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「どこ行ってたの、ミツキさんっ!」

 我が家のドアを開けるとそこには、仁王立ちで怒っているミサさんがいた。

 あ、あれ? どうしてこの子がここに? 確かシバさんには、荷解き(っていうか家具の再配置)があるからもう一晩預かってくださいとお願いしたはず……。


「心配したんだからねっ!」

 てっきりあの子達にもう退治されちゃったのかと、とミサさんはわけのわからない事を言う。退治ってなんだ。

「とりあえず朝ご飯食べながら、どこに行ってたのかじっくり聞かせてもらうからねっ!」

「え、食べてきちゃいましたよ」

「どこでっ?」

「ユリウスさんち」

「ユリウスさん? ユリウスさんちにお泊りして朝帰りですかっ! おかーさんはそんな子に育てた覚えはありませんよ」

 誰がおかーさんか。ってゆーか昨日の夜私が帰ってこなかったのも知ってるって事は、やっぱりここにいたんだろうか、この子。


「言っておきますが、やましい事なんてありませんよ。お夕食ごちそうになって、客間に泊まらせてもらって、ついでに朝ご飯食べて帰ってきただけですからね」

 そもそも、実家に帰ってなにが悪いのか。

 私の主張に、ミサさんはなんだか複雑な顔で「可哀想なユリウスさん」と呟いた。えー、王子様が言うには、私の方がずっと可哀想な事されてるみたいなんですけどー?


「ところで、あのテーブルに乗っている黒いのは……」

「と、トーストです……」

「茶色くて平らなのは……」

「め、目玉焼き?」

「ミサさん、昨夜は何食べたんですか?」

「あ、昨日はお弁当買って帰って来たから」

「よかった……」


 ミサさんって、食べるのは好きだけどお料理した事ないみたいだからなぁ。今日から少しずつ教えていかないと。

「とりあえず、トースターの使い方から始めましょうね」

「はぁい」


 ミサさんに目玉焼きの作り方を仕込んで、シャワーを浴びて、かる~くメイクをして。あっという間に朝8時。出勤の時間だ……。

 出勤途中、私はまたもやめんどくさいモノを発見してしまった。


 ……ジェレミーナXXX世さんである。


 別館入口前に陣取って、やたらキレのある動きで伸びたり縮んだりしている。いっちに~いさんしっ、ご~ろ~くしっちはちっ、って、じゅ、準備体操っ?

 ここで絡まれてはたまらないので、私はコッソリと遠回りして、裏口から入ることにした。

 うぅ、なんだよ~。今度は何があったんだよ~、私のいない間に。


「あ、ミズキさ~ん。おはようございますぅ」

 シバさんが、へにょりと耳を垂らして私を迎えてくれた。あ、見たんだ。シバさんも見ちゃったんだ、アレ。

「なんか、すっごい気合入ってましたけど。今度はなんのお仕事だったんですか?」

「下水管のお掃除ですぅ」

「ふむ」


 この世界では、下水の処理は浄化魔法で行う。でも、家ごとに個別に処理するのではなくて、一か所に集めてから浄化する方式なので、下水管は必須なのだ。

 お金さえ出せば浄化魔法の魔方陣は買う事ができるんだけど、ちっちゃいものでも高価なんだよねぇ。


「Y―6地区の集合ダクトが、最近流れが悪いらしくて。お掃除の依頼が来てたんです。一本道の部分限定だったし……」

 地図もちゃんとみせて説明して、今度こそ大丈夫だって思ったのにぃ、とシバさんは嘆いた。

 そうだよなぁ、見る限り問題なさそうだよなぁ。あえて言うなら衛生的な仕事ではないけど、それも承知の上で引き受けたんでしょ? う~ん……。


     *****


 始業のチャイムと同時に、ジェレミーナXXX世さんが転がり込んできた。文字通りローリングしながらの突撃である。もうやだこのスライム。

 それでも仕事は仕事。私は営業スマイルを浮かべていつものご挨拶をした。

「いらっしゃいませ。こちら冒険者ギルド別館、落とされモノ課でございます。本日は、どのような御用件でしょうか?」

 クレームだろ? クレームなんだろ?


 私の横でシバさんが早速しっぽを丸めた。あれ、私には聞こえない音声でもう始まっちゃってましたか、そうですか。

「はい。ええ、そうです。はい……」

 がんばれ! がんばれシバさん! そんな半固形生物に負けるな! がんばれ!


   にゅにゅにゅにゅにゅっ!


「ええっ? そ、それは……」


   ぐりゅりゅ……ぐりゅりゅりゅ……


「お、お気持はわかりますが、ギルドではどうしようもないですよぅ。ボクだって、なんとかしてあげたいですけど……」

 サッパリわからん!

 え、なんだろう。シバさんの様子がいつものクレーム処理と違う。なんか、共感してるような。あぁもう気になるぅ!


   みゅみゅみゅ! みゅみゅっ!


「あ、はい。そうですね。ミズキさん」

「はいっ?」

「えーとですね、ジェレさんがミズキさんの意見も聞きたいと」

「えええええ!」

 なんと。このスライムとはもう2年弱の付き合いになるけど、指名されたの初めてだよ。つーか私の存在、一応認識してたんか。ビックリしたぁ。


「それで、何があったんですか?」

「それが、例の下水道の中で……」

 

   みょろろろろろろろろろろろろろろろろろ!


 シバさんが説明しようと私に顔を向けたその瞬間、ジェレミーナXXX世さんが今まで見た事もないほど広がった。

 赤い膜状にのびてカウンターを覆ったかと思うと、今度は一気に凝縮してゆく。


   ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅ!


 異常事態だと、すぐにわかった。思わずカウンター下のボタンに手が伸びる。

 しかしシバさんの叫び声で、私の指は目標を逸れて空振りしたのであった。

「う、生まれるんですかああああああっ?」


 ……ナニが?


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