回避する未来
「……という夢を見た。もちろん妄想じゃない、予知だ」
短く言い切る。
朱音と澪は、同時に目を逸らした。
頬がわずかに赤い。
自分が壊れた先の姿を、突きつけられた気分だった。
「決戦の日は分からないと言ったが――こちらから決めさせてもらう」
一拍。
「次の満月の夜だ。黒崎迅が最も力を発揮する」
「え? それ矛盾してない? 分からないのに決めるって」
「矛盾していない」
淡々と返す。
「私が力を解放する。欲望を孕んだ力に、ヴェーラーは引き寄せられる」
視線が細くなる。
「誘いだと分かっていても、乗るしかない」
一拍置いて、言い切る。
「特にシュトルツ――プライドの偏食種だ。あれが乗らないはずがない」
「単独で動かれ、あれが敗れれば、向こうの勝率は激減する。だから来る」
静かな確信だった。
「……それで、勝てるの?」
「今のままでは無理だ」
即答。
「朱音は魅了の精度と出力を上げろ。潜在能力的には、一瞬なら命令を通せる」
「……分かった」
「神代と雨宮。君たちの相手は削っておくが、それでも戦力としては頭数に過ぎない」
空気が張り詰める。
「前のようにレヒツ単体ではなく、黒崎迅と二人がかりで同等に並べなければ論外だ」
逃げ場のない基準。
「しばらくは黒崎迅と特訓していろ」
「……分かりました」
「確定ではないが、八割の確率で――残るのはフェアツヴァイフルング、リーベ、ヘルシャフト、シュトルツ」
「連携は?」
「不要だ」
即答。
「私と黒崎迅にとっては邪魔にしかならない」
「雨宮は神代と組め。フェアツヴァイフルングとリーベを抑えろ」
「あ……私、リーベと同化するんですよね」
「ほぼ確実にな」
わずかに視線を逸らす。
「多少、魅了体質になる程度だ。……話し合えよ」
その一言に、澪の顔が一気に赤くなる。
「私と朱音はヘルシャフトを受ける。満身創痍だが、私でなければ全員あれにやられる」
「……問題はシュトルツだ」
「満月の夜ですよね? 何が問題なんですか?」
「単純に強い」
一切の誇張なく。
「ヴェーラーの中で最強だ。フェアツヴァイフルングの三倍は見ていい」
「リンクスも私の治癒に回る。夜のレヒツでも厳しいだろう」
沈黙。
「……フェアツヴァイフルングがまた逃げる可能性は?」
「ない」
即答。
「奴は君たちを舐めている。逃げた存在としてな」
一拍。
「殺した後に退くことはあっても、来ない理由にはならない」
空気が重く落ちる。
そして、ふっと力を抜くように言う。
「……まあ、あの未来。神代と雨宮は、とても幸せそうではあったな」
軽く肩をすくめる。
「ある意味、ハッピーエンドだ」
「やります」
間を置かず、澪が言う。
「やります、やります、やります!」
反射的に、言葉が溢れていた。




