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こちら冒険者ギルド別館、落とされモノ課でございます。  作者: 猫田 蘭
第一部-3章<エルフとギルドと魔女の檻>
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 ほああああ……。

「何ぼ~っとつったってんの」

 真後ろから掛けられた声で我に返る。

 あらやだ私ったら、大口開けてるとこるーきゅんに見られちゃったかしら?


「え、あぁ、きれいだなって」

 だって、部屋の天井から、壁から。緑色の燐光を放つ光の玉がいくつもいくつも降ってくる。まるで雪みたいじゃぁないか。いやむしろ、星? 蛍?

 ためしにひとつ捕まえてみようと手をのばすと、光はぽぅっと小さく音をたてて、溶けて消えてしまった。なんて儚い。

 床は一歩足を動かすごとに瑠璃色にきらきらと煌めいて、まるでどこかの南国の海の真ん中に立っているみたいな気分になる。


 なにこれすっごく幻想的。ろまんちっく!


 やばいやばい、この部屋でるーきゅんとふたりっきりだったら、うっかりプロポーズしちゃうところだった。脈絡もなく「君と一緒にこの愛の海で溺れたい」とか血迷ったセリフ吐き出すところだった。あっぶなぁ!

 ……という内心の動揺を押し隠して、何食わぬ顔で振り返る。


「下の『神殿』とはだいぶ違うね」

 こっちは神殿というよりむしろ、うん。パワースポット的な。

 少なくとも私のイメージしてた神殿とは違う。神秘的過ぎて、祈るよりも感じるための場所って気がする。

 そう私が言うと、るーきゅんは肩をすくめた。


「アンタ達の世界って、変わってるよね」

「え、なんで? どこが?」

「神殿って、神様を奉る場所じゃん。形なんて決まってるもんじゃないでしょ。むしろオレの世界は、こんな感じのが多かったけど」

「私の感覚がおかしいだけかも。世界単位で変わってるって言われると、なんか、……地球に申し訳ない気がする」


「知らないよ、そんなの。オレの知ってるアンタの世界ってさ、アンタの事だけだから」

 る、るーきゅんっ?(きゅうううん)

 なっ、なにをいいだすですかこのにゃんこはっ! いきなりそんな、そんな、君は私を殺す気か? キュン死させる気なのかっ?

 あーやばい、顔が溶けそう。ものすごくだらしなく蕩けそう!


「る、ルーク君のいた世界って、どんなところだった? いつも私ばっかり話してるよね」

「どんなって。……アンタの世界に比べたらとんでもなく野蛮な世界だよ。聞かせる事なんか無い」

「私がいた世界も、そんなにお綺麗じゃなかったよ?」

「でも、アンタ見てればわかるよ。『文明的で平和』な世界だったんだろうな、ってね」


 え、あの、本当にどうしたの、るーきゅん。今まで元の世界のことなんて、私に話そうとしなかったのに。もしや本気で私にトドメを刺そうとしてるんだろうかって心配になっちゃうよ?

 はっ、それともまさかこの雰囲気に飲まれた? え、この流れでどさくさに紛れて私達の(心の)距離が近付いたりしちゃうっ? もしかしてちゃんす?


 ……と、まぁ、そうはうまくいかないのが世の習いである。

「ルークレスト殿~! ミズキ殿~!」

 向こうの方から、リオウさんが仲間を連れてやってきた。そして、あっという間にるーきゅんを取り囲む。ひ、引き離されたぁ!

「『折れぬ牙』のメンバーを紹介したい。まず、こちらが……」

 なんだこの天の川?

 くそぅ、もうちょっとだった(かもしれない)のにっ!


 ちぇっ、仕方ない。じゃぁ今のうちにお仕事すませちゃおうっと。

「イジェットさん、それで、私は何を回収すればいいんでしょう?」

 さすがに数日間一緒にいたメンバー(リオウさん除く!)は落ち着いたもので、るーきゅんを取り囲んではいない。

 でもさぁ、「仕方ねぇなぁあいつらは」みたいな余裕の表情で眺めてるその様子はちょっと痛いよ? あなたたちだって初対面の時は興奮してたじゃん。


「ん、あぁ。アレか……。アレはだな、あー、あっちだあっち。その、なんだ?」

 イジェットさんが言いよどんで、ワンさんに目くばせする。なんだなんだ?

「あぁ、例の物はこの奥にあるんです。でも今夜はやめておきましょう。少々てこずりそうなので」

「そうなんですか……? でも私、取り込むのは一瞬ですみますよ?」

「それでも、です」

 ワンさんは何故か私を奥に行かせたくないみたいで、読めない笑顔を浮かべて私を押し戻した。


「それよりもミズキ殿。手料理を振る舞うという約束は?」

 ワンさんが強引に話題を変えつつ、一歩踏み出してくる。私は思わず後ずさった。

 くっ、な~んかこの人、苦手なんだよなぁ。どこか似てるんだもん。誰に、とは言わんが。(怖いから)

「おぉ、そうだそうだ! あいつらに一つ、うまい酒のつまみを頼むぜ!」

 更に、ばしぃん、とイジェットさんに背中を叩かれる。いってえええええ!


「お酒のおつまみって、大したもの作れませんよ? 材料だって無いし」

「み、みずきさま! ぼくもてつだいます!」

「私も手伝いますわ。変なものが出てきては困りますもの」

 潰すぞこの羽虫がぁ!

「おぅ、期待してるぜ~」

 イジェットさんはそう言ってひらひらと手を振ると、酒を探してくる、とワンさんと共に消えてしまった。


 うん。なんか絶対誤魔化されたよね。


 結局、芽の出かけたジャガイモが大量に見つかったので(買ったの忘れたり収納場所が無くてとりあえず突っ込んだりしたまま、取り出し損ねたのが数袋……)、危なそうなところだけくり抜いて切り刻んで、全部フライドポテトにしてやった。

 食べた皆様の評判? ……ふつー。


     *****


 翌朝。

 「回収対象」を目にした私は、どうして彼らがギリギリまで隠そうとしたのか、嫌というほど理解した。


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