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こちら冒険者ギルド別館、落とされモノ課でございます。  作者: 猫田 蘭
第一部-2章<守護者と魔物と巨大ロボ>
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「上」

 るーきゅんが、空を見上げた。

 え、どこどこ?


 私以外の皆様にはすぐにわかったようで、全員が同じ方向を見上げている。

 しつこく雷光貫通ライトニング・ニードルを繰り返しているリオウさんさえも、視線をそちらに向けていた。


 え、ぜんっぜん見えないんですけど。なにこの置いてけぼり感。

 と思っていたらキラッと光る点を見つけた。点はぐんぐん大きくなる。つまり、降りて来てるって事か。


「……ったことある?」

「いや、ねぇな」

「この階層に飛行型の魔物がいるなんて知りませんでしたわ」

 おいおい、なんだよそれどーすんだよ。そろそろ私にもその姿がわかるくらいまで迫ってんだけど。


 その姿は戦闘機に似ていた。

 でも、時折はばたいているところをみると無機物系じゃなさそうだなぁ。


 金属光沢のある鎧のような外皮に覆われた、鳥?

 プテラノドンっぽく見えなくもないけど、嘴があるし。それに手が見あたらないからなぁ。翼竜というよりは、鳥なんだろうなぁ……。


 一番弱いのが誰なのか瞬時に判断したらしいその鳥は、私に向かって急降下してきた。

 ひいいい、串刺しにされるうう!

 思わずしゃがみ込んだ頭の上で、ばちばちばちっ、と音がして、悲鳴が響き渡る。


   ぎぃぃぃいいいいいいいいい!


 あ~、そういやこの円の中は、ヴィトちゃんのトラップとワンさんの結界で守られてるんだった。すっかり忘れてた。

 でも、あの衝撃に何回くらい耐えられるのかなぁ……。


「ぼ、『ぼうしょく』さま、だいじょぶです。だいじょぶですからねっ!」

 ヴィトちゃんが私にきゅっとしがみついて、背中をなでてくれる。

 いやあの、うれしいけどちょっと情けないよ……。でもあぁ、もふもふが、もふもふがこんな近くに……。よし、今のうちに堪能しよう。

 ふしゃふしゃ。(うっとり)


「上の方に巣があったのでしょうね」

 半トランス状態のワンさんが、魔物の分析を始める。

 器用な。いや、お仕事柄必須なスキルなのかもしれないが。


「遺跡内は、飛行による探索を禁じられています。かつてその方法で探索を試みたいくつかのパーティーが、消息を絶ったというのがその理由です」

 ふむふむ。そういやなんか、禁則事項にそんなのあったような気がする。


「おそらく、階層の天井付近に生息していて、滅多なことでは降りてこないタイプなのでしょう。だから、我々の誰一人、見たこともなかった」

 ヤツと戦ったパーティーはおそらく全滅しているのでしょう、とワンさんは冷静に締めくくった。

 出会ったものは皆殺し。それが意味するところは……。

「ってことは、未知の『災禍』級、あるいは」

「『蒼褪めた馬』級……」


 えー、「蒼褪めた馬」ってのはあくまでも地球出身者用の翻訳で、つまりは死神の乗り物の事である。

 他の世界出身者さんには、それぞれの世界で語られる死神の乗り物、従者を指す単語が割り当てられているはずなのだ。

 翻訳魔法の汎用性の高さ、パねぇ……!


 まぁなんにせよ、「死」と共にやってくる、という意味は共通している。

 都市伝説のようなもので、実力のある冒険者が消息を絶つと「蒼褪めた馬」級が出たんだろう、と噂されるのだ。

 実在は絶対に確認できないレベルの魔物。なぜなら、見たモノはみんな死んでしまうから。

 ……って、ヤバいじゃん!


 鳥は再び急上昇した。

「ヒットアンドアウェイ型かよ……」

 イジェットさんが忌々しそうに上空を睨む。

 ぐぬぬ、確かに忌々しい。


 そこへ、後方から新手が現れた。一つ目の巨人(サイクロプス)っぽい何かである。

 あー、あれは以前、テレビで見たことあるから知ってるぞ。

 身体の大きさ自体は2メートルちょいで、遺跡内の魔物にしては小柄な方なんだけど、切りつけると体液の代わりに毒を含む炎を出すんだよね。


 あと、かなり賢い。

 しゃべらないけど、こっちの会話を理解しているとしか思えない行動をとる。でも、説得には応じてくれないので倒す以外ない。

 後味の悪さをたっぷり味わわせてくれる嫌な敵なのだ。

 うぅむ。私は耐火、毒軽減装備で毒消しもバッチリだけど、みなさんはどうかなぁ。


「えーと、そろそろ私のアレ出そっか……?」

 おそるおそるるーきゅんにお伺いをたててみる。

 さすがにこれからもう一体来るとなると、やっぱり私も守られてるだけのお姫様状態じゃダメかなー、とね。

 でも、護衛対象が勝手に行動するのは問題だよなぁ。かえって邪魔になる可能性もあるし。


 るーきゅんは迷わず頷いた。

「空のを」

 げぇっ!


「え、それはちょっと難易度高すぎると思うよ?」

「引きずりおろして押さえつけて」

「護衛対象にやらせることっ?」

「いいから、やって」

「うぅ、……はい」 


 まぁ、こっちで飛行可能なのはキリルさんのみ、ワンさんももしかしたら手段があるのかもしれないけど、どっちも中~後衛だからなぁ。

 非常事態だし、せめて他のを倒し終えるまでは私が持ちこたえるしか……。


「じゃ、じゃぁ、いきます。すみません、『折れぬ牙』の皆様、離れてください」

「ほぅ、『暴食』殿のアレですか。噂には聞いていましたがこの目で見られるとは」

 こんな状況だというのに、ワンさんが妙にうれしそうに目を輝かせた。

 が、学者さんって……!


「アンタ達はそのまま下がって、あの一つ目やってて」

 そう言ってるーきゅんはゴーレムに向かって走り出した。なるほど、弱ってる敵からまず片付けようってことね。

 あぁ、ゴーレムこそちょうどよかったのになぁ、私の相手。全部全部、リオウさんのせいだ!

 でも今更グダグダ言っても仕方がないか。


 私は覚悟を決めて、右手を突き出し(もちろん、円からはみ出ないように注意したよ?)、叫んだ。


「いでよ、オシリス!」


 ……叫ばなくても、出せるんだけどね?


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