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こちら冒険者ギルド別館、落とされモノ課でございます。  作者: 猫田 蘭
第一部-1章<迷子と王子と籠の鳥>
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「はぁ、今日もしつこかった。ありがとねルーク君ってはやっ!」

 危険人物も去ったことだし、少し世間話でもして親睦を深めようとるーきゅんに話しかけたつもりが、当のるーきゅんはそこにはいなかった。

 えらい早さで遠ざかり、もうすぐ向こうの角を曲ろうかという位置にいる。


 ちょっ、ええ? おねーさんとちょっとくらいお話していこうよ。せめて「またね」とか「ばいばい」くらい言っても罰は当たらんと思うよ?

 ってゆーかこれじゃ私、一人でしゃべってる危ない人みたいじゃん、ひどいよ!

 あぁでも、るーきゅんだからしょうがないや……。猫だもんな。


 愛しのだぁりん(笑)が行ってしまったので、テンションが一気に下がった。ちぇっ、つまんないの~。

 とはいえ、これで帰るわけにはいかない。早くミサさんを回収してこなくては。だから言ったでしょうとユリウスさんに鼻で笑われてしまう!

 私は気合を入れ直して、ギルド本館内部へと足を踏み入れた。


 ギルド本館に入ってすぐに目につくのは、一般的に「冒険者ギルド」と聞いて思い浮かぶ、依頼を受けたり斡旋したりするカウンターではない。


 銀行である。


 だいぶ昔に銀行家さんが落とされて来て、この制度を確立したのだ。

 ルネサンス期のメディチ家を見ればわかる通り、銀行というのは非常に強い力を持つことになる。

 何せ、他人の金を預かって、貸し付けて、利益を生み出すわけだから。自分の懐が痛まないし、うまい商売だよなぁ。


 そう、我らが冒険者ギルドの一番の、というか9割方の収入源はこの銀行業なのである!

 かさばる金、銀、銅貨の代わりに電子マネーを普及させ、今では冒険者のみならず現地の一般の人々でさえも冒険者ギルド発行のクレジットカードを持ち歩いているという……。

 当然、(ハイテク技術を独占しているため)ライバルなんかいないので一人勝ち独走中。


 どう転んでも勝つとわかっている勝負に全力で挑むのって大人げないような気がするんだ。まずは紙幣の普及から始めようよ。隙がなさすぎるよ。

 まぁ、そのギルドの庇護下でお給料までいただいてる私の言う事じゃないけどな。


 ちなみに、依頼を受け付けたり斡旋したり、物を売買したりする業務は2階でやっているらしい。らしい、というのは、私は2階に足を踏み入れた事がないので実際はわからないのである。

 だって一般冒険者さんこわいし~。ガラわるいし~。


 顔見知りの警備員さんはいるかなー、ときょろきょろ見回せば、会うたびに飴をくれる親切なおじさん(異世界トリップチートが「甘味生成:空間」だったんだって。び、びみょ……)を発見した。らっきー。


「こんにちは~。すみません、訓練所行きたいんですけどカード忘れちゃって。扉あけてもらっていいですか?」

「おや、ミズキちゃん一人かね」

「はい。チュートリアルの担当になったんで」

「新人さんが来ちゃったかぁ。気の毒に」

「ええほんと」

 おじさんの「気の毒に」は来てしまったミサさんに対するものである。念のため。


「しかもなんか、私の家の近所の子で。でも話を聞くと10年くらい開きがあるんですよ。どうなってるんでしょうね?」

「う~ん、相変わらずよくわからない狂い方だねぇ」

 まぁ、持っていきなさい、とおじさんは両手いっぱいに飴玉を出して、私の手にのせた。ミサさんとわけろってことだと思うんだけど、サービスしすぎじゃないかな……。


 どうも、と頭を下げて、おじさんが開けてくれた扉をくぐる。

 しばらく廊下を歩いて突き当たりのロッカールームに入ると、ちょうどミサさんと訓練所の教官(女性。この人も元勇者様らしい。チートは「第六感」)が着替えているところだった。


「あ、ミツキさん! むかえにきてくれたの? もぉあたし、おなかぺっこぺこ!」

「そういえばもう昼をだいぶ回ったな。ミシャのスジがいいので、つい長引かせてしまった。だが、ミズキが今来たのならちょうど良かったという事か」


ミシャ、というのはミサさんの事である。私の名前同様、正確に発音しにくいらしい。私としてはミズキと呼ばれるたびに釈然としないというか、もにょっとするものを感じるんだけど、ミサさんは「外人さんみたい! お洒落!」と喜んでいる。


「え、ほんとにぃ? ほんとにスジいいですか? あたし冒険者になれますか?」

「それは、ミシャの頑張り次第だろう」


 褒められ、頭を撫でられると、ミサさんはわぁいわぁいととび跳ねて見せた。な、なんなんだこの無邪気さは。

 は、いつもはしかめっ面の女勇者さんがペット見るみたいな目をしてる! なにそれ、そうやってどんどん周りの人間に受け入れられていくチートとかじゃなかろうな? おそろしい子っ!


「あーでもつっかれたぁ。甘いものたべたぁい! 実は今学校で、体育のあと、みんなでこっそり食べるのがはやっててぇ」

 ミルクキャンディーとか~、バターキャンディとか~、とミサさんが言いだしたので、私はさっきもらった飴を取り出して、彼女に渡した。


「はいどうぞ。あ、教官もよろしければ」

「うん、いただこう」

 ついでに私も一つ、口に放り入れると、なぜか驚愕の表情でこっちを見つめているミサさんと目があった。


「なに?」

「え、ミツキさん、いま」

「うん?」

「いま、飴を! いきなり手の上に、にゅって!」

 にゅっ、って……。なんかどろっとしていそうな飴だな。


「うん、出しましたけど? あぁそっか」

 そういや私、ミサさんに自分の能力について教えてなかったな。

「私の能力は収納系なんです。手に触れたものを、質量も体積も無視して種類ごとに整頓して、どこかにしまったり出したりできるんです。ほら、ゲームでよくあるでしょう?」


「なんだ、ミシャはミズキの『暴食の鞄』を知らなかったのか。ミズキはこの能力のために、ギルドの特別保護監視対象なんだぞ」

「し、しらなかった……。なんで教えてくれなかったの~?」

 だって、聞かれなかったんだもん。

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