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「くるし……」
お祭り見物から宿に戻った私は今、たった一人、ベッドの上で苦しんでいる。
なんて事だ、安全だと思ったのにまさかこんな罠が潜んでいようとは! こんなことなら、勧められるまま無料のビールなんておかわりするんじゃなかった。
「お腹一杯でしぬ……」
……まぁ、お姫様でも世界を救う巫女様でもない私の日常に潜んでいる危険なんて、所詮こんなものなのである。
一人でお祭りを見に行く、と言った私を、見舞客である3バ……こほん、アロさんとエイジさんとリューさんは、ものすごく心配してくれた。
「一人で祭り見物とは……。まさかミズキ、そなた友人がいないのか?」
「もしかしてハブられたりしてる? イジメられてるなら相談してくれよ」
「とーぜん、カレシもいないんだよね……。ミズキちゃん今何歳? 23? 今まで一人もカレシなし? うわぁ……」
うるっせーよっ!
違うだろそこじゃねぇだろ、私みたいなちょっと厄介な立場の人間が一人でフラフラする危険性を諭すとか、あるだろうがっ!
「いや……そうは言うが、ギルドの警備班は優秀だからな……」
「アメリカ大統領のSPやってた人が指揮とってて、虫一匹近寄らせないって噂聞いたけど。護衛対象の半径1mに近付いた時点で、レーザーで焼くってマジ?」
「え、そうなんですか?」
そういや私、こっちに来てから虫に刺された事ないような気がする。そんで、たまに微妙なコゲた臭いを嗅いだ事がある気がする!
こわあああああ!
「そーそ。それにミズキちゃん攫おうなんてムボーなことしでかしそうなのはあのイカレ国の王子様くらいなもんだって。なんせミズキちゃんにはこわ~い保護者が付いてるからさぁ。あ、だからコイビトできないんだ? カワイソー。オレがデートしてあげよっか?」
「いりません」
リューさんはほんと、もげたらいいのに。
「いーんですっ! たまには一人になりたいんですっ! 最近ず~っと、朝も昼も夜も誰かと一緒の生活だったから、羽を伸ばすんですっ!」
あーもー、どいつもこいつも! ほっといてくれよっ!
布団をべしべし叩きながら「一人が苦痛じゃないんだ」と、主張する私の頭を、アロさんがなだめるようによしよしした。ぐぎいぃ、子供扱いムカつく!
で、結局、心配っていうか変な同情した3バ……3人のご厚意で、お祭り見物には4人で行くことになって。
私はそこで初めて、本気のリューさんを見た。
いやー、すごいわ。顔引きしめて、憂いを帯びた表情作って黙ってるだけでまるで別人だったわ。どうやら馴染みらしいソッチ系の商売のおねーさんがしなだれかかって来るのを鬱陶しそうに眉しかめて振り払うだけで、周りから「きゃぁ~んv」なんて声があがるんだぜ……。
そっかそっか、私の前でユルいのは、そういう対象じゃないからなんだな。
「……私、いつものリューさんのほうが好きかもしれません」
だからどうか、私の前ではいつもの、チャラくてユルくてバカっぽいキャラでいてくださいね、とお願いすると、リューさんは澄ました顔のまま「おっけ~」と口調だけ戻してくれた。
か、顔と口調のギャップがっ。
モテるといえばアロさんも負けてはいなかった。うんまぁ、怖いけど美形だからね。
彼は主に魔族のお姉さま方や、竜人族の女性にモテるらしい。魔族や竜人族の女性はみなさんムチムチで、筋肉も程良くついていて、ついでに身体もおっきいので、アロさんと並んでも迫力負けしないのだ。
ただ、単体でもすごく威圧感のあるヒト達が固まってると、相乗効果で異空間を作ってしまうので、ちょっと……。
「へぇ~、このコがアロたんの恩人さんなんだぁ?」
胸がぼ~ん、腰がきゅ~、おしりがぷり~ん、で、しかもそれを覆う布は最低限、の女性が(多分淫魔さんだ……。私でさえクラクラする何かを発してるし)、興味深々の様子で私をつつく。
「ってことはあの『暴食』サンでしょ~? えー、この子が? みえなぁい。えー、魔力はぁ? どこに隠してるのぉ?」
ぷにぷに。
ほっぺた、胸、腰、おしり、と容赦なくつつかれ、私はたまらずエイジさんの後ろに隠れた。その途端淫魔さんの興味はそっちにうつって、エイジさんに絡み出す。
うむ、やはり淫魔さんのあしらいは簡単でいいわ。あの種族はあまりに享楽的ゆえに、目の前の面白そうなものしか相手にしないのである。
そんでもって、他人の精気や魔力を糧にするので、エイジさんのような魔力系チートを持つ人物はちょうど良いイケニエになるのだ。
淫魔さんからちゅーされて、顔を真っ赤にしたエイジさんを回収して、私達は屋台の並ぶ区画へ移動した。あー、お祭りの内容はだね、なんだっけ。なんか、「落とされモノ」の女の子と領主さまの悲恋にまつわるお祭りで、山車を見たカップルは幸せな結婚ができるらしい。
よって、現状その予定がない私はパスでいいんだ。私は屋台の食べ物が食べたいの!
ケバブのようなもの、たこ焼きのようなもの、みたらし団子に飴細工。うむ、ほんとに地球とあんまり変わらんな。
目につくものを片っ端から買って、食べて、振る舞いのビールを浴びるように飲んで。日付が変わる前に、私達は解散した。
で、文字通り食い倒れている、というわけだ。
「しぬ……。しぬぅ……」
とりあえず水、と、ベッドからはいずりだした私は、そのまま床に転げ落ちた。
うぅ、情けない。もしかして明日は二日酔いだろうか。部屋の掃除は要りません、の表示ってどのボタンおすんだっけ。あぁ、立ち上がれない。
視界に、誰かの靴が映る。
腕をとられて、上半身を起こされる。ベッドに寄り掛からせてもらって、水を渡された。
「あ、ども……」
「情けないですね、小鳥ちゃん」
……声を聞いて、酔いは一気に冷めた。




