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ちゃらっちゃちゃ~らちゃ~らら~……
テレビからお馴染み、「世界の魔窟から」のテーマ曲が流れてきた。
『みなさんこんばんはっ。「世界の魔窟から」、今回の放送は北西大陸ルヴェンナの遺跡、第五階層からお送りしますっ!』
息切れ気味のリポーターが、必死の形相で走りながらいつもの挨拶をする。どうやら今日は、敵から追われているところからはじまるらしい。
第五層って、結構潜ってるな。だいじょぶか?
『現在っ! 我々撮影チームはギルドの許可を得てっ、マスコミとして初めてっ、第五階層探索中のっ、「折れぬ牙」のみなさんとっ! 行動を共にしているのですがっ、1カメさんあぶないっ』
ざざざ、と画面が一瞬乱れて別の角度からのカメラに切り替わる。
『えー、今、メインカメラがやられました。撮影者は無事です。繰り返します。撮影者は無事なのでリポートを続行します』
『おい邪魔だっ! 頭吹っ飛ばされたくなきゃ伏せとけ! キリル、準備できたかっ?』
『安全装置解除。カウント開始します。10、9、8、7……』
『ごらんの通りっ、我々は今、災禍級の魔物との交戦現場にっ、居合わせておりますっ!』
リポーターの女性が現状説明しつつずざざざざ、と地面にスライディングする横を、羽をはやした妖精族の女の子がすり抜ける。
キリルさんである。
キリルさんは、本来魔力の固まりのような妖精族でありながらほとんど魔法が使えない。代わりに金属との相性がやたらいいという、いかにも、こう……。
いかにもアレな設定持ちげふげふ、能力持ちのヒトなのだ。
『いきます。「追尾する鋼」』
どどどどどど!
ぎゅるるるあああああああああ!
大きすぎて形さえわからない魔物が、右足を無数の弾丸に貫かれ、体勢を崩してどぅっ、と倒れる。
うむ、さすが災禍級、倒れるだけでも迫力がすごい!
「ミツキさん、危ないシーンはカットされてるっていわなかったっけ?」
「大丈夫、さすがに死者がでるような戦闘は放送されませんから。たまに重傷者や行方不明者はでますが」
「あたしのしってる家族向け番組とちがう!」
この番組の売りは、一般人は一生体験しないであろう遺跡内部での戦闘を見せることなんだから、このくらいはもちろんアリなのだ。
ってゆーか、ああいう大物は遺跡の中にしかいないんだから、番組的にはむしろ大歓迎だと思う。
おーおー、それにしてもリーダーのイジェットさんはいつ見てもおっきな……ビーバーにしか見えんなぁ。つか、ビーバーなんだよね? おっきすぎるけど。
『ワンとリットは後ろへ回れ! サイは二人の護衛だ。おいてめぇら、どけっ!』
巨大ビーバーは自分の身長ほどもある分厚い盾をぶんまわして地面に突き刺し、転がっているリポーターをにらみつけた。そこをすかさずカメラがアップでとらえる。
もう、顔が凶悪すぎてビーバーに見えない!
『えーと、今ちょっと危なそうなので。カメラさん、下がりましょうか』
どんなに邪険にされてもリポートをやめないところに、マスコミの意地を感じるな。
「ミツキさんミツキさん」
くぃくぃ、とミサさんが私の袖を引っ張った。あぁんもう、今いいところなのに!
早すぎて刃が見えないってんで「無刃」なんて呼ばれちゃってるカッコイイ槍使いのリオウさんが、魔物の左足に切りつけ終わってクールなポーズ決めてたのに!
「なんですか?」
「あの人たち有名なの?」
んむ、ミサさんはこっちに来たばっかりだし、知らんのも無理はないか。
「ギルドでも屈指の老舗パーティーですね。魔銃使いのキリルさんをはじめ、重戦士でリーダーのイジェットさん、槍使いのリオウさん、魔導技術士のワンさんなどなど、花形冒険者12名+見習いさんで構成されてるんです」
「ほえー」
「彼らくらいになると、毛皮や骨、牙なんて眼中にないので、ああいう思い切った倒し方しちゃうんです。核だけ抜けばいいやって。あのくらいの魔物になると多分、500万クレジットくらいの核がとれそうですねぇ」
「それって日本円でいくら?」
「1クレジットで1.5円ってイメージです。計算どうぞ」
「うえ?」
核というのは、いわば冒険者の飯のタネである。
遺跡内を徘徊している魔物だけに存在する謎の器官で、冒険者ギルドはコレを買いとって研究しているのである。遺跡の謎を解明するために。
「んーと、750万円! え、すごくない? 大儲けじゃん」
「言ったでしょう、初期投資。さっきキリルさんが派手に撃ってた銃。本体価格300万クレジットで、専用弾は一発5千ですよ。他にも、食料やら武器防具のメンテナンス費用で、羽根が生えたように飛んで行くんです」
そしてそのお金は、武器防具屋を経営しているギルドの懐に戻る、と。
どこまでもどこまでも、ギルドだけが潤うシステムなんだよなぁ。
やがて、ハーピーのリットさんによる「久遠共鳴」(【しばらく音声なしでお楽しみください。】ってテロップ流れちゃった!)で弱らせた魔物を、小人族のワンさんが「電気分解」(全体にモザイクかかっちゃった!)して、戦闘は終了した。
「み、ミツキさん、あの向こうでなにが……」
「見えなくてよかったですね。臭いも、画面越しだと届きませんし」
「あ、あたし、やっぱり学校行きたい!」
うんうん。
半泣きで「冒険者なんかヤだ」としがみつくミサさんの頭を、私は優しく撫でてあげた。
……私が「そこ」に召還されたのはその翌日の朝のこと。




