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こちら冒険者ギルド別館、落とされモノ課でございます。  作者: 猫田 蘭
第一部-0章<勇者と魔王と用心棒>
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 アロヴェントさんの自己アピールは長々と続いた。

 私にアピールしても、パーティーは見つからんと思うのだが……。


「確かに元の世界において我は混沌の主であった。天に叛き、地を侵し、幾千幾万の人間共を屠り、海を血で満たし屍の塔を築いた! 今とて、もしもあの世界に帰ったならば直ちに……」


「あー、すみません。残虐行為を具体的に述べるのやめていただけますか? 平和な世界から来たばっかりなもんで」

「あ、すまん」

「いえいえ」


「っ! だがそれも全てことわりなのだ。我は魔の王として世に生を受けた。そのように在れと運命さだめを負って生まれた。それは果たして我の責であろうか?」


 自己アピールっつーか、自己弁護だよなぁ。


「アロヴェント様のお気持はよくわかります。ギルドとしましても、前回のアロヴェント様の申請を取り下げたわけでもなく、引き続き募集に努めているのですが……」

「ではどうしてっ、我の募集用紙の上にこんなものが貼られていたのだっ!」


 アロヴェントさんは懐からぐしゃぐしゃになった紙を取り出して、カウンターの上にばぁん、と置いた。

 はぅ、またシバさんのおみみが! しっぽが! 可哀想だからやめたげてよぉ!


「なんなんだこれは! 我に対する当てつけかっ?」

「ちょっと拝見します」


 本館入口に設置されているパーティー募集掲示板は、割と込み合っている。

 ギルドが推奨している「原則、パーティーを組むこと」をよしとせず、ソロでぶいぶい言わせてすぐにトップに駆けあがってやるぜ! な夢でいっぱいだった無謀な若者達が、やがて現実の厳しさに目を覚ますからである。


 彼らは得てして、パーティーでの立ち位置を掴むのがへたくそなのだ。

 なにせ、自分サイキョー、群れるなんて弱い奴のやる事だろ、ダッセー、という考えの連中がほとんどなので。

 これは、どちらかというと元々この世界で生まれ育った冒険者に多い傾向である。「落とされモノ」出身の冒険者は経験者が多いので、パーティーがどういうものか、よくわかっている。


 結果、夢破れた若者達はパーティーを組んでも組んでもうまくいかず、ぼっちにもどる。

 でも、自分に原因があるんじゃなくて、俺様の実力についてこれないあいつらが悪いんだ、という都合のいい解釈で立ち直っては、またパーティー募集の掲示板に戻ってくるのだ。


 ちなみに、出戻りを繰り返すやつらは身勝手でマナーも悪く、自分の募集用紙も貼りっぱなし、人様の用紙の上にも平気で貼ってしまうので、トラブルになりやすい。


 これも、そういう困ったちゃんの仕業なのかなぁ、と思ったのだが。


「えーと。『急募! 盾役求む。パーティー経験不問、未経験者大歓迎。面接あり。詳細はマトバエイジまで。連絡先は……』って、ええええ」

 ちょいとちょいと、エイジさんよぉ。これ、募集用紙ですらないじゃないか。ただのルーズリーフの切れ端って、困るよあんた。


「こんなっ! こんな事があっていいものなのかっ? 元勇者であれば何をしても許されるというのか! はっ、まさか我が元魔王であると知っての所業か? おのれ、おのれぇっ! このような世界、滅ぼしてくれるわぁっ!」

「え、ちょ、まっ」

「手始めに! 小娘ぇっ! 貴様を我が奴隷としてくれるっ」

「えええーっ?」


 積もり積もった何かがプッツンしてしまたのだろう。アロヴェントさんは突然激昂して、立ち上がった。

 にょにょにょにょ、と角が大きくなり、口からはさっきまで見当たらなかった牙が生えて来た。背中の筋肉がごりゅ、ごりゅ、と音を立てて……も、もしかして翼出ちゃいます? 結構おっきいの出ちゃいます?


 こりゃダメだ。もうダメだ。可哀想だけど、やるしかない。

 くっ。この手だけは使いたくなかったが!

「えいっ!」

 ぽち。

 私は、カウンター下の非常ボタンを押した。


   ふぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~ん、ふぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~ん!


 途端に別館中に響き渡る警報。閉まるシャッター。カウンター内部も、防御結界で遮断される。

 そして。

「そこまでだっ! 武装解除しておとなしく投降しろっ!」

 駆けつける用心棒(元勇者様)二名。


 そう、このギルド別館には、常時二名の元勇者様、あるいはそれに準ずるメンバーが、詰めているのである!

「あ、エイジさんっ!」

 しかもこの日の担当はエイジさんと、リューさんだった。うわぁ、偶然っておそろしー。


「エイジさん、困りますよ。これ、ギルド規定の募集用紙じゃないじゃないですか。しかも人様の用紙の上に貼るなんてマナー違反ですよ!」

「え、あ、そうなの? なんかごちゃごちゃしてる中で、一か所だけ妙に空いてたから、つい……。ごめん」

「ほんと、困りますから! 見てくださいこの方を。アロヴェントさんに謝ってください!」

「え、え?」


「ミズキさんミズキさん、なんかまちがってますぅ」

 シバさんが私の袖をくぃくぃと引っ張った。はっ、そうだった。

「あ、えーとですね。ちょっとみなさん落ち着きましょうか」

 私はとりあえず、警報音を消した。結界はそのままで。


     *****


「と、いうようなお仕事をしてるんですよ」

「楽しそう!」

 どこがだ!

「それでそれで? そのあとどうなったの?」


「アロさんの状況に同情したエイジさんが、パーティーにいれてくれました。しかもリューさんもメンバーだったんですよ。今は、帰ってくるたびにアロさんが用心棒してたお店に入り浸ってどんちゃん騒ぎしてるみたいです」

「男の人って、しょーがないねぇ」

「まったくです」


 まぁ、息抜きは大事なんだろうさ。

 って、しまった! この世界について説明するはずが、ミサさんにのせられていつの間にか私の話になっていた。いかんいかん。

「まぁ、色々ありますけど、元の世界に戻る方法が見つかるまで、がんばりましょうね」

「うん! ミツキさん。でもあたし、ここも結構悪くなさそうな気がしてきたよ」

 ミサさんは、へらりと笑って、マシュマロを口に放り込んだ。


 ……前向きでうらやましい。


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