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冒険者ギルドの何が恐ろしいって、鞭の後の飴である。
結局るーきゅんにおぶわれたまま(あ、キャンプの時はヴィトちゃんに添い寝してもらったよ!)ルヴェンナの支部へ帰った私は、そのままギルドの系列病院へ入院させられた。
……別に、「アレ」も取り出したことだし、あとは寝てりゃ治るんですけど。最上階の個室とか、間違ってもいらないんですけど。
豪華な病室、有名シェフが作る食事、毎日ギルド名義で届く立派なお見舞いのお花に、支部長のゴレイヴさんが差し入れてくれるおいしいケーキ、優しくてかわいいリスさんナース、お茶目なおじいちゃん院長先生。
あれ、ここってもしかして天国? 私のためにここまで手配してくれちゃうなんてギルドってすごく親切じゃない?
な~んて、うっかり錯覚しそうになるのである。だっ、だまされないぞ!
例え危険手当とか言って2ヶ月分のお手当が振り込まれてたって絶対だまされないぞ何買おう。そろそろワインクーラー買っちゃう? っていやいやいやいや!
「やっほ~ミズキちゃぁん。倒れたって聞いたけどだいじょぶ~?」
「何も問題ありません、大丈夫です。お引き取りください」
私が倒れたことがどう広まっているのか知らないが、毎日誰かしらお見舞いにくるっていうこの状況もなぁ。
お蔭で、あのこと思い出して鬱になる暇もないわ。
今日のお客様はリューさんである。相変わらずチャラいこの口調が気に障る。ほんと、一体どこで聞きつけたんだろう。
「えー、ほら、持ち回りの用心棒ん時にさ、エリスちゃんから」
「あぁ、なるほど」
そうか、入院したからにはお見舞いが必要だろうと思って広めてくれてるんだな……。私、一人でも全然寂しくないんだけど。むしろほっといてほしいんだけど。
リューさんは勝手に冷蔵庫を漁って、中から果物を取り出した。私好みの、ちょっとだけ固めの桃(のような何か)だ。
別館ギルド職員一同からのお見舞いの品である。食欲がなくてもこれなら食べられるだろうという気遣いだと思われる。
「あ、それ!」
「これおいしーよねぇ。オレ、こっちに来るまでこんな甘くておいしーの食べたことなかったんだぁ。でも結構高いデショー? あ~ぁ、ひさしぶりにたべたいなー。ギルドの職員さんと違って、命がけでひぃひぃ言いながら遺跡探索して、その割にお財布がいっつもさびしーオレ達冒険者じゃ、なかなか手が届かないんだよね~」
「ぐ……」
「まぁまぁ、ミズキちゃんの分も剥いてあげるからさー」
なにいってんだコイツ。それは私のものなのに、なんでそんなに恩着せがましいの?
リューさんはするすると器用に桃の皮を剥いて一口大に切り分けると、フォークに刺して私の口元へ近づけた。
「はい、あ~ん」
ぱくっ。
「え」
もぐもぐ。ごくんっ。
ふぅ、やっぱりおいしい。
「えー、そんなアッサリ?」
リューさんが残念そうに口をとがらせた。
へっ、魂胆はわかってんだよ。
嫌がる姿を観察したあげくに、それでも言いくるめて無理矢理口を開けさせて、恥ずかしがらせようと思ってたんだろ。残念だったな!
まったく、なんつー見境のないヒトか。私のそんな反応見て、楽しいか?
「すまん、遅れた!」
「おじゃましま~す」
そこへ更に知り合いが二人やってきた。アロさんとエイジさんである。
元魔王と元勇者様が、仲良くお見舞いにやってくるとか……。いろんな意味でファンタジーすぎて、もう。
「ミズキ、大丈夫か? 痛いところはないのか?」
元魔王のアロさんが、心配そうにベッドへ近付いてくる。いやあの、怖いです。
はっきり言って、どんなに微笑んでいても魔人族さんはみんな冷酷そうに見えるんで、怖いんです……! トドメ刺されそう。
彼は未だに、パーティーに所属できたのは私のお蔭だと思いこんでいるので、なにかと親切にしてくれる。
たまたまあの日、カウンターに座ってただけなのに。
「ちょっと体調崩しただけなので。実は明日には退院するんですよ?」
「む、そうなのか? 人間は脆いからな。無理をしてはいかんぞ」
「アロ、俺だって人間なんだけど~?」
「オレもオレも~」
「お前達は規格外だからな」
……仲良くやってるようで何より。
「明日退院って、そしたらすぐにカウンターに戻るの? 今さぁ、あそこ女の子エリスちゃんしかいないんだよ~。癒しがほしいよぉ」
リューさんが、非常に彼らしく嘆いた。
癒しっつったらシバさんに勝てる気しないんだけど、そんなに性別雌であることが大事なのか、このヒトは。
「いえ、私ちょっと、家出することにしたんです」
「「「家出?」」」
わぁ、ハモったよ。ほんとに仲良しさんだなぁ。マッチング担当者としてこんなに嬉しいことはないね。
「家出っていうか。ちょっと息抜きに、観光してから帰ろうと思って」
本来ならば私は、一刻も早く異世界人特別保護区に戻るのが望ましい。
もしくは、この病院のようにギルドの目がそこかしこに行き届いている施設内にいるか。
でも、たまに息が詰まるんだよね。
「ちょっとお忍びで、そのへんの宿屋さんに数日。あ、どうせ監視はつくのはわかってます。要は気分です!」
いざって時に助けてもらわないと私が困るので、ほんとならこっちから頭下げてお願いするべきなのかもしれないんだけど。
でも、ほら。黒い軍服……じゃなかった、ギルドの制服に身を包んで、サングラスとインカムつけたおにーさん達にうろうろされるのって、ちょっと。
せめて、市井に紛れてさりげなく見守られたいわけよ。
余計な手間がかかる? 知ったことか!
たまには私だってわがまま言いたいんだよっ!
「ちょうど明日から、このあたりのお祭りだそうですから」
一人寂しく屋台冷やかしてきます、と微笑めば、お見舞いの三人組は複雑な表情で顔を見合わせた。




