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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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手のひらに、太陽を

作者: さとしん
掲載日:2026/06/08

 漁師の四男として生まれたジャロ。

 七歳の時に口減しとして近海の海賊団に売られた。

 

 売られた先では、同じくらいの少年たちが集められていた。

 団員の身の回りの世話と、銃火器の扱いを学ぶ。

 

 売られて二ヶ月が過ぎた頃だった。

 寝ている所を突然副船長のボンゴに襲われる。

 下半身の痛みで涙を流した。

 

 初出撃は、成功に終わった。

 

 タンカーの中身と、人質。

 大量の酒とそしてコカイン。

 売れば数億の金が手に入る。


 ジャロが手にしたのは幾ばくの金。

 そしてくしゃくしゃになった死んだ三人の写真のみ。

 

 ボンゴの男婦として。

 斥候として、 五年の月日が経過。


 祈る神などとうに無く。

 五パーセントにも満たない確率を、どうにか生き延びる事ができた。

  あるのは殺意。

 ボンゴへの殺意を抱えたまま、月日が過ぎた。

 

 既に歴戦の戦士となっていたジャロは、作戦の重要な要として機能していた。

 

 ある日、ボンゴに次の作戦の指揮を任される。

 初出撃と同じ海域。

 奇しくも、あの日と同じクラスのタンカー。

 

 斥候のために売られた少年たちの選別のために、分隊の港に顔を出す。

 斥候候補の中に、一つ年上の兄の姿を見かけた。

 

 ジャロは気づいた。

 だが、兄は気づいていない。

 

 そんな中、ボンゴから次の作戦を成功させれば、分隊を一つ任せるという誘いを受ける。

 ジャロは、弟だと最期まで気付かない兄を斥候部隊に編成する。

 そこに、大した感情は湧かなかった。


 ――作戦は失敗に終わる。

 

 途中までは成功していた。

 だが、イレギュラーが命運を分けた。

 

 潮の流れで海域がずれ込んだ。

 ジブチから追われた海賊の残党。

 そして、それを追う軍とかち合ってしまった。

 

 ジャロは左手の薬指と小指を欠損する大怪我を追う。

 分隊は壊滅。


 逃走は陸路を使った。

 二ヶ月掛けて本隊へと帰還したジャロ。

 

 そこで目にしたのは見慣れた港と軍の船だった。

 部隊の壊滅。

 

 本来なら逃げる事が出来た。

 そのままジブチを歩き続けて、ソマリアでは無い見知らぬ土地へ。

 

 だが、そうしなかった。

 ボンゴ。

 両親。

 そして、それを生んだソマリアへの復讐心からだった。

 

 身を隠そうと踵を返す。

 だが、どこに逃げればいい?


 帰る場所は、――最初から無いのだ。

 

 ソマリアの地を当てもなく歩き続けていた。

 だが、逃避行も長くは続かない。

 二日程歩き続け、やがて警察に捕まった。


 牢屋。

 カトと嚙みながら適当に放置される。

 勾留されていた三日間が、一番安らいだ時間だった。


 その皮肉に、牢屋の中で笑みがこぼれた。

 

 だが、突然移送される事になる。

 砂と埃が混ざった匂い。

 それがやがて、嗅ぎ慣れた臭いへと変わる。

 

 手錠を付けたまま、車を下ろされる。

 そこには大隊の幹部、そして軍がいた。


 ジャロは目を見開く。

 

 ボンゴ。

 その手には札束。

 それを、軍人に手渡していた。

 

 後ろには自分と同じような少年たちが、別の船に移送されているところだった。

 

 雲一つない夕暮れが影を長く伸ばす。

 

 自分に気付き、ニヤつくボンゴと軍人。

 

 軍の車が浜沿いにこちらに来ていた。

 リズミカルなクラクションを鳴らした。

  仲間への合図のつもりだろう。


 その場の三人が車に注目をする。

 

 その瞬間、左手の錠を引き抜きいた。

 欠損部により、少し力を入れたらすんなりと抜けた。

 腰紐を持っていた警官からアサルトライフルを奪い、発砲。

 

 そのまま殺した警官を盾に、軍人を射殺。

 

