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こちら冒険者ギルド別館、落とされモノ課でございます。  作者: 猫田 蘭
第一部-1章<迷子と王子と籠の鳥>
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「そもそもですね。あの国が私に接触してきたとき、最初に提示されたのは一代限りの貴族の身分と、衣食住の保証、そして破格の年俸だったんです」

「ねんぽー?」

「お給料ですね」

「ふんふん」


「でも、それでは私を中央大陸の外に連れ出すことはできないと知って、彼らはギルドの『七罪ななざい保護法』の抜け穴を探し出しました。それが、結婚だったんです」


 「罪持ち」は保護区からの出入り、就職に関しては非常に厳しく管理されている。

というか、就職先はギルド別館一択である。守りやすい、監視しやすいという理由で。……面倒なモノは一カ所に集めとけってか?


 あ~ぁ、実は能力さえ発現しなければ、私はちょっと離れた街の裕福な商家の養女になってたはずなんだけどなぁ……。

 優しそうなおじさんおばさんに囲まれて優雅なお嬢様生活だったかもしれないのに。はふぅ。


 まぁそれはさておき、そんな「罪持ち」が唯一、完全に自由を認められているのが、恋愛及びそれに付随する結婚である。あくまで建前上な。

 さすがにそこまで制限するのは200年前の奴隷状態と変わらんし、外聞悪いだろってことで。


「本人の意思で結婚した相手が、どうしても保護区で暮らせない場合、たとえば、どこかの国で重要な役についている人ですね。そういう人とどうしても結婚したいと本人が希望すれば、特例として相手についていくことが許されるんです。えーと、旦那さん、または奥さんの出張についていくイメージです」


 ただし、その際には監視役、護衛がぞろぞろついていくことになるだろうが。そしておそらく、隙をみて暗殺されるに決まっている。

「どの国も、薄々そううまくはいかないだろうとわかっているので、下手に『罪持ち』には手を出そうとしません。でもまぁ、あの国は……国全体が、なんというか、イカれてるので」


「え、でもその王子様がミツキさんと結婚したいって言ったんでしょ?」

「いーえ!」

 なんとも恋に恋するオンナノコらしい発想に思わずべちっ、と机を叩くと、ミサさんがびくぅっと肩をすくめた。


「すみません、ミサさんじゃなくてあの野郎に腹が立って、つい。違うんですよ、ひどいんです! 聞いてください」

「う、うん」

「あの国の人々は早婚なんです。特産品は戦争屋、ってお国柄なんで。子孫を早めに作っておきたいんですね。ミサさんくらいなら結婚していて普通、くらいの基準です」


「異世界ってそういうもんだと思ってた」

「中央大陸は晩婚化が進んでいて、30くらいまで独り身はふつーですよ」

「そんなとこまで日本を輸出しなくてもいいのに……」

 これは今時、日本に限ったことじゃないと思うが。


「で、ですね。私は当時18だったんですけど、年齢的につりあう、重職に就いている独身の男性が、彼一人しかいなかったんです」

 ちなみに、王子様当時20歳。


「彼はあのイカれた国の中でも突出しておかしいんです。自分の仕事が楽しくて愉しくてたのしくて仕方ないので、妻子の相手なんてしたくない、と独身主義をかかげていたような人物です」

「仕事人間なんだ」

 しかも、たのしいお仕事の内容は暗殺っちゅー、ね。


「彼はですね、こう言ったんですよ!『じゃぁ、便利そうだし結婚しましょうか』って。じゃぁってなんだぁっ!」

「み、ミツキさん酔ってる? もしかして酔っちゃってるっ?」

「酔ってません。腹を立てているだけです」


 いやほんとに。怒りのあまりちょっとヒートアップしすぎただけですって。まだお茶はいいから。

「とにかくそんなわけで、むなしいだけのお話ですよ……」

「そ、そっか。ごめんねミツキさん」

「いえ、こちらこそ」


 たださぁ、本気で何とも思っていない、ただの腐れ縁の異性のことを「そんなこといっちゃって実は好きなんじゃないのぉ?」なんてはやし立てられると腹が立つじゃないか。

 1、2回くらいは笑って聞き流せても、あんまり回数が重なると「しつけーんだよ!」と言いたくなるではないか。

 でも、ミサさんはとんだとばっちりだったね。反省してる。


「それよりミツキさん」

 それより?

「なんか、お客さん増えてるんだけど」

「あぁ。ほらここ、テレビがあるんで」

「なにかあるの?」

「ええ、人気番組の『世界の魔窟まくつから』が始まるんです」


 私も、これが見たくてわざわざこのお店のこの席を予約して来たわけで。 ギルドで見てもいいんだけど、これ見てるとユリウスさんがちくちくイヤミ言うんだよ。

 あんなところ不潔だし不便だし、あなたのような甘ったれには無理ですよって。別にさぁ、行きたいなんて絶対言い出さないから、そろそろ安心してほしい。


「『世界の魔窟から』っていうのは、遺跡探索している人々のドキュメント番組です。昔は生中継だったんですけど、放送事故が多すぎて録画編集バージョンになりました」

「放送事故って、失言ってやつ?」


「まぁ、それもありますけど。インタビュー中に突然モンスターが襲ってきて、メインアタッカーが倒れて阿鼻叫喚あびきょうかん、とかライバルパーティーとエンカウントして、小競り合いが血みどろの争いになったりとか」

「う、うわぁ」


「あと、戦闘終了後に衣類がぼろぼろになって、見えてはいけないものが見えちゃったりとか……」

 アイドル風に言うと「ポロリ」ってやつですな。ただし、圧倒的に男性が多かった。

 仮にポロっとしてしまったのが女性だったとしても、私はちっとも嬉しくない!


「今はそういうまずいシーンはカットまたはモザイク入ってるんで。お子さまでも安心して楽しく見られると好評なんですよ」

「ミツキさん、もしかしてあたしのことすごく子供扱いしてない?」

「してますが?」

「ひどいっ!」


 おかしいな。ユリウスさんにされたことをミサさんにしているだけなんだけど。なにがいけないんだろー。(棒読み)

「ほらほら、始まりますよ。これ見て冒険者なんてヤクザな稼業につきたいなんて気持ちを根こそぎ吹き飛ばしましょうね」

「うぅ、ミツキさんのいじわる」

 親心です!


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