因縁
「……はぁ。
フクスは討伐できないのか。」
男が机に肘をつきながら呟く。
「無茶を言うな。」
背後のゲヒュールが低く答えた。
「殺せるなら、とっくに殺している。」
男は肩をすくめる。
「……まぁ、そうか。」
少し沈黙が流れる。
ゲヒュールが牙を剥いた。
「奴は――我等が最も好む感情を喰った。」
「“欲望”だ。」
「全部だ。」
男はぼんやりと聞いている。
「……そんなに大事なのか?」
ゲヒュールの目が細くなる。
「人間にとっては違うかもしれん。」
「だが我等にとっては違う。」
「欲望は最も濃く、最も甘い感情だ。」
声に明らかな怒りが混じる。
「それを奴は――」
「人類全てから奪った。」
男は少し考える。
「……なるほど。」
「それでお前らは怒ってるのか。」
「当然だ。」
ゲヒュールの声は低く震えていた。
「我等の食料を奪い、
我等の愉しみを奪い、
世界から最も美味い感情を消した。」
「奴は異端だ。」
「我等の同族ですらない。」
男は椅子にもたれかかる。
「……まぁ。」
「人間側も困ってるけどな。」
「欲望が無くなってから、技術も進歩しない。」
「取り戻した方がいいんだろう。」
少し間が空く。
男は苦笑する。
「……でも正直。」
「取り戻したいって気持ちはあんまり湧かない。」
ゲヒュールが男を睨む。
「それが欲望を失った人間だ。」
男は肩をすくめた。
「そうかもな。」
「まぁ理屈では必要なんだろう。」
「だから討伐する。」
ゲヒュールの目が細くなる。
「我等は違う。」
「奴を殺す。」
「必ずだ。」




