそうとよく金があるな。働いてんのか」
「まあ、ネットでポチポチと。生活にはあんまり困ってないよ。光熱費あんまりないもん」
「ほとんどここに居るしな」
「ほら、無駄口叩いてないで。あたしにいつもの」
「はいよ、カプチーノな」
そういってカプチーノを淹れ始めると、ユカはパソコンを立ち上げ怪訝な顔をした。
「何かあったのか? 」
「どうも不自然なんだよ」
「何が? 」
「昨日、リーダーがメルトと警察がグルだって言ってたでしょ。けど、その根拠がどこにもないの」
「というと? 」
「噂にはなっているけど、全く中身のない噂だということ。グルだって言われててもその根拠が全くない。証拠だとかそういうネタが一切ないの」
「それは信憑性にかけるな」
「なのにリーダーはそれを信じた。あの人だって能無しじゃない。こんな噂にみすみす騙されるような人じゃないはず」
「それがおかしいと? 」
「リーダーはまだなにか隠してる。それが何なのか分からないけど」
場所は変わって駅前公園。
「なー。マホトー」
「んだよ、今噂話を聞くのに必死なんだよ」
「そりゃ見ればわかるけどさー。もうちょい肩の力抜けよ」
「おお、とてもリラックスしているけど」
「あのなぁ…、そんな顔真っ赤で周りキョロキョロしてたら不審者だと思われるからやめてくれ」
「んああ、そんなにひどかったか」
「もう、とてもな。そんな気張らなくていいんだ。いつも通り街をぶらついてりゃいいのさ」
「お、おお。シンゴは慣れてるな」
「普段通りつってたろ。お前が変に意識しすぎなんだよ。ほら、行くぞ」
「待てよ!置いてくなって」
「確か、姐さんが言うにはこのあたりのバイク屋らしいんだが一体どこだ」
出門の元リーダーは、今はバイク屋の一店員になっているらしいと聞きつけ、隣町までバイクを走らせてきたが、一向に見つかる気配がしない。
「やっぱり間違いだったのか。いや、けど、姐さんの情報が間違っていた事なんてほとんどないからなぁ…」
「いい、バイクですね」
「うひゃあ!!」
いきなり後ろから話しかけられ、びっくりし、情けない叫び声を上げてしまった。
「すみません!しっかりメンテナンスがされているいいバイクだなと思いまして。いや、本当にいいですね」
「ああ、ありがとうございます…って」
「はい? 」
「お前、出門の… 」
「そういうお前こそ、どっかで見たことある面だとお思ったら、横須賀の… 」
「「…………」」
「さーてと、いっちょ行ってくっか」
トウジは一人不敵に笑い、朝焼けの街へと消えた。
騒動は、もう近い。