 まさかジャロが抵抗するとは思っていなかったのだろう。

 ボンゴは驚き、慌てた。

 焦って拳銃を手にしようとしたボンゴの右手を、ライフルで粉々にする。


 悲鳴を上げるボンゴと、それを見下すジャロ。

 夢にまで見た光景。

 だが、それに浸る余裕は無かった。

 

 軍の車から一人が応戦しようと降りてくる。

 ふと、足元に転がる軍人が所持していた手榴弾を発見。


 信管を抜いてカウント。

 五。

 四。

 三の時点で投てき。


 狙い通りに爆発した車に笑みがこぼれた。


 夕暮れ。

 迫る夜。

 波の音だけが一日の終わりを告げる。


 足元にはうめき声。

 ボンゴにとっての死神。

 ジャロという黒い悪魔が、闇の中で白い殺意をむき出しにした。


 何を思ったのか。

 傍にあった車からカト取り出し、ボンゴに噛ませる。

 これから死にゆく者への慈悲だろうか。


 いや――。


 ボンゴの額に、まだ熱がある銃口を付きつけ、噛む事を強要する。

 理由も変わらず、震えた顎で噛み始める。


 ボンゴの目を見ながら、銃口を下げる。


 足を撃った。

 手を撃った。


 最後に、醜く出た腹。


 浜辺は、血に染まり。

 ボンゴの命の価値など、この程度のものかと。

 ジャロは少しだけ、がっかりした。

 

 射殺したボンゴの口から噛み始めたばかりのカトを取り上げた。

 それを口に含む。


 脳天を突き抜ける草の臭い。

 ボンゴの唾液と血の味。

 

 ジャロはその後、積荷のように運ばれていく少年たちを解放。

 

 今まで培った経験で自分たちがいた組織の本隊を襲撃。

 真夜中という事もあり、夜明け前に制圧。

 

 まだ死んでいなかった軍人を捕虜とし、米兵の身代金を要求する。

 

 驚いた事に捕虜とした米兵はCIAの職員でもあった。

 おそらく狙いはアフリカの喉元であるアデン湾。

 そこを監視下に置く事で、原油の値段操作による経済の掌握。


 尚更こいつの価値が上がると踏んだ。

 だが、その思惑は外れる。


 直後、子供達のアジトである海賊本部の上空に、三機のヘリが現れる。

 

 上空からの一斉掃射により本部は壊滅。

 子供達はジャロの指揮で二機を撃破。

 

 気づくと一面の炎。

 被害は甚大だった。

 

 かろうじて生きている者も、まもなく死ぬのが見てとれた。

 当然、米兵も目の前で炎に焼かれていた。

 

 自身も重傷。

 このまま死ぬのが理解できた。


 やる事は、自分も大国も同じか。

 

 最期を悟ったジャロが、歪んだアサルトライフルを手にする。

 足を引きずり、炎で燃えるアジト後にした。

 

 潮風を含んだ朝の風が、全身の傷に染みる。

 朦朧とした視界で、懐かしい道を歩いた。


 途中にあった店に立ち寄る。

 見慣れた店。

 漁師の父が、獲った魚を卸す先。


 手伝いをした度に、飴をくれた老夫婦。


 だが、今店を経営していたのは、別人だった。

 ジャロは店主に歪んだアサルトライフルを突きつける。

 そして、一握りのカトを強奪し、口に含んだ。

 

 知っている波の音が聞こえる。

 白く照らされる砂利道で、母親に手を引かれる幼い自分の幻覚を見た。

 ――懐かしい光景。

 

 一軒のボロいテントの前に立つ。

 

 出てきた父親と、知らない女。

 ああ、そういう事か。


 ジャロは、表情を変えずに引き金を引いた。

 足元に広がる二人分の血だまり。


 父親の最期の表情。

 あれは自分を息子だと認識していないようだった。


 物陰から出てきた一人の子供が泣きながら出てきた。

 動かない女にすがって泣いている。


 ジャロは深いため息をついて、空を見上げた。

 そこには大きな、大きな丸い太陽。


 眩しいな、とジャロは思った。


 そして、重たく感じるライフルを持ち上げる。


 子供に標準を合わせ。

 引き金を、――引いた。

 

 だが、子供への弾は放たれる事は無かった。

 

 ジャム。


 今度こそ、力が抜けて果て仰向けに倒れる。

 

 眩しい太陽が優しく感じられる。

 それが幻覚だったとしても。

 

 手を伸ばすと、掴めるような気がした。


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