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こちら冒険者ギルド別館、落とされモノ課でございます。  作者: 猫田 蘭
第一部-2章<守護者と魔物と巨大ロボ>
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「では、遺跡No.05、通称『神殿』への転送を開始します。御武運を」

 合成音声によるカウントダウンが始まった。


 遺跡への転送は、魔法ではなくテクノロジーによる転送なので少々時間がかかる。装置の準備ができるまで、カプセルの中に横たわってしばらく待つ時間が必要なのだ。

 魔法も進みすぎた科学も、仕組みがよく理解できないこちらとしては違いがわからんし、はっきり言って時間のかからない魔法的転送の方が楽なのだが、こればかりはそうはいかないらしい。


 それは、遺跡が不思議な力で魔法を跳ね返すからとか、理屈に合わない磁場がなんちゃらとか、そういう小難しい理由からではなく。

 いやある意味小難しいというかややこしいんだけど。

 ……利権の、問題なのだ。


 魔法による転移陣は、この世界の生まれの人でも使えなくはない。

 もちろん習得には時間が掛かるし、魔法というのはとにかく才能次第なので使える人間は限られているけれど、不可能ではない。

 しかしギルドとしては、遺跡を独占したいので、他ルートから侵入されたくない。


 そこでギルドは、遺跡内における魔法転移を全てジャミングするという、思い切った手段に踏み切ったのである。

 その方法は極秘だけど、たぶんそういう事ができる人材がギルド内にいたんだと思う。なんせチート持ちの集団だからな。


 あ、表向きは「遺跡内では『なぜか!』転移魔法が使えないみたい。ふしぎ!」ってことで押し通してるけど、これ、公然の秘密なんで。

 たまにデモが起こるんだよね。「貴重な遺跡を独占するギルドの横暴に~、はんたぁい!」とか。


 まぁ、一応ギルドに所属するモノとして弁護するとだね、遺跡に入れるようになるまで、ギルドはすっごい犠牲を払ったんですよ。人材的にも資金的にも時間的にも。

 元々入口も無くて、燃やそうが爆破しようが傷一つつかなかった遺跡に、必死こいて穴開けたんですよ。


 そしたらなんか、「守護者」ってのが出てきちゃってですね。ギルドVS守護者の戦いは、実に2カ月に及んだそうな……。

 犠牲者もたくさん出て、なんかもう、世界の片隅で最終戦争勃発、という有り様だったらしい。遺跡の周辺だけラグナロク、みたいな。

 これを実に、8回も繰り返したのだ。


 そもそもこの世界の人々にとって、遺跡は「なんか知んないけど、巨大で邪魔なものがあるよね~」くらいのガラクタに過ぎなかったわけで。ギルドが「落とされモノ」との相関関係に気づくまで、遺跡なんぞに興味を示すのは暇人か変人、という扱いだったのである。


 金になりそうだとわかった途端に群がって来やがって! 散れっ、散れっ! というのが、ギルドの主張なのだ。


「お疲れさまでした。遺跡No.05、通称『神殿』への転送が完了しました。固定バンドが外れますが、ポッドが開くまでいましばらくそのままでお待ちください」

 おっと、遺跡の中に着いたらしい。


 いやー、実を言うとテクノロジーによる転移は初めてだからちょっと怖かったんだけど、魔法とあんまり変わんないんだな。手間が掛かるだけで。

 ポッドから出て恐る恐る自分の身体を確認する私を、るーきゅんは「なにしてんの?」と言いたげに眺めている。

 いや、ほら……。転送の途中で異物が混入とか、そういう怖い想像したりするんだよ、地球人としては。

「あっそ。じゃ、気がすんだなら行くよ」

 るーきゅんはいかにもどうでもよさそうに頷いて、さっさと歩き始めた。


 あぁ、歩くたびにふりんふりんと揺れるしっぽが愛おしい。

 いや、けっしてセクハラ的な意味ではなく。私は「動物の尻尾は世界で一番愛でられるべきものだと思うの会」所属なので! うぅ、真ん中あたりをきゅってしたい。


 そんな私の気持にも気付かずに、るーきゅんは「あんたと一緒だと、身軽でラクだね~」などとかわいい事を言いながら進んでいく。「ま、あんた自身が一番のお荷物だけど」だってぇ。きゃぁきゃぁ、生意気かわいい!


 これね、この気持ち。同年代だったら絶対沸かなかったと思うんだ。

 多分本気で「この無礼者がぁっ! しっぽ引っこ抜かれたいんかコラぁ!」って腹を立てたに違いない。

 あぁ、るーきゅんが年下で、本当によかった……。大人の余裕で、なんでもかわいいに変換できちゃうよ、今なら。


「あんたには援護とか全然期待してないし、戦闘になったら絶対前に出ないでね。うっかり怪我されたら迷惑だし」

「うん。ありがとルーク君」

 例えばほら。お礼を言ったらぎょっとしてふりかえるその顔。かわいい。


「何言ってんの? オレの話聞いてた?」

「うん。私が戦うの得意じゃないから、ルーク君が守ってくれるってことでしょう?」

「それが仕事だからだよっ!」

「うん」

 そして、顔を赤く染めて、少し乱暴にずんずんと歩き出す後ろ姿。かわいい。


 はうぅ、甘酸っぱい。

 これよこれ、この初々しいやりとりが私の日常に欠けてるわけよ。あぁもう、るーきゅんは私に青春を思い出させてくれる天使に違いない。

 これだから、どんなに「変な女」と罵られても、私はるーきゅんがだいすきなのである。


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