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ゲヒュール  作者: ルイ
28/56

まだマシな未来ニ

「あのさ、フクス。抱きしめてあげる」

朱音は軽い調子で言う。

「私がいて、幸せでしょ?」

ふっと笑ってから、少しだけ首を傾げた。

「あ……そっか。答えられないか」

視線を落とす。

「猿轡に目隠し、手足も縛ってるもんねぇ」

それでも、どこか楽しげに続ける。

「でも分かるよ。嬉しそうなの、伝わってくる」

一拍。

「……全員、生きて帰れただけ奇跡か」

軽く呟く。

「雨宮さんはリーベと同化して、魅了体質になったし」

「神代くんは危険な役割だったからね。右腕を失って、腰から下は動かない」

少しだけ間を置く。

「黒崎も……瀕死のまま眠ってる」

視線が、ほんの少しだけ揺れる。

「……良いんだか、悪いんだか」

小さく息を吐く。

「フクスの尻尾も全部壊れて、欲望は解き放たれたし」

「世界はちょっと混乱してるけど……まぁ、そのうち慣れるでしょ」

ふと、思い出したように顔を上げる。

「あ、放置してた」

くすっと笑う。

「可愛がってほしいよね、フクスは」

一歩、近づく。

「じゃあ今日は――」

腕を回す。

「このまま抱きしめて、ずっと魅了してあげる」

耳元で囁く。

「私しか考えられなくて、嬉しいよね」

少しだけ間。

「……ん?」

顔を覗き込む。

「何か言いたげだね」

指先が動く。

「猿轡、外してあげる」

布が外れる。

息が、わずかにこぼれる。

「朱音……気を使わなくていい」

低く、静かな声。

朱音の表情が止まる。

「何が?」

短く返す。

「私だけ、罪悪感から逃げるわけにはいかない」

淡々と続く。

「朱音が三人を大事に思っていたことも、巻き込んだ責任を感じていることも知っている」

一拍。

「……毎日、隠れて泣いているだろう」

「うるさい」

即座に遮る。

だが声は、わずかに揺れていた。

「無理に誤魔化さなくていい」

「朱音も内臓を損傷している。少しでも長く生きるために、入院すべきだ」

「無駄だって」

食い気味に返す。

「奴らの攻撃は格が違う……だからリンクスでも治せなかったんでしょ」

沈黙。

フクスは静かに続ける。

「今も、痛みに耐えるので精一杯だろう」

「魅了も、万全ではない」

言葉が、静かに刺さる。

「……何が正解だったんだろうね」

ぽつりと、零れる。

フクスは少しだけ目を伏せた。

「分からない」

短く。

「だが――これが最善だったとは、私も思えない」

「それでも……まだ“マシな未来”なのだろう」

沈黙が落ちる。

「……」

言葉にならない音。

フクスが、わずかに視線を向ける。

「目隠しをしていても分かる」

静かに言う。

「さっきから、ずっと泣いている」

一拍。

「見られたくないから、付けたのだろう」

「……フクス」

声が崩れる。

「どうしたら良かったんだろう……分かってたよ、ヴェーラーの強さくらい」

「朱音は何も悪くない」

即座に返す。

「すべて、私の責任にしていい」

「違う!」

強く否定する。

「私が巻き込んだの」

息が震える。

「フクスの生存率を少しでも上げたくて……死んでほしくなくて」

言葉が途切れる。

「……今日はもう寝よう」

フクスが、静かに言う。

「うん……」

弱く頷く。

そのまま、力が抜けるように寄りかかる。

――夜。

フクスは、何も言わない。

ただ、残った力で尾を動かし、

泣き続ける朱音の体を、そっと包み続けた。

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