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ゲヒュール  作者: ルイ
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欲望の断片

「朱音は、私のこと好きか?」


「当たり前じゃん」


「……ありがとう」


その言葉に、嘘はない。


嘘はないのに、どこかが空白のまま残る。

触れたはずの温度が、指のあいだから零れていくみたいに。


けれど――それが何かは、分かっている。


「朱音」


「んー? フクス、今日は何をお強請りするの?」


「……いや」


言いかけて、やめる。

形にしてしまえば、戻れなくなる気がした。


朱音は、いつも通りの顔で笑う。

少しだけ不思議そうで、それでも当たり前みたいに。


「私がどこかに行ったら、どう思う?」


「フクスがそうしたいなら、いいと思うよ」


「止める理由、ないし」


迷いなく、そう言う。


胸のどこかで、何かが静かに折れる。

音はしない。ただ、確かに欠ける。


「……そっか」


「うん」


「私が死んだら、どう思う?」


「面白いこと聞くね」


少しだけ考えて、肩をすくめる。


その“少し”に、期待してしまう自分がいる。

愚かだと知っていても、やめられない。


「大丈夫だよ」


「ちゃんと生きていけるから」


「フクスがいなくても」


――やっぱり。


分かっていたはずの答えが、

改めて形を持って落ちてくる。


逃げ場のない正しさ。


「……あ、でも」


軽く付け足すみたいに、


「たまには思い出すと思うよ」


その一言が、妙にやさしい。


だから余計に、残酷だった。


それで、十分だった。


十分すぎるくらいに。


私の九つの尾には、欲望が分けられている。


快楽。愛情。承認。嫉妬。闘争。支配。プライド。探求。創造。


どれも、ここにある。


あるからこそ――欲してしまう。


本来なら、存在しないはずのものを。


私が死ねば、それらはすべて還る。


そのとき、朱音は――


何を、私に向けるのだろう。


今はまだ、知らなくていい。


知らないままでいい。


……そう思わなければ、保てないだけだ。

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