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こちら冒険者ギルド別館、落とされモノ課でございます。  作者: 猫田 蘭
第一部-2章<守護者と魔物と巨大ロボ>
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 るーきゅんは、元勇者様である。


 大きな部族の族長さんとこの末息子で、3歳の誕生日に「この子はいずれ世界を救うだろう」な~んてご大層な予言をされてしまったという。

 なんでそんなちびたんに過酷な使命を押しつけるかなー。


 そんなるーきゅんは、12歳にして魔王退治の旅に連れ出され、14歳で見事討ち果たした。らしい。

 本人があまり詳しく教えようとしないので(話したくないのではなくて、クールぶっているのだ)、これは、少ない情報をつぎはぎして組み立てた、私の、私による、私のためのるーきゅん史でしかないが。


 とにかく、やっと懐かしの故郷に帰ろうというその矢先にこっちの世界に落ちてきちゃったってんだから、るーきゅんも運が悪い。

 そりゃまぁ、12歳の子供にとんでもない使命を背負わせて旅立たせた故郷の連中ってどうなのよ、と思わなくもないけれど。


 そんなわけでるーきゅんは正真正銘、魔王を倒したことのある勇者様なのだ。

 だから。強い。

 自分の2倍くらいの大きさの魔物なら一瞬で倒してしまう。


 たった今も、曲がり角から前触れもなく飛び出してきた紫色の何か(鱗で覆われてるサイのようなイキモノ)を、ろくに見ることもせずに切り伏せてしまった。

 こうもあっさり倒しちゃうと、こう、なんとゆーか。

 もし君が待ち伏せしていたつもりだったのなら、ゴメン? みたいな気持ちになるなぁ……。


 るーきゅんはぐりぐり、とその魔物のおなかをふんずけて、核の場所にアタリをつけると剣で一突き。そのまま彼が手首をひっくり返せば、不思議なことに核がひょいっと飛び出してきた。

 なんて器用な! さすが剣術チート!


 核を空中でキャッチしたるーきゅんは、こちらにそれを放ろうとして……ぴたり、と動きを止めてふり返った。

「アンタ、平気なの?」

 え、なにが?


 あー、いや、一応年上として、16歳の男の子一人に戦闘を任せきりで突っ立ってるのは申し訳ないような気もするけどね。さっきキミが言った通り、お仕事だし。

「そうじゃなくてさ。魔物見てビビったり、しないの?」

「あー。うん。テレビで見てたせいか、特には……」


 突然後ろから襲いかかられることがあれば悲鳴くらいはあげるだろう。あと、音には結構びっくりしてるんだ。鳴き声とか、やたら響く足音とか。

 でも、そうだなぁ。

「少なくとも、倒れてる魔物は別に怖くない、かな」

 無論それは、るーきゅんの腕を信じきっているから、というのもある。万が一にもコレが起きあがって襲ってくることなんてない、と。


 でも一番の理由はたぶん、無臭だから、ではなかろうか。少なくともこの空間に血臭は感じない。

 だから不謹慎だけど、よく作られたアトラクションのように思えてしまって。


「あっそ。なら、いいけど。面倒がなくて」

 心配してくれたくせに一言余計に付け足さずにいられないるーきゅんは、それでも核についた体液を自分のマントの裾でぬぐってからこちらに放り投げた。

 きゃっち。


「こんなちっさいのまで集めたがるなんて、ギルドってめんどくさいよね」

 ちっさいのとおっしゃいますが、これでも3万クレジットくらいの価値はあるよ……?

 若いうちから稼ぎがよすぎると一円を笑うタイプになってしまうのだろーか。


「あ、説教とかイイから。そういうのウザい」

 う、顔に出てたか。まぁ、私に言われるまでもなく、もっと人生経験豊かな方から似たようなこと説かれてるんだね。じゃぁ私の出る幕はないわ。

「うんまぁ、お金は大事だよ」

「あっそ」

 るーきゅんは肩をすくめてまたすたすたと歩き始めた。


     *****


「今日はこの部屋で休むよ」

「はーい」

 ギルドから支給された「絶対に足を疲れさせない」ブーツは、人体構造学とスポーツ医学の知識に基づき、高性能コンピューターによって設計され、さらに自動回復の魔法が組み込まれた最高級品である。


 これのお蔭で、大した休憩も挟まずに歩き続けることができた。

 まぁ、ブーツだけでなくて、今身につけている装備一式全部すごいんだけど。お屋敷買えちゃうんだけど。


 とはいえ、眠らずに進み続けるのというのはさすがに厳しいので、キャンプは必要不可欠なのである。

 ふんふ~ん。キャンプキャンプ~。

 アウトドアなんて何年ぶりだろう。最後にしたのは……あー、ユリウスさんとの野外訓練だわ……。記憶埋め直しとこ。(埋め埋め)


 気を取り直して。まずは腹ごしらえだよね! るーきゅんは育ち盛りのオトコノコだし!

 よーし、おねーさん頑張ってつくっちゃうぞ。


 冷蔵庫(電気ではなく冷気の魔法式なので、ちゃんと機能している)を取り出して中身を確認。あーぁ、こんなことならちゃんと買い出ししとくんだった。

 それでも、よく食べるミサさんの為に最低限の食材は揃っている。よかった。


「ルーク君、何食べたい?」

 特に希望がないなら、簡単にカルボナーラとかでいいかな?

「……あのさ」

 あー、機材先に出しておくか。

 簡易IHヒーター2個と、フライパン、お鍋、あ、忘れちゃいけない魔法の水筒。まな板、包丁……。


「あのさ。アンタ、冒険者生活ナメてるよね?」

 るーきゅんが呆れたような目でこちらを見ている。

 あー、うん。冒険中の食事と言えば普通はせいぜいレトルトパックとか、保存食だよね。でも、持って来ちゃったんで。


「ごめんね?」

 特に否定せずに笑ってみせれば、るーきゅんはため息をつきながらも、「ドリアが食べたい」と小さく呟いた。


 ぐ、……グラタン皿あったかしら。


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