黒崎迅の過去
弱かった。
弱いくせに、人に優しくした。
高校では、虐められていたやつを庇った。
当然みたいに、次は自分が標的になった。
――それはいい。
でも。
庇ったはずの人間まで、同じ側に回った。
理由は分からない。
いや、考えないようにしていたのかもしれない。
気づけば、虐めは無くなっていた。
ただ、記憶がところどころ抜け落ちている。
周りの様子もおかしかった。
避けられている。
理由も分からないまま、いつものように接した。
優しくしてみた。
引きつった笑いで礼を言われた。
――何も分からない。
その頃からだ。
自分なんか、いなければいいと思い始めたのは。
そんな時、声がした。
要らないなら、喰わせろ、と。
どうでもよくなって、了承した。
それから、何かが変わった。
理由もなく暴力を振るう。
それが、妙に心地よかった。
気づけば、猫又がいた。
自分が半殺しにした人間を、治している。
リンクス。
名前は、適当に付けた。
毎日、殴った。
リンクスを。
殴って、殴って、気が済むまで。
どれだけ傷つけても、あいつは治る。
ある日、リンクスが腕に触れた。
反抗するのかと思った。
違った。
俺の拳を、治し始めた。
どうでもよくなった。
その日から、リンクスを殴るのはやめた。
代わりに、夜に人を殺して回った。
気分が良かった。
ある日、捕まった。
証拠不十分。
殺人未遂の疑い。
――殺人未遂?
そこで理解した。
リンクスが、治していたのだ。
あいつは、全部。
自分がやったと自白した。
庇われていた事実が、気に入らなかった。
そこで、話が持ちかけられた。
その凶暴な人格を、ゲヒュールに喰わせろ。
代わりに不起訴にする。
犯罪抑制に従事しろ、と。
断るつもりだった。
だが、リンクスを見た。
あいつは、何も言わなかった。
それでも――分かった。
償うべきだと。
あいつの為にも。
レヒツが生まれた。
その日から、感情が薄くなった。
仕事をする日々。
人を観察して、
“それっぽい感情”を真似る。
それが、続いた。
「……よく寝たな」
小さく息を吐く。
夢を見ていた気がする。
内容は、思い出せない。
今日は満月だ。
決戦の日。
「特訓の成果も、俺以外は出てるしな」
軽く肩を回す。
「頑張ってくれよ、皆」




