全面戦争
決戦の日。
夜気が、肌を刺す。
朱音が小さく息を吐く。
「……寒いね。フクス、本当に来るの?」
フクスは答えない。
ただ、静かに力を解放する。
本来の姿。
禍々しい気配が、周囲を満たす。
空気が、歪む。
「……凄」
朱音が呟く。
「でも――来ないね」
「いや」
フクスの視線が、遠くを捉える。
「猛スピードで接近してる」
一拍。
「この反応……シュトルツだね」
そして、
「それと、もう一つ」
目の前。
何もなかった空間が、歪む。
“手”が現れる。
一つ、また一つ。
空間から生え出るように。
それらが重なり、形を成す。
「やぁ」
軽い声。
「何百年振りかな、シェプフング」
わずかに笑う。
「いいからさ、お得意の領域――作れよ」
「逃がしたくないだろう?」
シェプフングは無言で手を合わせる。
開く。
その瞬間、世界が切り替わる。
領域が展開された。
閉じた空間。
逃げ場はない。
巻き込まれもしない。
「……二体しかいないの?」
朱音が呟く。
「呼べよ」
フクスが淡々と言う。
「勝ち目、無いの分かってるだろ」
次の瞬間。
領域内に、無数の“手”が生まれる。
八つ。
そして、
残りのヴェーラーが、引きずり出されるように現れる。
「皆、久しぶり」
軽い声。
「本当はゆっくり話したいんだけどさ」
視線が細くなる。
「……その様子じゃ、無理そうだね」
「フェアツヴァイフルング」
一歩、踏み出す。
「初対面だね」
笑う。
「悪いけど――嫌いなんだ」
「最初に殺す」
朱音が震える。
「……フクス」
声が揺れる。
「よく、そんなに普通に話せるね」
「仕方ないよ」
フクスは視線を外さない。
「ヴェーラーが強いのは“偏食種だから”じゃない」
「千年前から居る存在だからだ」
「……誰も、倒せなかった」
十の影が動く。
同時に、攻撃が走る。
「あーあ」
フクスが小さく息を吐く。
「最後に少し話でもしようと思ったのに」
牙が閃く。
尾が空間を裂く。
「君達のね」
次の瞬間。
すべてを迎え撃つ。
「私はね」
静かに、言う。
「君達が生まれる遥か昔――五千年前から居る」
「ゲヒュールを喰い荒らして」
「人間の欲望を膨れ上げて」
「何度も戦争を起こしてきた」
わずかに笑う。
「……十体」
「それで勝てると思った?」
朱音は分かっていた。
――強がりだ。
この戦闘での生存率は、一割もない。
確かにダメージは入っている。
だが。
それはフクスにも同じこと。
ヴェーラー達は退かない。
回避しない。
フクスの攻撃を、
真正面から迎え撃っている。
削り合い。
終わりの見えない戦い。
そして――
互いの生存を賭けた戦いが、始まる。




