ヤンデレヤンデル?
1組の男女がテーブルを挟んで向かい合っている。
10畳1間の割と大きな部屋で、生活感に溢れているのだが、どこか2人の目が血走っていた。
「ねぇ直樹君私に言うことない?」
「愛しているよ。それよりも麻耶こそ俺に言う事ない?」
「愛しているわ」
ふふふふと奇妙に笑い合う2人。否、目が2人とも全く笑っていない。
「嘘つき! 知っているのよ。直樹君が昨日道端でぶつかった女と話していたの見たもん。
ずっと後を付けていたのよ。私はこんなに愛してるって言うのに!」
「バカ言え! 麻耶こそ昨日男と目を合わせたじゃないか!
君のバイトの時間ずっと影から見ていたけど、それこそ不特定多数の男どもに!
完全な浮気じゃないか! 俺こそこんなに君を愛しているのに」
「嘘よ! だってバイト中ずっと直樹君見てたのにそんな暇ないわ!」
「そっちだって嘘だ! 後ろの麻耶が気になって見てたら何かにぶつかって確認しただけじゃないか!」
「ええっ! それは危ないわ。ちゃんと前を向いて歩かないと怪我しちゃったらどうするの?
直樹君を汚していいのは私だけ……」
「ダメだよ、バイト中によそ見し過ぎちゃ。また残業とかに時間取られちゃうでしょ?
麻耶の時間は俺の物なんだから……」
お互い言いた事を言い終えたのか、にたぁっと似たような笑みを浮かべ合う。
「ああ、なんて素敵なんでしょう。やっぱり私には直樹くんだけだわ!」
「ああ、なんて素敵なんだ。やっぱり俺には麻耶しかいない!」
ひしっと抱き合う2人。
しかし、お互い後ろ手で包丁を握っているあたり、これは本当に喜ぶべき場面なのだろうか?
彼らの日常の一幕。それがいつ狂気に変わるのか。いや、既に完全に狂っているのかもしれない。