フクス
「フクス、出てきていいよ。」
朱音の優しい声に応えるように、
影の中から九尾の獣が姿を現した。
「ごめんね、寂しい思いさせて。
かまってあげたいけど、人目がある場所だとみんなびっくりしちゃうから。」
フクスは嬉しそうに尻尾を揺らす。
「ぎゅー、しよ? 好きでしょ。」
朱音は膝をつき、フクスを優しく抱きしめた。
ふわりと、温かい毛並みが腕の中に広がる。
「……朱音。好き。」
フクスの表情が柔らかく綻ぶ。
「分かってる。私もだよ。」
朱音は、ゲヒュールに好かれる突然変異体だ。
幼い頃は、ゲヒュールに付きまとわれ続けていた。
けれど――フクスと出会ってから、すべてが変わった。
「私を受け入れてくれてありがとう。」
フクスは静かに言う。
「私は朱音の優しさと愛情が好きだ。
匂いだけで分かる。もちろん、大好きな感情だ。食べたりしない。」
朱音はくすっと笑った。
「フクス、私も好き。
ふわふわしてるし、いい匂い。」
「朱音が毎日お風呂で洗ってくれるおかげだ。」
少し誇らしそうに、フクスは尻尾を揺らす。
「今日は遅いし、もう一緒に寝よっか。」
朱音がそう言うと、フクスは一瞬だけ黙った。
「……朱音。
私を、見捨てないでくれるか?」
「ん?」
朱音は首をかしげる。
「不安になっちゃった? 可愛いな。」
そう言って、フクスの頭を優しく撫でた。
「でもね、フクスの方が長生きするから。
心配なのは、むしろ私の方だよ。私がいなくなった後。」
「……。」
フクスは何も言わない。
「遠い未来の話はやめよっか。」
朱音は微笑む。
「私は、今が一番幸せだよ。」
フクスも静かに答えた。
「……私も。」




