最強の意地
フクスの能力――底なしの力。
出力には上限がある。
だが、その内側から力は無尽蔵に溢れ出す。
「数百年前――」
フクスは静かに言う。
「君達が私を追い詰めたのは、私に反撃の意思が無かったからだ」
ヴェーラーは答えない。
――勝ち筋を、知っているからだ。
「朱音!」
カンプフが一瞬で間合いを詰める。
「止まりなさい」
その瞬間、硬直。
わずかな隙。
フクスは迷わない。
喰らう。
――カンプフを、そのまま喰い殺す。
「チッ」
直後。
ルストとノイギーア。
二体同時の連携。
一閃。
フクスの尾が、一本――砕ける。
何かが、解放される。
「……誰の入れ知恵だ?」
一拍。
「いや、いい。見当は付いてる」
心臓ではなく、“尾”。
その事実だけで十分だった。
底なしだった力は、
ただの莫大な力へと変わる。
尾が砕けるたび、
容量が削れていく。
残り九体。
フクスは八本の尾を、すべて攻撃に回す。
分かっている。
狙いは尾だ。
――だからこそ、誘う。
「壊したいんだろう?」
踏み込む。
三本を犠牲に、
すべてを叩き込む。
衝撃。
崩壊。
ヴェーラー全体に大ダメージ。
さらに――
アナーケヌング、ナイトを喰い殺す。
だが、
劣勢。
尾は五本。
ヴェーラーは七体。
削らなければならない。
最低でも三体。
残りは、黒崎達が勝てる領域まで。
フクスは、再び動く。
今度は“殺さない”。
削る。
朱音の命令。
拘束。
回避。
連携。
少しずつ削る。
確実に削る。
だが――
長くは続かない。
二本、砕ける。
残り三本。
フクスは迷わない。
ルスト、ノイギーアへ。
殺しに行く。
だが――
誤算。
削っていたはずだった。
一本は残ると、そう思っていた。
全て、砕ける。
供給は止まる。
力は、尽きる。
「……潮時か」
視線が、一体を捉える。
シェプフング。
踏み込む。
止まらない。
フェアツヴァイフルング。
リーベ。
ヘルシャフト。
シュトルツ。
全ての攻撃を受けながら、
それでも前へ。
反撃しない。
止まらない。
肉が裂ける。
骨が軋む。
それでも、
最後の一歩。
喰らう。
シェプフングを――喰い殺す。
領域が、崩壊する。
現実へ。
四体。
残存。
勝ちを、確信する。
逃げる力は、もう無い。
その時。
「……お疲れ、フクス」
声。
「リンクス、治してやれ」
「……大丈夫だ」
咳き込みながら、フクスが言う。
「もう回復した」
「一体は、殺せる」
「……満月だろう?」
「いや」
黒崎が静かに返す。
「回復、遅いな」
「リンクス。このまま付いてろ」
「黒崎……」
「問題ない。今は深夜だ」
朱音が状況を読む。
「……九割は削ってくれた」
「フェアツヴァイフルングとリーベは任せる」
「神代、雨宮。無茶はするな」
「……ヘルシャフトとシュトルツは七割」
「正直、援護に回る余裕は無い」
静寂。
「元から――単独で倒すつもりです」
「蓮……」
澪は、言葉を飲み込む。
今じゃない。
ここじゃない。
全員生存を賭けた戦いが、
静かに、再開する。




