欲望??
「朱音……」
フクスが静かに呼びかけた。
「なに、フクス?
そんな真剣な顔して。」
朱音は少し首をかしげる。
フクスは少し迷うように視線を落とした。
「朱音は……欲しいものはあるか?」
「欲しいもの?」
朱音は少し考える。
それから、ふっと笑った。
「うーん……フクスがいるから、特にないかな。」
フクスの耳がわずかに動く。
「……私がいなかった頃は?」
「んー……」
朱音はまた少し考えた。
けれどすぐに肩をすくめる。
「考えたことないかな。」
「そうか……」
フクスは小さく息を吐く。
「ん?どうしたの?
別に変じゃないでしょ?」
「朱音は――“欲望”というものを知っているか?」
「よくぼう?」
聞き慣れない言葉に、朱音は首をかしげる。
「なにそれ?」
フクスはしばらく黙ってから言った。
「私が……遠い昔に、人間から奪ったものだ。」
朱音の目が少し丸くなる。
「え?」
「“ああなりたい”
“これが欲しい”
そういう感情だ。」
「……へぇ。」
朱音は少しだけ考える。
それから不思議そうに言った。
「それ、あって何の意味があるの?」
フクスは静かに答える。
「昔は……それがあったから、人間は新しいものを作り続けた。」
「道具も、文化も、文明も。」
「世界は今よりずっと速く変わっていた。」
朱音は少し空を見上げる。
それからぽつりと言った。
「でも、別になくても困らないよね。」
フクスは目を伏せる。
「私は――人間の進化を止めた。」
朱音はしばらく黙っていた。
それから、フクスを見る。
「フクスはさ。」
「私とどうしたいとかあるの?」
フクスが少し驚いた顔をする。
「いつもフクスの方から“抱きしめて”とか言うでしょ。」
「だから聞いてみた。」
「……朱音は?」
「特にないかな。」
朱音は柔らかく笑う。
「フクスが幸せなら、それでいいよ。」
フクスは言葉を失う。
長い沈黙のあと、静かに言った。
「……すまない。」
「朱音。」
「ごめん。」




