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こちら冒険者ギルド別館、落とされモノ課でございます。  作者: 猫田 蘭
第二部―0章<NINJYAとパシリと副学院長>
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【続報! チェンバレン忍者学校閉校】


多くの生徒を抱えていた名門「チェンバレン忍者学校」が、その20年の歴史に幕を下ろした。当初は校長の一身上の都合とだけ報じられていたが、先日、その具体的な理由が判明した。


なんとチェンバレン元校長は、新設された「中央大陸学院」の副学院長として就任するというのである。


プレオープンに立ち合った記者からの情報では、同校内部にはチェンバレン元校長お気に入りの日本庭園があり、忍者道場らしき場所も確保されているという。


元生徒の一部は「中央大陸学院」への入学も決まっており、引き続き忍術修行に打ち込めると喜んでいる模様。


*チェンバレン忍術学校


空手、柔術、合気道、剣道等に加え、魔術、科学技術を取り入れた全く新しいスタイルの忍者学校。既成概念に囚われない新しいその様式は実戦向けと大評判で、優秀な卒業生を数多く輩出した。


有名な卒業生の一例:「折れぬ牙」所属、「無刀(むじん)」のリオウ


 たまにいると聞く。「自分は日本人より忍者に詳しい!」と豪語する外国人さん。

 だが得てして彼らの知る忍者は、漫画の中の「妖術使い的忍者」とか、ニンジャとか、NINJYAであって、本来の意味の忍者ではないと思う。


 だってさ、忍者ってもっと地味な職業だよ……?

 間違っても「何人でも切れちゃう刀」でばっさばっさと大人数相手の立ちまわりなんかしないし、空蝉とか分身とか、あのへんはもう、フィクションですよ……?


 たまたま、見間違えちゃったおマヌケさんがいて、自分の失敗を認められなくて「オレが倒せなかったのはあいつはすごい術を使ったせいだ」と言いふらした、くらいが真相だと思うの。

 格闘のエキスパートだろって言われたら、まぁ、もしかしたらそうかもって感じだけど。


 どっちかっていうと、いよいよヤバいって時に農具とかその辺に落ちている棒とかで戦って、隙を見て逃げるのがメインのはずだよ? だってあの職業は名誉より生存率に重きを置くはずだし。

 つまり何が言いたいかというとだな、私の知っている忍者は間違っても光沢のある特殊装備なんか着ないってことなんだよ、忍べよ!


   かこ~ん


「やぁ、失礼したね」

「はぁ……」

「だがやはり、忍びたるもの常在戦場の心構えが大切だと思うんだ。この学び舎に集う生徒たちにもそれを教えたくてね」

 それでお茶室の入口に罠を仕掛けたと? 茶道って、もっとリラックスするためのものなんじゃないかな!

「ここって、忍者学校じゃないですよね? 中央大陸学院で合ってますよね?」


   かこ~ん


「そうだね、まぁ、私としては忍術もカリキュラムに取り入れたいと思っているよ。どうかね、本場の日本人としては、自国の伝統ある武術が世に広まるのは好ましいと思わんかね?」

 え、いや……武術に括るのはちょっと。おかしいと思うんだけどな。


 私は改めて、目の前の不審人物を観察した。といっても、目と指の先以外見えないんだけどね。

 やたらとサイバーチックな頭巾をかぶった頭に「忍」と書かれた額金。

 黒一色の装束の上から、おそらく特殊金属(すごく高い)製の防具で胸、腕、肘、手の甲、太股、膝、脛、足の甲、ときっちり覆っている。

「あの、何と戦ってるんですか?」


   かこ~ん


 やばい、心の声が漏れた。

 や、違うんです。ただね、おそらく冒険者ギルドの中枢並みのセキュリティーが敷かれているだろうこの場所でそんなフル装備してるから、つい! 気を悪くされたのならごめんなさい!


 目の前であぐらをかいているNINJYAは、難しい顔で唸って、ふと斜め上を見上げた。

 え、なんかいんの?

 振り向いて確認してみたが、特に異常は感じられない。彼は私に向き直ると、感慨深げに眼を閉じて、頷いた。

「うん……まぁ、世間の目との戦いの日々だったよ」


   かこ~ん


 この鹿威し、さっきから微妙なタイミングで鳴るんですけどなんとかなりませんかね! 効果音いらないから、オチないから!

 プレッシャー与えないでほしい。

「私が、母国では寄宿学校の教師を務めていたことは聞いているだろうね?」

 あ、やっぱりそうなんだ、このNINJYAがオーガスト・チェンバレン副学院長で合ってるんだ、そっか……。


「はい、うかがってます」

「うん。私はその人生に満足していた。生涯をあの学び舎にささげるのだと、自分でも信じていたのだが、ある日、事故に遭ってね。幸い命は取り留めたが、足が、ちょっとね」

 それは……。

「災難、でしたね」


   かこ~ん


 ほらもう、この音気になってしょうがないんだけど! 言っとくが今のは心の底からお気のどくって思っての言葉だからな!

「リハビリは辛かったよ。そんな中、私は一冊の本に出会った。『ZEN』についての本だ」


 うわきたー。外国の人が日本にハマる入り口として名高い「ZEN」がキター!

 いや、禅を否定するわけじゃないよ? 私の家だって、お墓に関しては禅宗のお寺にお世話になってたし、すごくシンプルで良いと思う。

 だが「ZEN」は……。「ZEN」はまた、なんか違う気がするんだ。


「私は心をうたれてね。それからは、全て『ZEN』の精神で乗りきった。そうして、だいぶ動けるようになった私に更なる新しい出会いが訪れたんだ」

「NINJYAですねわかります」

「うん、そう。それで、思い切って忍者学校を開いたんだけど」


   かこ~ん


「生徒はそこそこ集まったんだけどね。御近所と、家族……。両親や妻、息子、娘達の視線がね……。弟は、まぁ、面白がってはくれたんだけどね」

 そりゃ、寄宿学校の先生なんて堅実な職業から忍者学校の経営者に転職されちゃぁなぁ。家族だって気が気じゃないだろうよ。


「親族会議まで開かれて、いよいよ針の筵になって来た頃に、こちらに落とされたんだ。こっちはいいね。ヒトがどんな格好でいようと気にしないんだから。私は人生で初めて、本当の自分の姿を取り戻した気がしたよ」

「そのお姿だとお顔さえ拝見できないのですが……」


   かこ~ん


 NINJYAは、ぽん、と手をうって、かさねがさね失礼、と頭巾を取った。

「……お若いですね?」

 なんか、同年代くらいのにーちゃんがでてきたんだけどどうよコレ?


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