5
「パーティーを、組みたいのだ」
角の生えたお客様は、私の目の前の椅子に座ると開口一番こうのたまった。
うぉお、アップだと迫力あるわぁ。
ボディービルダーみたいな体型で茶褐色の髪をライオンさんみたいにしてて、いかにも肉食獣ですって感じ。それが笑顔を浮かべてるならともかく、しかめっ面してるんだもん。コワイヨ。
顔は、かっこいい部類に入ると思う。それってかなりプラスイメージのはずなのに、もったいねー……。
「我は、パーティーを組みたい、だけなのだっ!」
どぉんっ!
苛立ちからか、力の限り振り下ろした拳がカウンター全体を震わせる。シバさんが「ぴっ?」っと小さく声を漏らして硬直した。
たいへんだ、おみみがねている! しっぽがまるまっている!
は、はやくなんとかしないと! わたしがなんとかしないと!
「申し訳ございません、お客様。私新人でして、お客様の今までのご事情を存じ上げないのです」
「む、そうか」
「失礼ですが、ご説明願えますでしょうか……?」
お客様は重々しく頷いて、自己紹介を始めた。
「我が名はアロヴェント・R・C・ウェリス」
「アロヴェント様ですね。少々お待ちを」
カウンターのタッチパネルをてふてふ叩いて、お客様リストの中からアロヴェント、を検索。後半は覚えられなかったけど、どうせ顔写真付きで出てくるのだ。だいじょうぶだいじょうぶ。
アロヴェントさんは、すぐに見つかった。しかも、赤いランプの点滅付きで。うひぃぃ、要注意人物じゃねーか!
名前:アロヴェント・R・C・ウェリス
出身地:三つ月の世界ポルド
時刻:R・C歴946年、3の月下弦、50の日
落下地点:北西大陸ルヴェンナ、サリの村(*注)
種族:魔人族
年齢:946歳(換算年齢729)
性別:M
結婚:未
……うぉっとぉ、以下、私には関係ない個人情報。私が見たいのはもっと下の備考欄だ。
備考:落下当時、サリの村を滅ぼす。(工作済み)
転送は危険と判断されたため、捕獲部隊派遣。
三日に渡る交戦と説得の末投降。
って、要注意通り越して危険人物だろーがっ! あとなんだ工作済みって。怖いわ!
い、いやしかしだな。こうしてわざわざギルド別館に来て、えーと、パーティー組みたいとか言ってるんだから、改心したんだよな? なっ?
「お待たせしました、アロヴェント様。パーティーのマッチングのご希望という事でよろしいですか?」
最新履歴:パーティーマッチング希望。募集するも希望者無し。
日をおいて来館するよう勧める。 ユリウス
なるほど、前回は結局叶わなかったのか。まぁしょうがないよな、怖いし。経歴知らなくてもめちゃくちゃ怖い上に、経歴みたらますます怖くなったし。
しかし、履歴ざっと見ただけでもこのヒト相当だぞ。近隣トラブルでしょっちゅう引っ越ししてるみたいだし、依頼不履行(っていうかやりすぎなんだなこれ)も多いし。今何やって食べてんの? え、色町の用心棒?
……苦労してるんだな。(ほろり)
アロヴェントさんは切々と訴え始めた。どうしても、冒険者として生きたいのだと。
かつては魔王としての責務のため、世界を破滅に導くべくお仕事に明け暮れていたが、自由になった今、なんの気負いもなくただ世界を見て回りたいのだと。
しかし、彼は何せ元魔王で、言っちゃなんだが破壊するしか能のなかった人である。魔王時代の政治は優秀な補佐官にまかせきりで、自分は侵略略奪侵略破壊侵略蹂躙侵略惨殺侵略とにかくしんりゃぁぁぁく! の日々。
うむ、迷惑。
彼はどうやら手加減というものを知らなかったようだ。
森の狼が牧場を襲うから退治してほしい、という依頼は森だけでなく牧場まで焼きつくす大惨事。
無実の罪で投獄された友人を逃がす手伝いを、という依頼(これは政治的に重要で、ギルドも一枚噛んでいた)も、国一つ滅ぼすことになって、ギルドは火消のために随分お金をつぎ込んだらしい。
あー、こりゃダメだわ。依頼なんか来ないわ……。
アロヴェントさんも反省して、今はだいぶ手加減できるようになったらしいが、今更彼を一人で派遣するほどギルドはマヌケではない。
彼もその辺はよぅくわかっているようで、ソロ活動は諦めて、パーティーに入れてもらいたい、と希望するようになったわけだ。
なるほど、あなたの置かれた状況はよくわかりました。
しかし、見た目も怖けりゃ経歴も怖い、悪い噂は立ちまくり、というこのヒトを受け入れてくれるようなパーティーが、果たしてあるのだろうか……。
そもそも今の生活はそんなに不満かね?
まぁ、元魔王様にしてみりゃ不満かもしんないけど、綺麗どころのおねいちゃんがいっぱいいる職場でしょ? モメごと起きるまでは奥に引っ込んでて、何かあったら表に出て「おうおぅ、ウチの店になんか文句あんのかコラぁ」って凄み利かせて、それでも駄目なら実力行使、でしょ?
……ぴったりじゃねぇか。