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ゲヒュール  作者: ルイ
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澪の決断

「あぁ……どうしよー」


黒崎が頭を掻きながら嘆く。


その様子を見て、朱音も小さくため息をついた。


自分も今日、雨宮から話を聞いていたことを思い出す。


お互いの言い分は分かる。だからこそ厄介だった。


「正直、あの二人いないとキツいって」


黒崎が本音を漏らす。


フクスはどこか満足げに頷いた。


「愛情が芽生えたな。良いことだ」


朱音は肩をすくめる。


「神代くんも言い過ぎじゃない? 雨宮さんの言い分、別に間違ってないし」


黒崎も同意するように続けた。


「あいつ責任感強いからな。自分のせいじゃないことまで背負い込む」


一瞬の間。


「……で、どうする?」


結論は決まっていた。


「出来れば、討伐に参加してほしい」


黒崎の言葉に、朱音は即座に返す。


「いや、あなたが頑張れば済む話でしょ」


「満月の夜限定だって言ってんだろ。追い詰めたって言ってもな」


じとっとした視線が刺さる。


「散々“諦めろ”って言ってたくせに」


「それは……まぁ……そうだけど」


言葉に詰まりながらも、黒崎は続ける。


「でも、フェアツヴァイフルングを殺し損ねたら、あの二人は確実に死ぬ」


朱音はあっさり頷いた。


「それは同感。だから神代くんも“殺すしかない”って言ってるわけだし」


黒崎はフクスに視線を向ける。


「お前があいつを殺す未来はあるのか?」


フクスは少し考え、首を横に振った。


「……どの未来でも、フェアツヴァイフルングは残る」


「最悪の未来を掴み取る能力の影響だ」


沈黙が落ちる。


「……詰みじゃね?」


黒崎の呟きに、朱音が軽く口を開く。


「じゃあ条件変えるしかないでしょ」


フクスへ視線を向ける。


「あの二人が参加した場合の生存率は?」


「神代が二割、雨宮が四割、黒崎が五割」


「参加しなかったら?」


「黒崎の生存率がゼロになる」


一瞬の間。


「ごめん黒崎、生贄になって」


「今の聞いてそれ言ったん!?」


朱音は気にせず続ける。


「私たちも一割だし。どうせなら道連れにしてよ、それで解決」


「やだ!」


軽い応酬。


だが空気は重いままだった。


朱音はふと視線を横に向ける。


「ねぇ、そう思うよね。雨宮さん」


気配を隠していたはずの影が、静かに揺れる。


「……聞いてたのか」


黒崎の言葉に、澪は小さく頷いた。


「はい」


黒崎は少しだけ迷い、ぼそりと呟く。


「……なぁ、俺も参加しないとダメか?」


「しなさいよ」


即答だった。


澪は二人を見て、小さく問いかける。


「……怖くないんですか」


黒崎は苦笑する。


「普通に怖いけどな」


朱音も同じだった。


「まぁ、怖くないって言ったら嘘になるわね」


澪は視線を落とす。


「……私だけ参加するっていうのは」


「神代くんが許さないでしょ」


「同感だな」


フクスが静かに続ける。


「その場合、黒崎と雨宮の生存率は共にゼロだ」


朱音が小さく呟く。


「……やっぱり崩壊タッチが決め手なのね」


沈黙。


やがて澪が口を開く。


「……私は、蓮のことが好きです」


静かな声だった。


「二人が死ぬとしても、蓮が生きてくれれば……」


言葉が揺れる。


「……ごめんなさい」


その言葉に、朱音は軽く笑う。


「だってさ、黒崎。頑張ってよ」


黒崎はため息をついた。


「まぁな、言いたいことは分かる」


視線を上げる。


「けど、取り逃がしたら終わりだ。あの二人は確実に死ぬ」


そして、続ける。


「俺たちは気づいてる」


一拍。


「神代と雨宮、二人にマーキングが付いてる」


空気が変わる。


「しかも、それは消せない」


澪の表情がわずかに固まる。


「……じゃあ」


言葉が漏れる。


「偶然じゃなかったんですか」


黒崎は軽く肩をすくめた。


「あの時、近くにいたの」


少しだけ笑う。


「まぁねぇー」


沈黙。


その言葉の意味が、ゆっくりと澪の中に落ちていく。


逃げても無駄。


どこに行っても、来る。


終わらない。


澪は一度、目を閉じた。


そして、開く。


「……殺すしか、ないんですね」


誰に向けたわけでもない問い。


だが答えは決まっていた。


「そうだね」


短い肯定。


澪は小さく息を吸う。


「……なら」


顔を上げる。


「生き残るなら――全員で、です」


その言葉に、黒崎が少しだけ笑った。


「言うじゃん」


軽く肩を回す。


「……覚悟、決めたか」


澪はまっすぐ頷いた。


「はい」


その一言は、もう揺れていなかった。

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