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こちら冒険者ギルド別館、落とされモノ課でございます。  作者: 猫田 蘭
第一部-3章<エルフとギルドと魔女の檻>
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「じゃあ、お詫びと言ってはなんですが先日聞いた面白い話をしてあげましょう」

 何が「じゃあ」だよ。もうどうでもいいから消えろよ。

 せっかくの休暇だったのに。せっかくの「外」だったのに。こいつのせいで全部台無しだよ、面白い話くらいでお詫びになるもんか!

 しかもどうせ、つまんない話に決まってるんだ。


「どうしてもお詫びしたいなら、今後一生私の視界に入らないでください」

「まぁまぁ、そう言わずに」

「今すぐ消えてください」

「短気は損気ですよ」

 なにがなんでもまだ居座るつもりらしい。もうやだこのヒト。

 何のこたぁない、どうしても私に聞かせたい話がもう一つあるだけじゃないか。


「……せめて、もう一杯お水ください」

「よろこんで~」

 私はベッドに寄り掛かって体育座りをしたまま、無言で水を受け取った。お礼なんて言うもんか。

 いやぁしかし、ははは。仮にも王子さまにお水をサーブさせるとか、すごいシュールだわぁ。やばいかな、あとで国際問題になったりしないかな。


「もういいんですか?」

「……はい」

 彼はベッドサイドのテーブルに水差しを置いて、私から離れた場所にあるカウチへ移動した。うん、そのくらい離れてくれるとちょっと安心する。


「僕の知り合いの魔女がね。まぁ、例によってバケモノなんですが、なかなか憎めない婆さんでして。仕事のついでに少しおしゃべりするような仲なんですよ」

 こいつ、「落とされモノ」をバケモノ呼ばわりする癖に、交流関係広いよなぁ。


「彼女は元の世界で随分酷い目に遭っていたそうで。こっちは天国だってしょっちゅう言うんですよ。なんでも、若い頃にどこかの権力者に無理やり従属させられて、色々と意にそぐわない事をさせられたとかされたとか」

 詳しい内容は、聞きたくないでしょうねぇ? という彼の気遣いを、私はありがたく受け取った。

 聞かされてもどうしようもないし。ただ嫌な気分になるだけだし。


「それがまた、腕利きの魔女でして。一体あんなバケモノをどうしたらって、思うでしょう? で、聞いてみたんですよ」

「あわよくば自分もって?」

「いえ、単なる好奇心です。小鳥ちゃん、僕をなんだと思ってるんですか」

「鬼畜王子」

「……こほん。それでですね。彼女はあっさり教えてくれました。『名前を奪われた』と」


 名前を、ねぇ。

「よく聞く設定ですね。私の世界にもありましたよ、そういうの。私の時代ではほぼ迷信扱いでしたけど。名前って、その人自身を表す呪いみたいなものだって」


「では話がはやい。正確には、名前を媒介にして、魔女を土地に縛り付ける魔法です。見えない牢獄のようだったと言ってましたよ。そこから出ようとすると足がすくんで動かなくなるんだそうです。そして、その場所にいる限り、その魔法を掛けた相手に服従する」

「へ、へぇ……」


 つまりなんだ? 私が「異世界人特別保護区に囚われてる」って言いたいのか? んで、名前がその鍵だって?

 まさかそんな、一体誰が私にそんな面倒な事を……。ってあー、一人しか思いつかねぇ。

 私は頭を抱えた。


「解呪して逃げ出したと思っても、気付くと足がその土地へ向かってしまうんだそうです。これはもう一生飼い殺しかと諦めていたところ、こちらに落ちて来たお蔭でやっと逃げだせたと。だから彼女は、元の世界に戻る研究なんてやめさせたいんです」


 ……なるほど、ギルドに属さない「落とされモノ」さんには、そういう事情を抱えたヒトもいるんだ。

 まぁ、ギルドの最終目標は、はじめに落とされたモノまで余すことなく「戻す」こと、だからなぁ。残りたいっていう自由意思が尊重されるとは限らないわけだし、うぅむ、困ったもんだ。


「それで、私にもその呪いが掛かっているんじゃないかって?」

「似たようなものじゃないんですか? 小鳥ちゃん、あなたの保護者気どりのバケモノの事、どのくらい知ってます?」

「……私から何を聞き出したいんですか」


「そんなに警戒しないで。別にこれは諜報活動じゃありません。多分あなたより僕の方が彼についてよ~く知ってるんですから。そうですね……例えば、彼の年齢は200を超えている事は知っていますね。では、彼がいつからギルドに所属しているのかは?」

「……知りません。別館の館長になったのは確か、10年くらい前?」


「彼の能力は『神(かた)る傲慢』と呼ばれる予言レベルの千里眼。ですよね? では、彼がその能力を使っているところを見たことは?」

「ありません」

 だってあのヒト、ギルドの奥の奥、周囲から完全に隔離された部屋じゃないと能力を使わないって話だし。なんか、力が強すぎてしばらく行動不能になるとかどうとか。


「あなたは、魔法を使うことを彼から禁じられていますね。理由は聞きましたか?」

「魔力が少ないので、使うとすぐへばっちゃうんです」

 これは実体験付きだから間違いない。ちょっと使うと眩暈がして、そのまま気絶しちゃうんだよね、情けない事に。


「では最後の質問です。彼が世間に、そしてあなたに開示している情報は、全て真実でしょうか?」

「……わかりません」

 そんな、ものすごく根本的なところから揺らさんでも。


「小鳥ちゃん、ギルドも彼も、簡単に信用しちゃ駄目ですよ。ちゃんとその目で見て、耳で聞いて、頭で考えないと」

 喧嘩売ってんのか? つまり私の頭がスッカラカンだと言いたいのか?

「彼に尋ねなさい。『神騙る傲慢』の、本当の意味を」

 きっと答えてくれますよ、と言い残し、彼はドアを開けて部屋から出て行った。


 おいおい困るよ、こんな夜中に異性を部屋に入れてたとか、バレて叱られるのは私なんだからさぁ。

 ……あぁ、面倒な。


 私は今度こそ自分の意思で、床に転がった。


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